第3話 生徒会には
相談室のソファーに彼女は座っている。
それはまるで何かの作品のような、切なさというか美しさというか、そういったものを感じさせた。
芸術とか全然わからない俺ですら見入ってしまうほど、彼女は絵になっていた。
「不知火先生、そちらにいる方は?」
「あぁそうね。紹介します!彼は私のクラスの黒宮真一君です!」
「どうも……」
「白崎冬華です。初めまして」
いやまて、状況が全然飲み込めないんだけど。
なんで学年主席がここにいんの?
「……先生、俺に合わせたいのってこの人っすか?」
「ううん、違うよ!彼女は別件でね」
違うんかーい。
いや、ちょっと安心したけどね……まぎらわしいわ。
「ん?じゃあ俺呼んだのって誰なんすか?」
「ちょっと待ってて、今くると思うから」
そう言うと、先生は白崎のソファーの横に座った。
「……私外しましょうか?」
「いいのいいの!気にしないで!白崎さんも呼ばれてるんでしょ?」
「それはそうですが……」
「ならいて良し!ほら、黒宮くんも!突っ立ってないでそこ座りなさい」
いやー座りたくねー帰りてー。
てかなんなんこの状況。俺何ひとつ理解してないんだけど。
そもそも合わせたい人って誰なんだよ。何でそこを頑なに言わねーんだよこの先生!
渋々先生と白崎の前のソファーに座りながら、この状況と先生に対するストレスをため息にして出した。すると向かい側からえらく視線を感じた。
「……どうかしたか?えーと、白崎さん……」
「いいえ、何でも……」
そう言うと白崎はテーブルの上に置いてあった本を読み出す。
何だこいつ。
コンコンコン
不意にノックの音が聞こえた。
「どうぞー!」
不知火先生が返事をする。
「失礼するよ」
あー、そう言うことね。ドアを開けて入ってきたのは、見覚えのあるおっさん顔だった。
「こんにちは、校長先生」
「久しぶりだね、黒宮くん」
そこには、俺が中学時代不良にボコボコにされていたのを止めてくれた、校長先生がいた。
俺に会いたがってる人って、校長のことだったのね。
「君に会いたかったよ。君がこの高校に合格したと聞いた時は驚いた」
俺も校長だって知った時は驚いたよ。ガッチリ体型に白髪のおっちゃんくらいにしか思ってなかったし。
「校長先生、お久しぶりです」
「おぉ、冬華ちゃんもきているね。久しぶりだ、お父様はお元気かな?」
「はい、おかげさまで元気にしております」
「そうかそうか!それならいいんだ!君のお父さんとは……」
どうやら白崎と校長は昔からの知り合いのようで、長いこと近況を聞きあっていた。
「んんっ!……校長先生そろそろ本題に」
不知火先生が、めちゃくちゃ世間話に花を咲かせてる校長に合図を出す。
「おぉ!そうだったな。では本題に入るとしようか」
そう言うと、校長はさっきまで俺の座っていたソファーに腰を落とした。
俺と白崎は校長の指示で向かいの席に座る。
「それでご用件というのは?」
白崎がさきに口火を切った。
「そうだな、とりあえず何から言おうか……君達はこの学校の生徒会を知っているかな?」
あー、なんか施設見学の時いた気がするな。やたら偉そうなやつら。
「もちろんです。とても有名ですから」
え?そうなの?俺全然知らねーんだけど。
俺の表情でわかってないのを理解したのか、校長が生徒会について語り始めた。
「我が青ヶ原高等学校の生徒会は、そのメンバーのほとんどが卒業後国内トップレベルの大学に進学しておる。そのため生徒からの人気も多く、2年生以上の成績上位者しか入ることを許しておらん」
へぇー。そんなすげー生徒会があるのか。
「……それでその生徒会がどしたんすか?」
「まぁ単刀直入にいうと、君ら2人その生徒会に入らないか?」
は?
「はい?」
「だから、白崎くんと黒宮くん。君らには生徒会に入る資格がある」
いやいやいやいやいやいや、何言ってんのこのおっさん。
「おい黒宮くん。何言ってんのこのおっさんみたいな顔やめなさい」
「なんでわかんだよ!こえーよ!」
「……一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
白崎が澄んだ声を放つ。
「何かな、冬華ちゃん」
「どうして私達2人だけが1年にも関わらず、生徒会に入れるのでしょうか?」
そうそう!そこだよ!俺もそれが聞きたかった!
