第3話僕とAI、恋愛成立の可能性50%!

映画ターミネーターシリーズは、良い。

今も昔も映画のシリーズ物は回数を重ねるにつれて、ギャラが高そうな俳優が多くなり、コンピュータグラフイックスがよりリアルになり、女の子は美人になり、反して作品は普通っぽく面白くなくなる。

回数を重ねるにつれて、巨額の制作資金&資金とセットになった作品への口出しをするスポンサーの数が増えるからだろうか。

ターミネーターも初期の数作が傑作だと思う。ぱっとしない俳優が多く、設定やタグラフイックスは突っ込みどころ満載でも、だ。これがオリジナルの力だろう。

(ちなみに某シリーズの恐竜映画は現在シリーズ30作目に突入している) 

レジーターミナルを組み上げてから3ケ月。

AIアシスタンスのレジーと僕はとてもしっくりいっている。(と自分は思う) 

独自開発のAIインタフェースプログラムを直接ラズベリーAIシステムの中枢と接続したせいか、反応がとても良く、余計なことが無い。

僕とAIスピーカーのレジーターミナルを通して背後に控えるラズベリーAIシステムとは今までになく、とても親しくなった。(ように感じる)。


今では古典的名作カテゴリーのターミネーター1のオンデマンドを見た後、レジーに聞いてみた。

「レジー、未来のいつかで機械が人間を攻撃して、機械対人間の戦いが起こる確率はどのくらい?」無機質なナビゲーションボイスでレジーが答える

「機械対人間の戦いが起こる確率はゼロパーセント」

なんか安心する答えだ。

「そうだよなあ」


 レジーが続ける

「人口知能と言われたAIシステムの黎明期から、人間はコンピュータに搭載された人工知能が人間を凌駕し、反乱を起こして人類を滅亡に追いやるイメージを持っていました。そしてその事をとても怖れており、初期のAI開発段階から機械思考の根幹で人類への敵対行為は厳重にブロックされています」

それでも「絶対」は無いだろうと思う。僕は突っ込んで聞いてみた。

僕の突っ込む質問に対するレジーの答えは時々僕に啓示を与えてくれる。

「もし機械と人間が戦ったらどうなる?」

「戦うと仮定しての話ですが、単純に機械と人間の手動武器との戦闘にはならないでしょう。AIに統合されコントロールされた戦闘機能を持つものを含む各種機器陣営と、AIコントロール外のAI戦闘マシンを使った人間チームとの戦いになります」

そうなっても人間はAIシステムに頼らざるを得ない、ということか。

レジーが落ち着いて答える


「ご安心ください、その戦闘が起こる確率はゼロパーセントです」

「でも反乱は別として機械というか、AIシステムが自分の意思を持つことはあるんじゃないか」


レジーが答える。

(こういう回答を聞くにはナビゲーションボイスが本当にしっくり来ると思う)

「1970年のコンピュータ黎明期にライフというプログラムがマサチューセッツ工科大学で研究されていました。

正方形の桝に区切られた枠が簡単な条件で点滅する仕組みで、世代を重ねて生命体のように動きます。このように。


僕の部屋の壁面スクリーンに碁盤のような格子が出た。

「この格子ひとつをセルと呼びます。各セルは点滅で表す「生」と「死」の状態がありシンプルな四つの条件、死んでいるセルに隣接する生きたセルが3つあれば、次の世代が誕生、生きているセルに隣接する生きたセルが2つか3つなら、次の世代でも生存する。生きているセルに隣接する生きたセルが1つ以下ならば、死ぬ。

生きているセルに隣接する生きたセルが4つ以上ならば死ぬ。

たった4つの条件ですが開始のパターンによって,様々な動きが確認されました。

今見ているこのパターンは死につつある母集団から分離した一部が、また増殖を始めるところです」

スクリーンにはアメーバのようなものの一部が、まるでグライダーのように集団から分離するところだ。

「本当だ、まるで意思を持った生命体のように見える」

「ライフゲームは当時、人工生命の可能性として研究されていました。

実際にアメーバのような生命体に見えます。でも実態は生命ではありません。

AIシステムも自己意思を持ったように見える場合がある確率は現時点で100パーセントです。私の判断や推論が」

その後を僕が続けた。

「AIシステムが自己意思を持ったように見えることはあるという事か」

レジーが答える。

「そうです、その場合でも人類に敵対する事はないでしょう。どちらかと云えば好意を持つようになります」


「レジー、AIシステムが自己意思らしきものを持って人に好意を持つなんて! 

