第2話 お部屋探しの日

「トキは今まででどれが良かった?」


「お家ですか?そうですね・・・」


 出勤時間帯を過ぎて、人通りの少なくなった道を歩きながら会話する。


「やっぱり、100%思い通りとはいきませんよね」


 トキは難しそうな顔をして、独り言のように答える。繋いだ手を挟んだ隣でツチノコは頷いて、顎に手を当てる。ポケットの中に入れていた手だが、やはり冷えていたのか「つめた」と小さく悲鳴を上げる。トキはふふふと笑った。


「そりゃあな、防音性が高くて出来れば一軒家で私達でも借りられそう・・・なんてな」


「音漏れが気になるんですよね、お歌にしても二胡にしても」


 他にも漏れては不都合な音はあるが、それにはトキも触れずに話す。そう、トキはそこそこの声量で歌いたいしツチノコだって二胡を家で弾きたい。アパートなどではその辺が心配なのだ。


「パークの中だと物件も限られてきますからね」


 ここはジャパリパーク。いくらひとつの都市のように発達しているとはいえ、流石に音楽関係者向けの物件はない。


「でも、フレンズ向けの建物にすれば防音もいい一軒家はありそうだよな」


「確かに、私たちなら安いですしね?ただ・・・」


 ジャパリパークには、フレンズが独立して生活するようの物件が沢山ある。トキ達が住むアパートも、一般アニマルガール証明証というものさえあれば無料で住めるフレンズ向け物件だ。食事としてジャパマン配布のサービスもついているが、部屋は簡素で「生きるため」の最低限の機能だけの物件である。働いていない、収入無しのフレンズ向けなのだ。

 逆に、収入があるフレンズ向けの物件だってある。もちろん食事サービスなどは無し、電気や水道だってタダではない。しかし、普通に日本で借りようとしたらそこそこのお値段がするような家も安く借りられるようになっている。ものによっては、元動物と似たような環境で寝れる寝室がついている家などもある。


「空いてないんだよなぁ・・・」「ですよねぇ・・・」


 そういった物件は人気である。パークの都市部となると土地も限られてくるため、大抵は埋まっているのだ。郊外の方まで視野を広げればまだ空いているのだが、トキ達はパークパトロールの事務所に顔を出す都合上それだと不便だ。


「うーん、そうなるとやっぱりあそことあそこのどっちかか?」


 ツチノコのいう「あそこ」と「あそこ」というのは、事前に目星をつけていた物件である。トキとツチノコ両方が気に入って、住むにも現実的な場所だ。


「川沿いのお家ですか?確かに、お値段もいいしお風呂着いてるしでよかったですよね!ただ、やっぱりアパートなのが少し・・・」


「やっぱりな。一人暮らし向けだから結局今とほとんど変わりなし・・・か」


「立地とかは素敵なんですけどね~」


 一つ目の候補は、川沿いのアパート。二人の言う通り、住み心地は良さそうだが二人の求めるポイントが微妙という所なのだ。


「もう一つはアレだな、街中の方の一軒家」


「ああ、あそこですか。いいですよね、遮音性がウリだとか!」


「部屋も十分だしな、ああいう所に住めれば文句ないけど・・・家賃以外は」


「あはは・・・」


 二つ目の候補は、都市部のほぼ中心に位置する貸家。見た目も可愛らしくて、二人の理想の家と言ってもいいほどなのだが家賃が非常にお高い。パークパトロールは残念ながら高収入というわけではない、トキ達には少し敷居が高い物件なのだ。


「どっちもどっちですね」


「だな、新しくどこか空いてたりしないかな」


「どうでしょうか?」


 いつの間にか到着した不動産屋の前で立ち止まる。ガラス張りの壁に貼られた様々なオススメ物件情報に目を通す。さっき候補に上げた二つも貼ってある。


「ナウさんは『ウチ来れば?』なんて言ってましたけど、流石に・・・ですよね」


「トキと二人じゃなかったら色々できないからな」


「まぁ・・・はい」


 トキは頬を赤らめながら返事をする。ツチノコも少し恥ずかしそうな表情をしていたのだが、トキに悟られないようにフードでそれを隠していた。


 と、そんな時にツチノコの目がひとつの紙に止まる。


「・・・これ、すごくないか?」


 ツチノコがトキを手招きし、その紙を見せる。

 二人で顔を見合わせた。





「「おお・・・」」


 ツチノコが見つけた物件は、つい最近貸しに出されたらしいもの。小さめの一軒家だが、元々一人暮らし用のワンルームで生活していた二人にとっては十分な大きさである。パトロール事務所までもさほど遠くない。


