第20.5話 年越しの日

「あああ、あと五分!どうする!?何する!?」


「えええ、何しましょう!ジャンプします!?」


 12月31日午後11時55分。トキとツチノコは盛り上がっていた。年越しそばも食べて、もうあとは来年が来るのを待つのみである。


「いいな!ジャンプしよう!」


「はい、しましょう!ぴょんって!」


 そんなことを言ってるうちに残り三分。テンションが高ぶって、何だか変な感じになってきた。


「どうする?手つなぐ?」


「ハグにしましょう!難易度を上げるんです!」


「トキは一体何を求めてるんだ・・・?」


 そんなわけで二人でくっつく。珍しくトキがセクハラ紛いのことをしているが、この二人なので許される。


「・・・ちょっと暇ですね」


「抱きつくの早かったな」


 そう言いつつ、二人で抱き合って離さない。家の中だとツチノコの方が背が低いのが際立つので、トキが若干見下ろしてツチノコが見上げる形になる。


「・・・」


「・・・」


 目が合って、無言で見つめ合う。


「ああーっ好きです!」


「私も〜!」


 やはり変なテンションになっているが、中身は大して変わってない。いつも抑えているだけだ。ほんの少し、弱いお酒が入っているせいかもしれない。さっき飲んだのだ。


「・・・トキあったかい」


「ツチノコも・・・」


 急に静かになる。ぎゅーっとして二人とも幸せそうに目を瞑る。


「・・・あ、あと一分ですね」


「お、ホントだ」


 また急に平常運転に戻る。時計を見て、チクタクと進む秒針を見つめる。


「・・・今年は色々ありましたね?」


「なー、ちょっと頭でっかちだったけど」


「確かに、大変だったのは二月頃でしたね?あの時は逃げちゃってごめんなさい・・・」


「平気、でももういなくなったりしたらヤだからな・・・」


 トキ繁殖期事件を初めに、今年は色々あった。もっとも、シリアスなのはそれくらいでそのあとは幸せいっぱいだったが。


「来年もよろしくお願いします」


「こちらこそ」


 きゅ、と抱く力が強くなる。無言で接吻を交わし、お互いうっとりした顔を見せ合い見合う。


「・・・もう明けますね?」


「残り十秒、ジャンプの準備だな」


 チク、タク、チク、タク、チク、タク、チク、タク・・・


「「せー・・・」」


 チク・・・


「「のっ!」」


 二人で地面を蹴り、密着したまま宙に舞う。その瞬間だけ時間が遅くなったようで、長い時間滞空しているように感じた。


「・・・」「・・・」


 もう年は明けただろう。ジャンプで年を越す作成は成功である。


「・・・」「・・・」


 ツチノコは疑問に思った。いくらなんでも長すぎるのではないか?こんなに一瞬を長く感じるものか?


「・・・」バサバサ


「・・・あの、トキ?」


「はい?」バサバサ


「飛んでるよな?」


「・・・あ、つい感極まって・・・」


 抱き合った姿勢を崩さず、ゆっくり床に降りてトキがてへへと笑う。ツチノコもつられて笑う。


「あけましておめでとう、トキ」


「おめでとうございます、ツチノコ!」



「「今年もよろしく」お願いします!」

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