第33話 大切な人の大切な日 Part2

 その後は、トキとツチノコはべっとりくっついて過ごした。誕生日だからと言って特別に何かをするわけでもなく、普通に一日を過ごす。ただ、いつもよりもその近い距離は近かった。


 そして、夕暮れ時。


「ツチノコ、そろそろ行きますか?」


「行く?そうだな、そろそろか」


 家の中なのに付けていた腕時計を確認しながら会話する。お互いに大好きな人からもらったプレゼントを見る度に嬉しくなり、数分置きに時計を確認していた。針がどこを向いているかなんてどうでもよかった。


 二人で外に出る。家の中ではトキの方がわかりやすく背が高いのだが、家の外に出るとツチノコがそれに追い付く。正確にはまだツチノコの方がほんの少し背が低いのだが、それでもほとんど同じになれた。


 いつもの固定具を使い、トキとツチノコの体を繋げる。空の旅の中でツチノコが落っこちる心配がなくなったところで、トキが翼を動かして二人の体を宙に浮かせた。


「行きますよ?」


「よろしく」


 そうやって、いつも通りに二人で飛び立った。





 空を飛んでたどり着いたのはケーキ屋。マーゲイとリカオンのいる、いつものケーキ屋である。


「ごめんくださーい」


 トキが先導してそのドアを開ける。カランコロンと気持ちのいい音が店内に響き、カウンターのリカオンが顔を上げた。


「いらっしゃい。予約のケーキ?」


「はい!」


「バースデーケーキね、どっち?」


 リカオンがメモ用紙を確認しながら問いかける。恐らく、トキとツチノコのどっちが誕生日かという話だろう。トキとツチノコは顔を見あわせ、頷いてから同時にその質問に答える。


「「どっちも!」」


 その答えに、リカオンは少々の驚きの顔を見せた。そして、厨房のマーゲイを大声で呼ぶ。


「どうした?」


 呼ばれて来たマーゲイは、トキとツチノコの顔を見て「相変わらずだな」とニヤリとした。そして、リカオンがその耳に手を当てて何やら小声で話す。そして、一気にマーゲイの顔がいい百合の花を観察する時のそれになった。


「誕生日一緒とか運命じゃん……現実でそんなことが起きるなんて!本当にベストカップル!!」


 マーゲイがそんなことを言うので、トキとツチノコは照れくさくなってしまいヘンテコな反応で返した。


「それで、予約のケーキだろ?待ってな」


 そう言ってマーゲイが厨房に戻り、少しの時間を置いて帰ってきた。そして、一回り小さめなホールケーキ用の箱を持ってくる。


「サービス付きだ。崩さないように持って帰れよ」


 そう、自慢げにマーゲイが言った。珍しくパティシエの顔をしていた。





 その日の晩ご飯は、二人で作った。最初は、トキが「今日は張り切って作りますよ!」と意気込んでいたのだが、ツチノコが「じゃあ私も手伝う」と言うので、二人でキッチンに立ったのだ。


「じゃーん!お誕生日ご飯完成です!」


「おおー!」


 テーブルに並べられた料理の数々を見ながら、トキとツチノコで拍手をする。トキの得意料理や、ツチノコの好きな物で構成された食卓は特別感が段違いだった。


「ツチノコ!食べましょう!」


「そうだな、じゃ……」


「「いただきます!」」





 楽しい食事も終わり、二人で食後のまったりのんびりべたべたイチャラブタイムに入る。ソファの上で肩を擦り寄せ、おしゃべりをするのだ。


「ツチノコ、ケーキお腹に入りますか?」


「ワンホール食べきるのは難しいけど、一切れくらいなら……」


「じゃあ、用意しますね!」


「なら私は紅茶作ってるよ」


 二人で席をたち、キッチンへ。ツチノコはお湯を沸かし、トキは冷蔵庫から出した箱からケーキを取り出す。そして、わっと驚きの声を上げた。


「見てくださいこれ!」


「どうした?お、すごい!」


 白いクリームでコーティングされたホールケーキの上に、二つのアートキャンディと呼ばれる食べれる人形が乗せられている。一つは、赤と白の鳥のフレンズ。もう一つは、茶色でストライプが入った蛇(?)のフレンズ。


「トキだ!」「ツチノコですね!」


 二人とも、「私だ!」の前にパートナーの名前が出てきた。それにあとから気づいて、ふふふと笑う。


「なんだか食べちゃうの勿体ないですね?」


「カメラで写真撮ろうか」


「あ、いいですね!近頃使ってないんで忘れてました」


 ツチノコがデジカメを持ってきて、可愛いトキドールとツチノコドールを写真にする。マーゲイの言っていたサービスとはこれのことだろう。


「あ、ロウソク立てましょうか!」


「ああ、ふーってやるやつか?」


「そうそう、ふーっ、ですよ」


 ツチノコの紅茶もいつの間にかできたようで、それらをテーブルまで運んだ。ロウソクに灯りをつけ、逆に部屋の電気を落とす。六本のロウソクの灯りだけが、部屋を照らしていた。


「歌いますか?」


「あっ私も!」


 二人で、すうっと息を吸う。そして。


「「はっぴばーすでーとぅーゆー♪はっぴばーすでーとぅーゆー♪」」


 文章に起こすと可愛いが、強烈な歌声が部屋の中でうねる。夜なのでトキが控えめなのは窓ガラスにとって救いとなった。


「「はっぴばーすでーでぃあ……」」


「ツチノコ!」「トキ?」


 お互いの目が合う。一泊おいて、にっこり笑う。


「はっぴばーすでーとぅーゆー!!」


 二人で同時に、ケーキに息を吹きかける。部屋の明かりがなくなって真っ暗になってしまうが二人はそんなこと気にしなかった。


「改めてお誕生日おめでとうございます!」


「トキも、おめでとう!」


 今回はちょっぴりイレギュラー、たまにはこんな非日常も。























「ねぇ、やっぱり食べるのもったいない……」


「うむむ、どうしましょうか……」


 結局、トキドールはツチノコが、ツチノコドールはトキが美味しくいただきました。本物の方はご想像にお任せします。

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