永劫の龍

「また、1つ。未知が地に落ちた」


 ポツリとそう呟いた。


「我らがよ。永劫の君よ。如何様になさいますか」


 ステンドグラスの天井から陽光が白い巨体に差し込んでゆく。陽光はその体を照らし、その白き鱗はこの部屋全てを照らした。

 それはまるでかの龍こそが太陽であるかのように。


 書見台に置かれた、その身に釣り合わない小さな本を見つめていた。


「何も」


「御意」


 はらり、はらりとページが捲られるゆく。

 そこに綴られる、ヒンツァルトという文字。

 瞳孔が細くなる。


「アルバン」


「は」


名を呼ばれた神官はドアの前で跪く。彼はこの部屋に入る事を許されていなかった。


「カストラーテを」


「…ただいま」


ほんの少しの逡巡を龍も中にいる神官も攻めることはしなかった。ある種当然であったから故に。


しばらくして、ボロ雑巾のような女が部屋に入ってくる。目の下のクマは濃く、服は黄ばみ、放浪者とほぼ相違ない。


「よ、呼びましたか…はへへ」


「かの者が淦の炎を切り伏せた」


「ほ、ほはほ本当ですか!!あ、あへ、あへへへへへへへへへへへへ」


だらしなく頬を緩ませ、口の端から液体を垂らすその姿を神官と龍はただただ見つめていた。


「じ、じゃじゃじゃあ、や、やっぱりあたしの仮説はま、まだ否定されてないんですね、え、えへへ」


「肯定しよう」


「う、うひひ」


「だが、まだ足りぬ」


「は、はひ。も、もちろんです。もう少し深度が深いのが来るとい、良いんですけど」


「来る」


「へ?」


「淦の炎が来た。ならばもはや時間の問題に他ならぬ」


その言葉にカストラーテと呼ばれる女は狂喜する。


「けひひひひひひひひ」


少しだけ龍は呆れたように声を出す。


「ゆめ約定を忘れるな」


「も、もちろんです。仮説が間違っていたら、その時は」


「こ、この身体を四つでも八つでも割いてください」

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