第53話 大晦日!
光陰矢の如し。
キャンプは無事終わり、あれよあれよといううちにクリスマスLIVEも終わり、
目の前にはテレビがあるが、それは真っ暗だ。年末特番を見ているわけではない。それよりも遥かに小さな画面を、二人で肩を寄せて覗き込んでいた。
『撮れてるんですか?』
『できてるできてる』
二人で見ているのはビデオカメラに録画してある映像。映っているのは今いる部屋と、トキとツチノコの二人。
『……何話しましょうか』
『えー、ただいま20XX年……大晦日。本日もトキはかわいいです』
今から丁度一年前の映像だ。
『な、何言って……/// ツチノコもかわいいですよ!美人さんです!』
カメラの前で頬を赤らめて惚気ける二人に、画面の前の一年後のトキとツチノコも顔を赤くする。画面から目を離さないまま、無言で小突きあった。
『カメラの前でキスしとく?』
『い、いいですよ!自分のキスシーン見てどうするんですか!』
『……確かに、どうしような』
『とりあえず、こんな感じでいいんじゃないですか?』
『そうだな、では良いお年を』
『良いお年を〜!・・・ってツチノコ、だからキスしても、うわ』
……。
ここで映像は途切れている。何やら小っ恥ずかしい映像を一年ぶりに見たトキの手はわなわなと震えていた。ツチノコはフードをいつもより深く被っていた。
「も〜ツチノコのバカ!やっぱりこんなの恥ずかしいだけじゃないですか〜!」
「うん……ごめん……我ながらこれはちょっと恥ずかしい」
「自滅してるじゃないですか!」
「今年はやらないから許して……」
「もう……」
二人で今年も年越し前にビデオを撮ろうとしていた。撮る前に、せっかくだから去年のやつを見ておこうと。
で、こうなってる。
二人で恥ずかしい目にあっただけだった。
「こ、今年はちゃんとするから……」
そう謝りながらカメラをセットするツチノコに、ツンという態度をトキは見せる。傍から見ればデレっとした顔をしているのだが、ツチノコもそれを指摘することはなかった。
「はいはい!撮りますよ!」
「はーい」
そう言って、録画ボタンをツチノコが押す。
『20XX年、大晦日です!』
『先程一年前の自分に爆弾をぶつけられました、ツチノコです』
『トキです!今日もツチノコは可愛いですよ!』
『トキ、そういうのはやらないって……』
『今年は忙しかったような、何もしなかったような……そんな年でしたね?』
『まぁ、うん。トキは可愛かった』
『そんなわけで、以上……?ツチノコ、なにかやっておきたいことあります?』
『ない、かな』
『じゃあ以上です!良いお年を!』
『良いお年を〜……ちょっ、トキ待ってそういうのはしないってまたらいね』
ブツッ。
良いお年を。
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