第2話僕のAIターミナルと街に出る

僕はレジーターミナルと名付けた出来たばかりのAIスピーカー試運転

(運転なの?か)の為に、レジーターミナルをバックパックに入れ街へ出た。

とりあえずの行先はお気に入りのド定番、箕輪中央駅のスターバックスコーヒー。ビル内の大通路がよく見える大きな素通しガラスの近く、ソファ席を確保して注文するのは、もちろんこの季節限定のラズベリーパイとスパイスコーヒー。

スターバックスのラズベリーパイはなぜか季節もので、今のような春先から登場する。(海外では冬に食べるものじゃないのだろうか?) 

ゆったりとしたソファに座って店内を見回す。

AIターミナルにイヤースピーカーを接続して勉強?している人がいつも多い。

スターバックスで勉強すると志望校に合格するとか、テストの成績が抜群に上がるとかいうような事があるのだろうか。

(まあ、種類は違うがテストで店に来ているのは僕も同じか)

ラズベリーパイについて気になったので、ちょっと聞いてみた

「レジー、ラズベリーの季節っていつ頃なんだろう」とても落ち着いたナビゲーションボイスが答える。なんといっても、エイリアンファーストのノストロモ号が自爆寸前の時でさえ、冷静にカウントダウンしていた声だものね。

(あれも確かAIだったっけ)

「ラズベリー、日本名木苺は日本国内では春先より秋までが収穫のシーズンです。 米国も同様なのでスターバックスコーヒーは北半球の米国基準で季節レシピを構成していると推定します。 

世界的にはラズベリーは南半球でも多数栽培されていますので、輸入品も合わせると通年で手に入る食材です」

落ち着いたナビゲーションボイスのAIっぽい回答がいいなあ、と僕は一人でにんまりしておいしいラズベリーパイを食べ、これまた季節限定発売のガラムマサラ風味スパイスコーヒーを飲んだ。

ついでに言うとスパイスコーヒーはコーヒーと名前がついているもののコーヒー豆は入っていない。(ガラムマサラスパイスの旬っていつだろう?)

暇つぶしにレジーに色々聞く会話が最近楽しい。

「レジー、僕のオリジナルAIインタフェースの具合はどうだい?」

「ラズベリーAIシステムに完全に接続されていてとても良好です」

ううっ、完全に接続!AIインタフェースに詰まらない小細工をしなかった成果が出た。機械のくせに嬉しい事を言ってくれるじゃないか。

「レジー、レジーターミナルハードウェアの改善点はあるかい?」

「各内蔵ユニットの位置が冗長的です。変更する事によって、空中給電ユニットが搭載可能です」

リスク回避の為の二重化ではない冗長的は(基本設計が悪い)の置き換えか?

人の気持ちに遠慮して言うのだねえ。さすが最新のラズベリーAI。

「わかった、帰ったら配置を見直して少し高くつくけど空中給電ユニットを入れよう。今日の夜に届くよう、ネットで注文しておいてくれ」

「了解です。本日夜のドローン便で手配を完了しました」


ガラムマサラスパイスの香りに包まれて、僕はスマホでネットニュースを読む。

昔の人はカフェで紙の新聞を読んでいたものらしいが、今はスマホでニュースを読むのが当然。

紙の新聞自体、ずっと発行部数を下げていたのだが紙の新聞には広告チラシを一緒に入れることが出来るメリットがあって、数年前までかろうじて残っていた。


今?今はどこの新聞社も紙の印刷した新聞は発行をやめて、電子新聞になった。

同時に世の中から新聞紙も無くなってしまった。

実はこの「新聞紙」というのが実はとても偉いマテリアルだったと皆が知ったのは無くなった後だった。

新聞紙は単なる紙と思うと大間違いで、吸湿、保存、耐油性など紙として色々な優れた特徴があり、部品の梱包や建築材料、子供が節句に被る折り紙のカブトまで使える優秀な材料を社会に安価に大量に提供し続けていたのだった。

今でも色々な材料としての需要があり、印刷されていた頃の古新聞が手には入るけどとても高価。

紙の新聞と新聞紙をもう一度欲しい人たちが、ネット上で紙の新聞の再発行を計画したが、昔と同じ新聞の紙を作るのに資金が足りず断念したというニュースがあった。なんでも、当時は巨大な単位で製造されていたからこそ安価に供給の出来たとても優れた「紙」だったそうだ。


そういえば、紙の本を売る本屋もいつのまにか無くなった。

供給が途絶えたせいで、古本を販売する本屋も少なくなってしまった。


世の中は変化し続ける。


レコードの無いレコード屋、本が無い本屋、新聞が無い新聞社。

車を売らない車屋、コーヒーの無いカフェ。


失ったものは失った後にしばらくして価値を見出されるが、その時は既に手に入らない。


僕たちが当然のように使っているインフラAIが使えなくなった時、僕たちは何を失ったのか知るのだろうか。

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