第2話 学校生活とは

 学校生活とは、

友と学び、語らい、時にはぶつかり合いながら友情を確かめ、共に自分自身を高めていく素晴らしい時間である……。

 それは人生においてわずかな期間しかなく、諸君らはこの時間を永遠に忘れることはないだろう。


 昨日、入学式で校長がこんなことを言っていた。確かに一部の連中はこんな学校生活を送っていくのかもしれない。授業中に騒いで先生に怒られ、学校の行事に本気で取り組み、彼氏彼女との出来事に一喜一憂する。

 そんな学校生活を送ることができたのなら、それこそ永遠に忘れないだろうな。

いや、欲は言わない。せめて普通の高校生活を送れればそれで良い。俺はそれだいいんだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…………」

 目の前に、カツ丼とハンバーグが置いてある。

「真兄おはよう」

「いや、ちょっと待って……」

 時刻は午前7時。今日の朝飯何かなーあんまし食欲ないなー、なんて考えながら居間に来てみるとこれだ。カツ丼とハンバーグって……もう重いとかそういうレベルじゃないでしょ。


「真兄おはよう」

「そうだよね、おはようの時間だよね今、何でカツ丼」

「お・は・よ・う」

「……おはようございます」


 このやたら挨拶にこだわる少女は2つ下の妹、美咲みさきである。ベリーショートの髪が少しボーイッシュな印象を与えるが、中身もバッチリボーイッシュ。たまに物凄くぬけてるからお兄ちゃん心配です。


「とりあえず、この状況について聞いていいか」

「うん、真兄今日から高校生だろ?だから気合い入れようと思って!」

「気合いの入れ方がぶっ飛んでるねー……、なにこれ作ったの?」

「いんや、出前」

「……もういいや。いただきます」


 なんかツッコむのも疲れたからおとなしく食べることにした。まぁ、美味しことには美味しいよ。朝じゃなかったらね。


 カツ丼とハンバーグを交互にほうばりながら、少し気になったことを聞く。

「つーか、別に気合い入れる必要ねーだろ。ただの登校だぞ」

「…………真兄にとっては違うでしょ」

 ため息をはきながら美咲は続ける

「気合い入れないと、また中学と同じになっちゃうよ。友達作りたいんでしょ?」


 そう、俺はいろいろあり中学時代散々な青春を送っていた。

 友達は誰一人いなくなり、卒業間近までひたすら不良グループにボコられ続けていたのだ。

 美咲はそれを心配しているのだろう。なんか申し訳ないな。

 ここはお兄ちゃんらしく、頭でもなでて安心させてやろうか!

「……大丈夫。兄ちゃんを信じなさ」

「え、ごめん無理」


 ………なんか……泣きそう。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 朝からメンタルと胃袋にサプライズを受け、微妙に気分が上がらないまま学校に着いた。

 美咲にはあんな事を言ったが、いざ来てみるとやっぱちょっと緊張する。いやーだってねぇ。中学の時のトラウマがやばいんですよ。本当ちょっとのことで人の印象って決まっちゃうからね。

 いや、大丈夫。普通でいいんだ普通で。そこらにいる男子高校生Bとかそんなんでいい。目立たず、騒がず、ただ3年間をひっそりと過ごす。別に人気者になれってわけじゃないしな!普通にそれは無理か……。


