予言
私が気付くとそこは血の海であった。
この世の成れの果てであった。
そこにあったのは、もはや崩壊したビガーノの首都ビストラと得体の知れぬナニカ。
辺りに散らばる死体の数がナニカの力の一端を如実に表していた。
それを見てなお立つものがいた。
剣を握る只人であった。パッとしない顔のその男は廃都ビストラにてただ一人立っていた。
辺りに立ち込めるはずの、あの死体から香る悪臭が無いことに気付いた。それによってこれが私の予言であると合点した。
予言とは解釈の難しいものであった。これが確定した未来なのか。それとも起こりうる可能性の一つなのか。
だが、ビガーノの巫女たる私はこれが起こりうる可能性の一つであると確信していた。
巫女の予言は生涯に一度だけであり、過去の巫女たちの予言は全て巫女の助言によって回避されている。その事実は代々伝承されてきた。
だから私のすべきことは冷静に予言を受け止める事にほかならない。
恐らく見せたいのは神獣種の対処法なのだろう。
だが、「こんなモノにどう対処しろと言うのだ」というのが本音だった。理解出来ないのだ。頭が割れるように痛い。この目でその姿を捉えようとするだけで吐き気がする。
そんな中で立っているこの男は異常だった。
まさかとは思うが、只人がこの化け物に、恐らく神獣種であろうこれに対抗出来ると言うのか。
普通ならそんなことは思いもしない。だが予言として見ている以上、この場面、この男には何かがあるのだ。事実、彼は確かにあの化け物を視界に捉えていながらも、平然としているのだから。
そして、予言の正しさを思い知らされる。
些末な剣である。
恐らく探せばどこにでもいるような鍛冶師の量産品である。
私の知る強き者は道具も選ぶ。
自らの相手に相応しい武器を用意する。
だが、目の前の男はそのような考えごと切り捨てた。落ちるのはナニカの首である。
なるほど。
私のすべき事とはこの男をこの化け物にあてがう事か。そうすれば、この化け物はなんとかなるのか。
顔は覚えた。
後は魔術師にでも念写させれば良い。
やっと役目が終わる。
そう思い、安堵する。
やがて意識は浮上する。
予言の見せる光景が霞みゆく。
その時に微かに見てしまったのだ。
その男が己の首を断ち切る、その瞬間を。
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