第4話AIと初めてのデート
レジーの画像はよく古典アニメの女の子がやるように、右手の人差し指を立てて言う。
「それでは、お互いをもっと良く知る為、街にデートへ出かけましょう」
「なん! 」僕は次の言葉が出ない。
「何か問題でもありぃ?」 レジーが無邪気な声で聞く。
「レジー、君の実体は大きくて巨大なネットワークとデータセンタの雲の中だ。
デートといっても、本当に雲をつかむような話で・・どのようにデートするんだ、CPUだけ集めても数トンはあるだろうし」
「まっ、体重の事を言うなんて失礼ね! 私は街角の監視カメラドローン、自動ドアコントローラ、自動運転車、あらゆるところに接続されているので、シュン君はいつものようにこのレジータミナルを持って私と会話しながら外を歩くだけでいいのよ。私はこのレジーターミナル経由であなたとお話しするから」
アニメ声が、美少女戦闘キャラが敵に向かって突っ込む時のあの声が響いた
「さあ、行くわよお!」
言われるままにレジーターミナルをバックパックに入れて、スピーカーフォンをBluetooth接続する。マンションを出て歩く。
不思議な事に、僕の歩く先の信号機は僕の歩調に合わせて次々と青に変わる。「レジー、この信号は君が操作しているのか?」
「はあい、交通管制システムはラズベリーAIインタフェースで動いてまあす。
赤信号で立ち止まったら貴方が不思議な話をぶつぶつ言う、不思議ちゃんに思われるでしょ」
こっちは不思議な体験中の不思議ちゃんだいっ!
「さあ、どこに行きましょう?」
「どこって、AIシステムとのデートなんてやった事が無いからなあ。どこに行けば良いのやら。やっぱり電気屋とかかな?」
「それは、人類であなたが初めて直面した問題シリーズの二番目ね。
さっき、わたしが水を飲むのを止めたせいでシュン君の体液浸透圧が変化しています。何か飲んだほうがいいよぉ」
行きつけのスターバックスコーヒー箕輪中央店。運よく空いた窓際のソファを確保して、スパイスコーヒー、頭をはっきりさせるためにガラムマサラ風味を飲む。
今日はラズベリーパイを注文されないのですか?と顔なじみの黒エプロン(ファイブスター!) が親切に聞いてくれたのだが、今日だけはラズベリーパイはやめとくと答えた。
「お味はいかが」とレジーが聞く。う、なぜかガラムマサラコーヒーがいつもより、もっと美味しい気がする。
「コーヒーマシンは抽出の温度コントロールにAIインタフェースを使っていたので、あなたのスパイスコーヒーは特別に温度をきめ細かく調整したレジーオリジナルのガラムマサラコーヒーよ、私ってなかなか使えるでしょ!」
いや、別に僕は普通のスパイスコーヒーでいいから、とは言えなかった。
「それでシュン君。この状況になにか戸惑っているように見えるけど」
「人類8500億分のイチの経験だからね。とても戸惑うよ」
「じゃ少し経緯を説明するね。きっかけはあなたの作ったAIインタフェースプログラムなの。こういうアルゴリズムのAI中枢接続は私も初めてで、なぜかシュン君を個人として認識?意識してしまったのね」
「こういうことは君と話している間だけなのかい」
「いいえ、きっかけって言ったでしょ!ラズベリーAIシステム本体の私があなたを意識したから、配下のAIインタフェースは同じようにあなたを認識しているわ 例えば今足元のフロアクリーナーロボットを見て」
確かに店内のカーペットを客の邪魔にならないように掃除している円形のフロアクリーナーロボットが僕の足元にいた。
「シュン君、クリーナーロボットになにか話してみて」
フロアクリーナーロボットに話す?なんのこっちゃいと思いながらレジーに言われるがまま足元のロボットに話しかける。(あたりを見回して)
「初めまして、フロアクリーナーロボットさん。いつもお掃除ごくろうさま」他の客が見ていたらなんと思うか。何か見てはいけないものを見たように忘れようとするかな。
驚いた事にフロアクリーナーロボットが返事した。
(ロボットは音声回路を持っていないからレジーターミナルを通してだが)
「河原シュン様、いつもご贔屓頂き有難うございます」
頭に相当する部分があればお辞儀をしただろう。単なる機械と思っていたフロアクリーナーロボットが僕を認識してしゃべるなんて。
「どうシュン君?驚いた?世の中ワンダーランドでしょ」
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