 意を決して教室のドアを開け、軽く周りを見渡す。教室内にはもういくつかのグループが出来上がっていた。おそらく中学の友達や知り合い同士で固まっているのだろう。

 とりあえず自分の席に座るため、席割りが書いてある黒板を見に行くことにした。

「えーと、俺の席は……」

 一番前は嫌だなーとか考えながら席割り表の番号から自分の席を探す。

「14番、14番………うわっ…」

 最悪だ。俺の席の周りなんかイケてる系で固まってんだけど。窓側2列目の後ろから2番目。席としては申し分ないんだけどなー。

 俺の席を見てみると、隣の席にいわゆるリア充っぽいやつがグループになって騒いでいる。仕方ないから目立たないように座るか。


 席に座るとリア充グループの会話がよく聞こえて来た。

「そうそう!大我たいが中学の時マジやばかったもんな!」

 一人が真ん中で座ってる金髪イケメンに話しかける。

「やめろよ。なんか自慢してるみたいだろ」

「でも実際そうじゃん!クラスのやつボコボコにしてたし」

「まぁ、あいつらイキってるだけのクソだったからな。あの時は……」

 あーでたでた。中学やばかった自慢。恐らく俺、もしくは俺の友達喧嘩強いよアピールをする事によって、このクラスでの立場を作ろうとしているのだろう。こんな進学校にもいるんだなこんなの。入学早々ご苦労なことで。


 はぁ、それにしてもこの席めんどくさそう。

 隣の金髪イケメンの大我というやつに、いかにして目をつけられないかを考える必要がある。でもよいしょするのは嫌だな。とりあえず寝たふりしとこ。


キーンコーンカーン……


「はい、みなさん席についてくださーい」

 担任らしき女性が入って来た。クラスはまだ騒ついている。

「おーい静かに!今日から君達の担任になる不知火 しらぬい あずさです。よろしく」

 ショートヘアーにメガネ、年齢は20代後半だろうか、中々の美人である。何より胸がでかい。

「えー今日は1日ほとんどガイダンスです。皆さんに自己紹介などをしてもらいます。それと学校の施設見学かな。短縮の5限で終わりになります。」

 不知火先生が今日の予定を言っていく。クラスは和気あいあいと、時々先生をいじりながらガイダンスを進めていった。


 なんか、数分いただけでもこのクラスがいいクラスなのがわかる。ノリのいい先生、明るい生徒たち、いわゆる青春ってのはこうゆう奴らのこというんだろうな。

はぁ、全く本当に


「しんどいわ……」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ガイダンスや見学を1日中やり、高校生活1日目を終えた。結局誰とも話すことなく、俺は帰り支度をしている。まぁ、誰とも話さなかったら目立つこともないしね。これが正解。

 支度を済ませて廊下に出ようとすると、ふと呼び止められた。

「あ、ちょっと待って!」

呼び止めたのは不知火先生だった。

「なんすか」

「君が黒宮くんね、この後ちょっと時間ある?」

 えー、早く帰りたいんだけど。俺なんかやったかな……。

「大丈夫っすけど……、何の用ですか?」

「別に大したようじゃないの。あなたのことお父っ……校長先生から聞いててね。」

「あー……なるほど」

 俺は中学の時に、ここの校長と出会っている。いじめっ子にボロクソにされてるところを、校長に助けてもらったのだ。それから入学式で再会し、わざわざ担任に教えたのだろう。てか今お父さんって言いかけなかった?

「とりあえず、相談室に行きましょうか。あなたに会わせたい人がいるの。」

「わかりました。」

会わせたい人?



 相談室までの廊下を歩く。

「黒宮くん、クラスに友達はできたかな?」

でた。キラーパス。

「そうですね。そもそも自己紹介の時くらいしか喋ってないっす。」

「あー……、なんかごめん」

謝んなよ!惨めだから!

「で、でも!まだ1日目だから!君でも卒業までにはクラスに馴染めるよ!」

「それ、励してんのかよ……。」

 え、なにこの先生。天然でディスってくんだけど。こわい。

「てか、俺に会わせたい人って誰すか?」

「行けばわかると思うよ。あなたも知っている人。」

 それが誰かって聞いてんだけどなぁ。


 なんだかんだで、相談室前。

相談室とは生徒に何かあった時、または先生が生徒に大事な話をする時などに用いられる部屋みたいだ。

 今日の施設案内の時に中を見たが、軽いお茶セットやソファーなどがある。青春アニメとかなら溜まり場になってそうな感じ。

 不知火先生がノックをする。


「はい、どうぞ」


 聞いたことがある声だ。空気が澄んでいくような、そんな声。


「白崎さん!おまたせ!」


 学年主席スーパー美少女。そう、白崎冬華がいた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る