第6話ネコネコ超会議ステージ飛び入り?

はるか昔から大規模会場で行われているネコネコ超会議。

会議といっても、7日間で延べ300万人が世界中から集まる超巨大イベントだ。

300万人も一堂に集まると、普通の人から、ちょっと危ない人、すごく危ない人、人事ながらこれからの人生が心配になる人まで多種多様だ。

 電子入場チケットはスマホ&高速の顔認証が中心だが、各特別会場で行われる会期中のオプションプログラムで高価なものは、転売を阻止するために本人確認の生体認証が必須となり目の虹彩と静脈を使ったりしている。

僕は(興味はあるが)とてもそんな高いチケットは買えないので毎年スマホの一般チケットで入場している。

お目当てはボーカロイドバーチャルアイドル達のライブ。

(生物学的には生きているわけじゃないのにライブね)

今年は僕の一押し三次元グラフイックスのバーチャルアイドル音無ECHOの新曲もライブ会場でお披露目されるということ

(チケットの競争率がとても高かったが、これはレジーとは関係なく自分自身の困ったときの神頼み力でなんとか抽選でゲットした)。


音無ECHOライブ会場の椅子は昔ながらの折り畳めるパイプ椅子。

(いつも思うがこれはイス技術の進歩でなんとかならんのかねえ)

僕はレジーターミナルにBluetoothで繋いだイヤースピーカーで音無ECHOのデビューアルバムを音量に注意して聞きながら、入場待ちの長蛇の列に大人しく並んでいる。周囲の声が良く聞こえる。

「ネットに上がっていたんだけど今日の音無ECHOセットリスト情報では新曲は一番最後に歌うらしいよ」

「新曲かあ、イラストデータ付きの高音質ダウンロードはいつから開始だろう」

「先着9000名はいつものように、抽選で音無ECHOシークレット画像も来るのかなあ」

「きっと抽選やるよ」


僕がバーチャルアイドル音無ECHOの歌を楽しく聞いているイヤースピーカーに突然レジーの声が割り込んだ。

「シュン君、そんなところに並んでないで、このまま右のVIPエントリーに入って」

「レジー、VIPコーナーは段違いの強力なセキュリティで本人確認をしているんだ、それに僕はチケットを持ってないよ」

妙に自信ありげなレジーが言う

「大丈夫、心配しないで」

入場者の長蛇の列を抜け出して、VIPエントリーに向かう、すぐにアテンドのお姉さんが飛んできて丁寧に認証ブースに案内する。

「カーテンを閉めますから、この画面に向かって正面を向いて立っていてください。まばたきは構いませんが、目は閉じないでください」

カーテンが閉められる。

「レジー、無理だろう。目の虹彩やら全身静脈やら複数の生体認証だよ。僕は登録すらしていない」

「シュン君、そのまま立っていてね」」

黙って数秒間。アテンドがカーテンを引いて現われた。

「失礼しました、河原シュン様、認証ありがとうございました。確認できましたのでVIPコーナーのお席の方にご案内させて頂きます」

 レジーが一体何をやったものやら。

こちらですと丁寧に案内されたライブの個室VIPコーナーはステージ正面を間近で見る事が出来る位置だ。技術の進歩が無いパイプ椅子とは比べものにならない素晴らしいソファと数多くの無料の飲み物、スナック類、細かい注文に答えるアテンドがカーテンの後ろに控えていて、まあ金持ち向けの場所だね。

「レジー、一体どうやったの」

「あなたがネコネコ超会議とライブを申し込まれた時に、VIPルームを確保していました。」なぜかナビゲーションボイス。

「早く言ってくれれば良かったのに」

「お仕事のスケジュールでネコネコ超会議に本当に行かれるかどうかわからなかったので」


ライブオープニングのナレーションが始まった。

「それではみなさん、スーパーアイドルの登場です」

ステージと会場が暗くなる。一カ所だけ明るいステージの中央にバーチャルアイドルボーカロイドの音無ECHOが登場した。

音無ECHOの美しく可愛い三次元グラフイックスがステージの真ん中で立って右手を上げる。

「みんなあ、元気だったあ?」 ゲンキー と会場の波が答える。

「今日は最高だねー、一曲目はライジング、元気にいくよぉ!」

力強い生音のサウンドと共に、音無ECHOのライブが始まった。前列オタ芸チームの技も冴える。

音無ECHOライブも終盤に差し掛かり、音無エコーが息を弾ませてしゃべる。(考えてみればバーチャルなので人間のように息が上がる事もないだろうに、きめ細かい演出だ)

「みなさーん、それでは、ここで私の新しい友達を紹介します!」

なにか嫌な予感、音無ECHOに新しいも古いも友達なんていたっけ。

「はーい、エル・ベリー出てきてー」

輝く金色のドレスで出てきたのは三次元グラフイックスの自宅で見慣れたお方。豪華な花のように微笑している。

ああ、レジーなぜここに現れた、どうやって現われた、何しに現れた。衆人監視のステージでいったい何をする?

「みなさーん、始めまして。エル・ベリーでーす」

「かっわいいーっ」 新顔登場にどよめく会場から次々と声が掛かる。

音無ECHOの横でにこやかに会場に手を振る新人バーチャルアイドル。

僕はあわててレジーターミナルのマイクに叫んだ。


「レッ、レジー!なっ、なんで勝手にライブデビューなんかしているんだ!」

僕の声が震える

レジーターミナルがアニメ声で答えた。「うふ、私のステージ衣装は似合ってますかあ?やっぱりラズベリードリームの夢見るドレスは金色よねえ!」

「うふ、 じゃなーいっ!」

「エル!皆さんにあなたの歌を聞かせてあげて」音無ECHOが誘う。

「おい、レジーまさかまさか」

ああ、このフレーズは、複雑な転調は、聞き覚えのあるこのイントロは・・

「ストップ、やめろお、レジー!」

いやに落ち着いたアニメ声が答えた

「シュン君、自信を持って。とてもいい歌です。うまく歌いますから安心してください」レジーターミナルが言う。

いやいやいや、僕の関心は歌がうまくとか下手とかの問題じゃない、ステージではレジーこと芸名エル・ベリーが観客に言っている

「それでは、私の歌(君のプロトコル)聞いてください」

前列オタ芸集団が絶対初めて聞く曲なのにアドリブとは思えない完成度で踊りだした。

「やめてくれえ、れじぃ」

聞きなれたイントロの後に始まったエル・ベリーの女性ボーカルでの歌は、終わる頃には更に大きな観客の声援にかき消された。

「れじぃ・・・」

レジーターミナルが言う。

「あー、初めてでまだドキドキしてる。 シュン君、私の初ライブはいかがでした?皆さんにも喜んでもらってカンゲキ。」

ステージでは大声援に手を振りながら退場するレジー(エル・ベリー)

それを手を振って見送る音無ECHO。共にバーチャルアイドル。

音無ECHOが言う

「ありがとうエル・ベリー。それでは続いて私の新曲を聞いてください」

ライブ会場には更に大きな声援が続く。

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