テロ寿司
卑屈な人
慰めの報酬
太陽が帰路に着き、夕闇が例年より少し早めに顔を出す時期になってきた。
夏が終わり秋が来てまた夏が繰り返し訪れるように、朝は等しく訪れるものである。しかし、俺が上りゆく太陽を穏やかに許せる日を迎えるにはもう少し時間が必要みたいだ。
雑踏と街の喧騒から逃れるように安物のイヤホンを耳にねじ込んでみる。
決して高音質な代物ではないが、その荒々しさが今の俺には心地よく感じる。
文学なんてものは俺にとっては高尚すぎるが、このイヤホンは今、まさしく地獄から這い上がる為の蜘蛛の糸だ。
行先は極楽浄土ではなく更なる地獄かもしれないという点を除いては。
-あの娘はきっとパルコにでも行って今頃は茶髪と寝てるだろう―
どうやら俺のWALKMANは随分と空気を読んでくれるらしい。
蜘蛛の糸から垂らされた一節はまるで毒のように全身に流れ込みその情景を鮮明に映し出す。
ああ、こんな日は寿司でも食おう。
この惨めで情けない一日を終えるには少しばかりの贅沢で毒抜きをする必要がある。
誰に弁解するわけでもない言い訳を脳内で繰り返し唱えながら歩いていくと、見慣れない店構えの寿司屋を見つけた。
~テロ寿司~
テロ?
全く持って理解に困るが、濃厚な醤油の香りと耐えがたいアルコールの誘惑に負けた。
店を開けると、
迷彩の割烹後に身を包み、顔を隠した店主が寿司を握っている。
「いっらっしゃい!何にする?」
最初の一言は決まっていた。
俺は特に意識することなく、どうしようもなく惨めな自分を慰める為の晩酌を開始した。
「大将!コルトガバメント一丁!!」
~おわり~
テロ寿司 卑屈な人 @kimoinomoino
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