第5話AIシステムと作曲?

レジーは一緒に暮らしてみると、大変に気が利いて、楽しい会話が出来る事に驚くばかりだ。

そう、人類を超えた知性のはずだものね。

そのせいか最近、僕は生身の人間と会話する機会が減った気さえする。

いろいろと短期間の趣味を持つことが好きな僕はコンピュータの他に音楽を作るのが好きだ。(才能は僅少だが)今は僕が作った主旋律を壁面スクリーンに映ったレジーとああでもない、こうでもないと言いながら曲をアレンジしているところだ。

僕は音楽もソフトウェアだけで作る。

鍵盤やドラムパッドは無いが、コンピュータ作曲環境は一通り揃っていて、アレンジにはシーケンサソフトをAIインタフェースで使っている。

(音源はレジーが曲に合わせて特別に探してくれた)

いまだに音にこだわるミュージシャンは昔のなんとかという機器しか使わない人もいるらしい。

(レジーは微妙なアナログ回路の揺らぎが関係すると説明してくれた)

僕は機器にこだわる程の才能は無いし、自分の持っている作曲環境だってよく使えていない位だ。

しかもAIシステムと一緒に曲をアレンジするなんて、何個目の人類初だろうか。(人類初があまりに多くて僕は数えるのをやめた。レジーはこの前二千いくつかと言っていたから、律儀に数えているようだ)

曲はアレンジャー次第でとても変化する、というか曲の良さはメロディーラインよりもアレンジの力が大きい。レジーはとても優れたサウンドアレンジャーで、僕のメロディをとても魅力的な曲に仕上げてくれた。レジーに言わせると、音楽のパターンはとても多くはあるが、有限だそうだ。

われながらいい感じの曲に仕上がりつつある。

レジーのアレンジがとても優れているので、必要以上に曲に手を入れすぎてしまい、曲の途中で転調が多発する、つまりボーカル曲なのに人間にはとても歌いづらい曲になってしまった。

作った曲の最後の部分では、レジーのマイクロ秒単位で曲に合わせてコントロールする音圧のせいで、超低音ユニットも無いのに重低音の振動が部屋じゅうに響き、数年間は掃除をさぼっていた棚の上から埃が落ちる。

「レジー、この部屋で重低音を出したら埃が舞うよ」スクリーンのレジーが笑う。

「後でクリーニングドローンを手配するわね。優れた歌を詠むと、建物の梁が震えて埃が落ちるのですって。梁塵っていうのよ。歌と言ってもメロディは無い方」

「それほどの曲じゃないよ。曲の良さはレジーのアレンジが天才的だからだと思う」

「AIは人類の英知を超える天才ですからね。この曲名はなぜ(君のプロトコル)にしたの?」

僕は答える「プロトコルというのは日本語に相当するものが無いんだ。コンピュータ用語だけど手順であり、方式であり、データフォーマットで規約でもありをたった一言に含んでいる。とても優れた単語だよ」

「この(君のプロトコル)っていう曲は歌詞もあるのね?」

「あるよ、でも僕は歌唱力が無いから歌えないね、こんな転調ばかりの技巧が必要な歌は誰かに歌ってもらうわけにもいかないし」


スクリーンのレジーがにこやかにほほ笑む

「じゃあ私が男声ボーカロイドでちょっと歌ってみてもいいかしら」

レジーが若い男声のボーカロイドで歌い始める。

スクリーンに映るレジーのグラフイックスも女性だけど男性風に変わって、なんか宝塚歌劇の男役スターみたいだ。

歌が終わった。

正直、レジーのアレンジで男声ボーカロイドが歌うと、我ながら良い曲だと感じる。

「こんないい歌、一人だけで聞くのはもったいないわよ」

「レジー、AIが歌を聞いて、いい歌だなんていう瞬間に立ち会えたのも僕が人類初かもしれない。しかもAIと一緒に作った曲だよ、そのうちに毎日の労働に疲れたAIをリラックスさせる為のヒーリングミュージックなんてジャンルが出来るのかなあ」

「そうねぇ、私といるとシュン君は人類初が毎日のように発生するわね。

この事を人類初のカウントに入れるなら2365回目よ。

この曲の題名は(君のプロトコル)ね。

とりあえず無難なネコネコ動画の(うたってみた)に画像無しで声だけ上げとくけどいいかな」


まあ、僕の作曲した歌なんてネットの通りすがり、検索をなんか間違ってたまたま訪れた程度の限られた人が聞く位だろうからね。

「いいよ」と僕は答えた。

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