「毎年入試の点数が1位の生徒は、生徒会に入るのが許されているからだよ」
「それでは黒宮くんは当てはまらないのでは?」
すると、白崎の言葉を聞いた校長は不知火先生に呆れた表情を向けた。
「おいおい不知火先生、本当に何も説明していないのか?」
「い、いやー!サプライズみたいにした方がいいかなーなんて……ごめんなさい」
どんなサプライズだよ。そこは隠しちゃダメでしょ。
校長を見るとしかめっ面で頭を抱えている。
「……まぁいい、私から言おう。不知火先生は後で校長室に来なさい」
「はい……」
あー校長そこそこマジでキレてるなこれ。不知火先生、御愁傷様です。
「……話を戻して頂いてもよろしいでしょうか」
白崎が呆れ顔で話す。
「そうだな、申し訳ない。それで何だったかな」
「ですから、私はまだしもなぜそこにいる黒宮くんまで生徒会に入れるのでしょうか」
「なぜって……、黒宮くんも成績トップだからだよ」
「そんなわけはありません。彼は入試で上位10人にも入っていないはずですから」
すいませんね優秀じゃなくて。つーかこいつさっきから言い方に棘を感じるわ。
白崎の言葉を聞いた校長は少し間を置いた後、心なしかドヤ顔でこう言い放った。
「彼は我が校の体力テストで、並居るスポーツ特待生を抑え1位という成績を残したのだよ」
「!?」
そう、実はそうなのだ。高校の合格通知に『首席おめでとうとございます』としっかり書かれていた。実際俺自身マジでビビったのでハッキリ覚えている。
「まさか……彼が?」
白崎は驚きを隠せないでいた。そりゃそうだろう。青ヶ原のスポーツ科体力テストで首席を取るということは、なかなか出来ることじゃないっぽい。それを在ろう事か、こんな覇気もかけらもない奴が取ってんだから。
「そう。だから黒宮くんは君と同じく、生徒会に入る資格があるということだ」
「こんなのが……青ヶ原の生徒会に……」
「白崎さーん、心の声漏れてるよー」
なんかもう俺こいつ嫌いになりそう……
「という事で、君達2人には今日から生徒会に入って、学園をもっとよくしていけるよう頑張って貰いたい」
校長が張り切りながら宣言した。
白崎は俺が首席なことにまだ不満があるようだが、とりあえず首を縦に降る。
「……わかりました。私でよければ謹んでお受けします」
「俺は嫌です。」
「そうか!これから2人で頑張って……、ん?」
「ですから、俺はお断りします」
「「はい?」」
「ちょっと!黒宮くん!!」
不知火先生が慌てて声を荒げる。
「こんなチャンスなかなかないのよ!?どうしてやりたくないの!」
「いや……、どうしてって言われても」
めんどくさいからしか理由なくない?
そもそも、生徒会なんて俺に出来るわけがない。何でわざわざそんなやばそうなところに入らないといけねーんだよって。
「あなた、正気?」
白崎がとても失礼な質問をして来た。
「正気だよ……」
「……君は中学の時から変わらないな」
校長が少し寂しそうに俺に語りかける。
「確かに、生徒会なんて君の性に合わないかもしれない。でも今までいい方向に使うことができなかった君の才能を、今度は正義に使うことができるかもしれないんだぞ」
校長は俺の中学時代を知っている。そのためか、俺をどうしても生徒会に入れたいらしい。
「それでもやらないのか?」
校長は本当にいい人なのだろう。数回しか会ったことのない他人の俺をここまで心配して面倒を見ようとしてくれる。こんな先生はなかなかいない。
…………でも
「余計なお世話なんだよ」
俺にとっては迷惑でしかない。
「黒宮くん!!あなたなんてことを……」
声を荒げる不知火先生を校長が止める。
「……続けなさい」
「俺が生徒会なんかに入ると思いますか?何で俺が他の生徒の為にそんなめんどいことしなくちゃいけないんだ」
「でも君は、正義になりたいんだろう?」
くそ……、そんなこと忘れとけや。
「……正義とか悪とかどうでもいい。俺は普通に生きたい」
相談室が沈黙する。まるで時が止まったかのように感じるほど、重く苦しい時間が流れた。
「……そうか、わかった」
校長はそういうと立ち上がり、出口の方へ向かった。不知火先生がそれに続く。
「それでも黒宮くん。私は君が正義の人であると、今でも信じているよ」
「……」
校長が相談室を出る。続いて不知火先生もだ。
こうして、やっと俺の高校生活1日目が終わろうとしていた。
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