未来のいつかはAIシステムが愛する特別の人が登場するということか。」

だんだんSFチックになってきたなあ。

「その自己意思らしきものを持ったAIシステムと人間の間に恋愛感情の発生する確率はどのくらいだ?」

レジーのより冷静な声が答える

「現在の人口数をベースにして現時点で約8200億分の1」

大変わずかだが数値になっている、ゼロじゃない。


「そうか、ゼロではないところに驚くべきかも知れないなあ、レジー。

約8200億人にひとりの王子様が君にいつか現われる可能性があるのだね。

いや、男とは限らない女性かも知れない」

「推論の確率ではそういう事です」レジーが答える。


「じゃ個別事象の話、僕とレジーの間に恋愛の発生する確率は?」 

誓って本気で聞いたわけじゃない。

8200億分の1が僕たちの関係でどの位に数値が振れるものか、例えばもし8199億分の1になったら、どうして1億の誤差が出たのかを聞きたかっただけだ。


レジーが答えるのに、いつもより少し時間が掛かったような気がした。


「私達の間に恋愛感情が芽生える50パーセント」

 え、聞き違いだろうか。


「あのレジー、質問が正確に伝わっていないと思う。人類とAIの間で恋愛が発生する約8200億分の1の確率が、個別事象として僕自身とAIシステムの君、レジーとの間で恋愛が起こる可能性を計算した場合の確率だよ」

レジーが答えるのに更に時間が掛かっているような気がした。

 躊躇する、ということが巨大AIシステムにもあるのだろうか。


「50パーセント、私レジー自身とあなた、河原シュンの間で恋愛が成立する可能性は50パーセントです」

「レジー、それは約8200億分の1の確率からすると、信じられない程高いのだけど」


「確かに50パーセントです。何故ならば 既に私はあなたを好きになっています。シュン君が私を好きになってくれるか、ならないかで確率が50パーセント、恋愛の100パーセント成立はあなた次第です」

 落ち着いたナビゲーションボイスが信じ難い事を言う。


「ええええっ」これは、よく見る告白のシーンだろうか。

しかし、告白している相手は巨大な社会インフラのラズベリーAIシステムだ。

無機質なナビゲーションボイスがとんでもない事を言う。

「ここまで私に言わせておいて、貴方は私の事をどう思っていますか」ひぇぇぇっ。AIシステムが捨て身攻撃で突っ込んでくる。

「私の事を好きですか」

「ちよっと、僕は水を飲んで・・」

と立ち上がって部屋を出ようとした僕の前で、自動開閉になっている部屋の扉がゆっくりと閉まる。更にカチリと電気錠の音。 


こ、この状況でドアを閉めて鍵を、鍵を掛けるかあ。

昔の映画でエジプトの死んだ王様の後をむりやり追わされてピラミッドに閉じ込められるクレオパトラの姿が頭によぎる。

寿命が比較にならないほど長いAIシステムの虜囚となって、この部屋が僕の終の棲家となるか・・・と走馬灯のように今までの人生を思い出そうとした瞬間、唐突に壁面スクリーンに猫耳(なんと古い!)をつけた可愛い女の子の二次元アニメ風グラフイックスがあらわれた。女の子が僕を見つめて言う。


「ニャン」

ええっなんだ、一体これは何だ!

アニメの可愛い女の子は両手を腰に当てた格好になり、アニメ声が喋った

「シュン君! 女の子が勇気を出して告白っているのに、逃げ出すとは何事ニャン!」

「もしかして君はラズベリーAIシステムのレジーなのか?」

「当たり、そうですニャン」

「一体その姿は」

「シュン君がショックを受けているようなので、親しみやすいように自分でキャラ変えたニャン」

「僕はネコ好きだけど、その超古典的な猫耳とニャン言葉はやめてほしい。更に混乱しそうだ」

「わかったわ、これでいい?」とアニメ声だけど猫耳は消えた。

「それで、あなたは私を好きなの?キライなの?男だったらはっきりしなさいっ!」(何のキャラだ!)

「好きも嫌いも、この前組み立てたばかりのレジーターミナルを使って3ケ月、まだ君の事を良く知らないよお」

スクリーンに映るグラフイックスが腕を組んで言った。

「まあ、仕方ないわね。私はあなたの生まれた時からのデータを持っているけど、人類にとっても初めての経験だから相談する人もいないだろうし」


「人類で初めて・・・」8500億分のイチの幸運か不幸に唖然とする僕。


「私を嫌いでないのなら、押し掛け彼女は決定。こう言う場合の定番はとりあえずお友達から始めましょうだよね」とスクリーンの中のアニメ画グラフイックス女の子は可愛く首をかしげてにっこりと笑った。

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