最終話

 見覚えのある景色が広がっていた。知らない人が見れば地獄と勘違いしそうな風景が。


「思ったより早かったな。と言っても交通事故のようだが」


 閻魔が話しかけてくる。


「あれは単なるアクシデントだよ。死ぬつもりなんて全くなかった」


 本音だった。あの瞬間、考えるよりも先に体が動いた。誰かの為に体張るなんて、前の自分からしたら考えられない事だ。


「ふむ。初めてここに来た時あれ程死んだ目をしておったお主がなぁ」

「自分でも驚いたよ。生きたいだなんて思ったのは初めてだ」

「生きたい.....か」

「もっと生きたかったよ。やり残したことがいっぱいあるんだ。初めて出来た彼女も置いてきちゃったし」


 閻魔はただ黙って頷いている。


「でももういいかなって感じもするんだ」

「それはどういう?」

「元々僕は自分から命を捨ててるんだ。もう一度チャンスがあったこと自体が奇跡だったんだよ」

「なるほどなぁ」

「黒崎楓として生きた17年間もボーナスステージだったんだ。全く余計なことをしてくれるよね。現世なんて捨てたつもりでいたのに未練たらたらになってしまったじゃないか」

「そりゃお前の責任だ。わしの責任ではない」


 閻魔がかったるそうに話す。確かにそりゃそうだ。あれだけつまらないつまらないと言っていたのに最終的に楽しんでいたのは他の誰でもない、自分だからな。


「でも不思議と悔いはないんだ。元々あってないようなものだったからね。夢は覚めたんだよ」


 向こうに置いてきた咲島さんには申し訳ないが俺はこれで良かったのだと思う。なんのために生きるのか。その答えは結局見つかってない。でも守りたい人は出来た。それが全てだろう。


「ありがとうね、閻魔様。こんな機会つくってくれて」

「ふん。若造がよく言うわい。ほら、扉はあっちだ。早く行けい」


 閻魔が指さした方にはたしかに大きな門があった。


「おや?僕はあの世に行けるのかい?」

「そうだろうな」

「随分と投げやりだね」

「お前の相手をするのはもう疲れたわい」

「あら酷いこと。じゃ、もう行くことにするよ」

「おう。さっさと行った行った」


 急き立てられるようにして門に向かう。なんか感慨深いな。これでもう長くて短かった一生...いや二生?が終わってしまうんだ。


 門は押せば簡単に開いた。向こう側は眩しくて見えない。


「じゃあね。またいつか」

「もう会うことはないじゃろうて」


 一歩踏み出すと同時に意識がだんだん薄れていく。


「それもそうか」

「まぁ...達者でな」


 そこで意識は途切れた。











「さて、お前はどうして死んだんだ?.....事故で死んだ恋人を追いかけて自殺?それじゃああの世へは連れて行けんなぁ。もう一度人生やり直してこい!」




 again 完






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again 才野 泣人 @saino_nakito

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