大変な事態ですわ。

 ふと、りんこちゃんのスマホが鳴る。

 電話がきていた。運営仲間の少佐からだ。電話を取ると、ぷりてぃーボイスが発せられる。

「りんこ殿、大変である」

 口調は軍人なまりであるが、声音が愛くるしい。思わず聞き惚れてしまう。

 少佐の話は続く。

「ツイッターで、邪神ミチルがりんこ殿と親友であるというアピールを繰り返している。そして、りんこ殿が邪神ミチルの画像を広めると宣伝している」

「そうですのー」

 りんこちゃんは気のない返事をしていた。少佐のぷりてぃーボイスは、聞いた人間からまともな判断力を奪う魔性の声だ。

 しかし、少佐にはそんな自覚はない。

「邪神ミチルの画像に激怒したオタク達が、りんこ殿を消そうとしている。暗殺に気をつけてほしい」

「そうですのー」

 りんこちゃんは気のない返事をしていた。

 少佐の声音に焦りがにじむ。

「り、りんこ殿。小生はとんでもない事を言ったのだが、聞いていたか?」

「そうですのー」

「りんこ殿! しっかりしろ!」

「そうですのー」

 少佐のぷりてぃーボイスを耳にして、りんこちゃんは幸せいっぱいであった。花のほころぶような笑顔を浮かべている。

 しかし、少佐は気が気でないようだ。

「電話で伝わらないなら直接行く。警察は当てにならない。時間稼ぎを頼む! オススメは火炎瓶だ」

 電話が切れた。

 りんこちゃんは、ほがらかな笑みを浮かべる。

「少佐かわいいーのですわー。お電話がきて嬉しいのですわー」

 りんこちゃんは、机に飾っていた少佐を模したぬいぐるみをギューッと抱きしめる。少佐は、緑色の短髪を生やしたボーイッシュな女の子だ。濃緑色のタイトスカートがエロ可愛い。


「暗殺に気をつけてほしいと言われたから、りんこ頑張るー」

 そう呟いて、りんこちゃんは真顔になった。


「暗殺に気をつける……?」

 りんこちゃんは、とんでもない情報を得ていた事にようやく気づいた。

 少佐から言われた事を思い出す。

 邪神ミチルは、自らの画像をりんこちゃんが広めると言っていたらしい。

「デマを流されたせいで命を狙われるなんて!」

 少佐ぬいぐるみをそっと机に置く。

 念のためにパソコンを開いて、ツイッターを確認する。邪神ミチルへの返信欄はもちろん、りんこちゃんにも恐ろしいメッセージの数々が届いていた。

 邪神の仲間は人類にあらず、海へ帰れ、などなど。

「脅迫ですわ!」

 りんこちゃんはすぐに警察に電話を掛ける。

 しかし、なかなかつながらない。

「こんな時に……!」

 永遠とも思える時間が過ぎる。そんな時に、窓から大量の足音が聞こえ始める。

 恐る恐る窓の外を見れば、プラカードを持った老若男女が近づいてきていた。

 プラカードには様々なメッセージが書かれている。


 『邪神を許すな!』『萌えを期待した俺の青春を返せ!』『拡散反対!』


 りんこちゃんの心臓の鼓動が早まった。

「どうすればよいのでしょう!」

 髪をかきむしる。

 ようやくの事で、警察に電話がつながる。

「もしもし、事件ですわ!」

「た、ただいま警察は邪神の毒気に当てられています。あのイラストが猛毒すぎます……またのご利用をお待ちしております」

 警察も邪神の画像を見て、正気を失ったようだ。

 電話は一方的に切られた。

 切られた途端に、別の人間から電話が来る。

 少佐からだった。


「敵が想定外に多い。小生の救援が間に合わなかったら、迷わずに降参するべし」

 ぷりてぃーボイスに癒やされる。


 りんこちゃんは現実を忘れてホッとしていた。

「そうですのー」

「ああΣ また気が抜けている! 分かった、すぐに行くから持ってくれ! できるだけ安全な場所に避難するべし!」

 電話は切られた。

 りんこちゃんは正気に戻った。

「安全な場所ってどこかしら……?」

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