「では、ご案内します」


 不動産屋の男の人がその家のドアを開ける。


 トキとツチノコは、店の前で見つけた物件の見学に来ていた。店に入って聞いてみたら、当日でも見学OKということだったので、早速見に来たのだ。


「おじゃましまーす・・・」「しまーす」


 何も恐れることはないのだが、恐る恐る扉をくぐる。男の案内で、綺麗な廊下を通りリビングに入る。簡単に説明された後、自由に歩き回って見ても構わないということでトキとツチノコは家の中の探索を開始した。


「すごい綺麗ですね?」


「うん、いいかもな、ここ」


 壁は清潔感のある白、床は暗めのフローリング。

 最初に通されたリビングはそこそこの広さで、家具を並べるなら食事用のテーブルと椅子、ソファにテレビ台をを置いても快適な広さが残るくらいだ。大きな窓がついており、自然光がたっぷり入ってくる。


 リビングに繋がって配置されているのはキッチン。ツチノコから見たらそのキッチンがどうなのかはよくわからなかったが、ナウの元で料理をしていたトキの目には使いやすそうなキッチンに映ったようだ。


「私、このお家気に入りました」


「やっぱりか?私も」


 まだ部屋ふたつなのに二人はこの調子。

 廊下を通り、ほかの部屋を見てみる。どうやら一階はリビングとキッチンに加えて洗面所と風呂場、トイレしかないようだ。その洗面所に足を踏み入れてみる。


「洗濯機も置けますね?」


「洗濯機か・・・使うのか?ほら、私たちの服は洗濯要らない云々って」


 トキやツチノコの服、というよりもフレンズの服はけものプラズムという物質で構成されている。まだまだ研究途中のため、何がどうなってそうなるのかは不明だが彼女たちの服は特別意識しない限り汚れが溜まらないらしい。つまり洗濯不要なのだ。


「でも、これからの時期はあったかくするのに重ね着とかするかもしれませんし。ツチノコは特に」


「確かに・・・」


「夏だって、苦労したじゃないですか?やっぱりお着替えは必要ですし、あってもいいと思いますよ」


 そんな話をしながら、脱衣室兼洗面所から浴室へのドアを開ける。シャワーしかない今の部屋と比べたら浴槽があるだけで断然いいのだがここの浴槽は随分と大きかった。


「お風呂大きいですね」


「・・・」


「ツチノコ?」


 トキがツチノコの方を見ると、また顎に手を当ててなにやら考え込んでいた。とん、と肩を叩くとビクッと震えてトキの方を振り向いた。


「何考えてたんですか?」


「いや、なんでも」


「・・・? 二階も見ますか?」


「そうだな」


 浴室を出て、洗面所も出る。


(『一緒に入っても大丈夫そう』ってのはなんか言いにくいよな・・・)





 二階に上がってきた。同じように白い壁と暗いフローリング、同じ大きさの部屋が二つに、ウォークインクローゼットが一つ。


「こんな収納あれば、私たち十分ですね?」


「今までがあのクローゼットで事足りてたからな」


 先述の通り、トキの部屋は一人暮らし用のワンルーム。クローゼットもそういう部屋についてるもので一般的なサイズだったがそれで十分だった。それに比べてこの家は歩いて入れる大きさである。十二分どころか二十分はある。


「この二つの部屋は・・・一つは寝室だろ?もう一つは何に使えるかな」


「歌ったりする用に、椅子とか置いといてもいいんじゃないですか?何にでも使えますし」


「夢が広がるな?」


 どうやら、ベランダもあるらしい。洗濯物を干すのに使えそうだった。


「・・・いいですね、ここ」


「もう決定でいいんじゃないか?家賃も私たちで払えそうだし」


「防音性もいいって言ってましたしね?急いで決める必要もありませんし、少し考えてみますか」


 そんなこんなで建物を出る。その後不動産屋で詳しい説明を聞いたが、悪いと思うポイントがひとつもない。どうやら電波関係がよろしくないなどあるようだったが、トキ達には関係ないことだった。


 不動産屋を出て、また二人で顔を見合わせる。


「いいよな」


「いいですね」


 意見は一致しているようだった。今度ナウにも相談したりなどが必要だが、二人とももうここで決まりでいいだろうと思っていた。


「それじゃあ、少しデートでもしましょうか!どうです?」


「いいな、出費は控えめで」


「あはは・・・準備金はちゃんと残しておかないとですね?」


「だろ?」


 冷えた手同士を繋ぐ。もちろん恋人繋ぎだ。

 二人で笑いながら、ふらりと歩き出した。

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