第36.5話 お疲れの日
ある日の夕方。
「ただいまー」「ただいま帰りました……」
トキとツチノコは、パトロールの仕事を終えて家に戻ってきた。玄関で靴を脱ぎ、上にあがる。ツチノコはさっさとそれを終えた。しかし、トキはゆっくりと靴を脱いでいた。
「……トキ?」
「ごめんなさい、なんだか疲れちゃって」
トキはニッコリ微笑む。しかし、いつも隣にいるツチノコはそれが無理をしている表情なのは一瞬で読み取れた。
「トキ、おいで?」
「どうしたんですか?」
ツチノコがトキを呼び、二人の距離が縮まる。次の瞬間、トキが小さく叫んだ。「きゃっ」と、可愛らしい声。
ツチノコが、トキのことを急に抱きかかえたのだ。お姫様抱っこである。
「トキは休め。私が色々やっておくから」
「……ありがとうございます」
そのまま、二階の寝室にあがる。ベッドにトキを下ろしたツチノコは、「じゃ」と言い残して部屋を出ようとした。しかし、トキがそれを呼び止める。
「ツチノコ」
「どうした?」
「……ワガママしてもいいですか?」
もうツチノコはドアノブに手をかけていたが、ふっと微笑んでベッドに近寄る。そして、トキが横になっている隣にボスンと座った。
「もちろん」
「……そばにいて?」
ツチノコがトキの頭をくしくしと撫でた。そして、尻尾をトキの脚に絡ませる。
「りょーかい」
ツチノコが手を伸ばし、力の抜けたトキの手に指も絡ませた。そして、きゅっと力を込める。トキはそれに申し訳なさそうな声で返す。
「ごめんなさい……」
「いいって。甘えてくれ」
トキはその言葉の通り、ツチノコに甘えることにした。撫でることをせがみ、ツチノコの温もりや匂いを感じているうちに眠りについた。
「……」
ツチノコは、疲れ果てて弱ってしまったトキのお願いを聞くうちにふと思う。
トキがこんなに甘えてくれるのは、私だけ。
嬉しくなって、夕日の差し込む部屋でくつくつ笑った。
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