第37話 連休明けの日
「……ツチノコ」
「んー?」
「ゴールデンウィーク中に旅行とかすればよかったですかね」
「別によかったろ。色々したし」
ゴールデンウィークの終わった翌日。トキとツチノコは空からのパトロールをしながら会話をしていた。
「ほとんど家にいたじゃないですかー、何しましたっけ?」
「トキと録画してた映画見たし、トキと料理したし、トキと掃除したし、トキとキスしたし、トキとお風呂入ったし」
「……そういえばそうでした。結構満喫しましたね!」
「そうだな」
湿った布団干したし。なんてことを脳内で呟きながらツチノコが返す。このゴールデンウィーク、二人はあまりお出かけすることなく過ごした。家出ゆったりのんびりイチャついてたのだ。と、いうのも……
「ツチノコがお出かけ禁止になっちゃったんですよね?」
「絶対ダメってわけでもなかったけどな?」
そんな事情があった。ゴールデンウィーク前に、ナウから電話が入ったのだ。
『ツチノコちゃん、ゴールデンウィークはあんまりお出かけしない方がいいかも』
「なんで?」
『……実は、最近ツチノコのフレンズがいるらしいっていうのが本土で話題になってるみたいでね?観光客が増えるこの時期だと、ちょっと危ないかなって』
「別に大丈夫だろ。でも、用心に越したことはないな」
という会話をしたのだ。そのため、人目につく場所へ足を運ぶのは控えたのだ。図書館に顔を出すなどしたが、その他にはほとんど家を出なかった。
「でもやっぱり、思い出のひとつくらい欲しかったですね」
「……」
ツチノコは連休の間で記憶に濃いことをいくつか並べてみる。その中からこれも良かったあれも良かったと厳選し、ポンっと口に出してみる。珍しくトキの声真似なんかを交えてみた。
「トキが私のこと押し倒して『ずっと私だけ見てて……♡』って言ったのは一生モノかな」
「また適当なこと言って……そんなこと言ってないですよ?」
「ふーん、そうかな?」
空を飛んでいるので、トキに抱えられているツチノコはトキの顔を見ることが出来ない。だが、真っ赤になっているだろうと予想した。案の定トキは赤面していた。
その日は、唐突に二人でお酒を飲もうということになったのだ。しかし、しっかりしたストックはなく、置いてあったのは缶のチューハイが二本。それでいいやとなったので、グラスに移して二人で飲んだのだ。ツチノコがトクトクと注いでいる間、トキはつまみ代わり(?)のお菓子を用意していた。
「もしかして、私が酔ってる時ですか?」
「酒は本音出すって言うしな、いい事聞けた」
「酔ってる間は変なことしちゃいますね?迷惑かけてごめんなさい」
てれてれとトキがツチノコに謝る。というのも、本気で申し訳ないというわけではなく軽いものだ。相手が相手だからかけられる迷惑である。
「いいよいいよ。ところで、あの時私がトキに出したのただの桃ジュースな」
「……へ?ジュース?」
「うん。トキがお菓子用意してる間に、桃のチューハイじゃなくてジュース注いでた」
「……」
ツチノコが淡々と語る。トキがツチノコから目を離してる間に、ちょっとしたことを思いついて実験してみたのだ。ノンアルコール飲料をアルコールと言ってトキに飲ませるとどうなるのか。欲しかった結果は、気づく気づかない等ではない。酔ったフリしてなにかしてこないかと期待していたのだ。
案の定、トキはソファでツチノコを押し倒した。そして、恍惚な表情で。
「ずっと私だけ見てて……?」
そう言い放ったのだ。もちろん酔ってなどいない。そのシーンを思い出して、ツチノコは笑った。
「いやぁ、酔ったフリしてあんな事言うトキはイケない子だな?」
「……ツチノコは意地悪ですね」
「あの後ベッドで『たくさんイジワルして……?』って言われたしな」
もちろんその台詞もトキが素面で放ったものだ。素面という体では恥ずかしくて言えたものじゃないが、酔っているという設定に甘えてそういうことを言っていたのだ。
「忘れてください……」
「実はアレ録音してたんだよね」
「えぇ!?酷い、それは酷いです!」
「残してちゃダメ?」
「ダメですけど……あ、交換でなら」
「何と?」
「お家ついたら教えます♡」
その日はツチノコがたくさんハズカシー思いをしたそうだ。何をされたのかは誰も知らないが、トキに録画されたという話をしていたというのを誰かが聞いたらしい。
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