第1話 もうすぐ冬の日

 ゆらゆら、ゆらゆら・・・


 名前の通り、金色に輝くオレンジの身体がアクリル製の箱の中を行ったり来たりする。その度に、そのヒレが揺れる。


 なんてことない眺めだ、しかし何故か見入ってしまう。


 今、そこに見入っているのは青緑の綺麗な目をした少女。髪も同じ青緑、茶色の独特な横縞が入ったパーカーを着ている。


「こいつは、寒くないのかな?」


 ふと疑問に思い、少し大きな声で喋る彼女。とこ、とこ、とこ、と板材を踏む音がして、もう一人隣に少女が現れる。


「金魚ですか?どうでしょう・・・」


 アクリルの箱の中を泳ぐそれと同じような金色の瞳を持つ白髪の少女が答える。


「うーん、でも元気だし大丈夫かな?」


「じゃないですか?不安だったら、図書館で調べます?」


「それもいいな」


「そうですね、とりあえず朝ごはん食べましょうか」


 二人は、水槽の中の金魚から離れてちゃぶ台の傍に座る。座布団のふかふかした感触を感じながら、「ジャパまん」と書かれた紙包みの封を開ける。


「じゃ、いただきます」「いただきます」


 そう言って、二人同時に紙袋の中のものにかぶりつく。もぐもぐと咀嚼して、喉を鳴らしてから二人とも顔を明るくして喋り出す。


「いやぁ、もう冬ですね?」


「冷えるようになってきたな、爬虫類には堪える」


「大丈夫ですか?ツチノコ、いっつも寒そうな格好ですし今度暖かそうな服でも買います?」


「考えてみるよ、それよりトキは大丈夫か?」


 ツチノコと呼ばれた少女、パーカーの方がそう答えてまた一口かじる。トキと呼ばれた、白髪の方もそれにつられるようにして一口。


「私はまだ大丈夫ですけど・・・今日、お買い物でも行きますか?お休みですし」


「そうだな、でも・・・」


 ツチノコがカレンダーに目をやる。11月のページ。


「引っ越すなら、年内がいいよなぁ・・・」


 引越し。夏の頃から、二人で計画していたものだ。前々から物件探しをして、もういくつかに候補を絞ってはいる。しかし、まだ決めかねているのだ。


「そうですね、今週にはお家決めないと、荷物運びとかもありますし・・・」


 年内に引っ越すなら、12月の頭がベスト・・・と、言うよりラストチャンスだ。そして今は11月半ば、そろそろお部屋探しを終えないと・・・と、いうところである。


「じゃあ、今日で決めよう。今週最後の休みだしな」


「そうしますか・・・時間余ったら、色々してもいいですね?」


「だな」


 そう言い終えた時、ちょうど最後の一口がなくなった。





「「いってきまーす」」


 そう言って家を出て、トキが扉の鍵を閉める。その間にツチノコは自分の腕をさすっていた。


「いやー、本当、寒くなったな」


「秋らしいのもあっという間でしたね?」


 そんな話をしながらアパートの廊下を歩いて、階段を降りる。軽い話し合いの末に、今日は歩いて行動しようということになったのだ。理由は簡単、楽しいからだ。


「秋、なんかありましたっけ?金魚の水槽買って、『秋の音楽会』出て・・・ぐらいですか?」


「ん・・・そうだな」


 その話が出て、ツチノコが少し怪訝そうな顔をする。どうしたのかとトキが尋ねても答えず、代わりに並んで歩くトキの腕に抱きついてきた。


「ツチノコ・・・?」


「ごめん、少しこのままで・・・」


 ツチノコの意図は、トキにもなんとなくわかった。言われるがまま彼女は自分の片腕を預ける。もっとも、抱きつかれるトキの方も嬉しかったが。


「私は、ずっとトキのこと好きだからな?」


 唐突なツチノコの言葉に、トキが頬を赤らめる。そこからにっこりと笑って、ツチノコに返す。


「私だって、ずーっとツチノコのこと好きですよ?」


「・・・ありがとう」


 そう言って、ツチノコは両腕を緩めてするりとトキから離れる。それと同時に、片手だけ滑らせてトキの手を取る。そのまま指を絡ませ、手を繋ぐ。


 今のやり取りのように、ご存知の通り二人は恋人同士だ。しかし、女の子同士。一般的な感覚で見ればイレギュラーな愛の形だろう。それでも二人はしっかり愛し合っていた。


「じゃあ、出発しましょうか!」


「ああ」


 そうやって、アパートのロビーを通り抜けた。

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