第8話 お祭り Part1
「おお・・・!」
ツチノコが思わず声を漏らした光景。
暗くなってきた大通りを、数々の出店が煌々とライトで照らす。両端が光で彩られた道を多くの人が行き来する。
「すごい・・・!!」
「この間警備したのよりも大規模ですからね、今日は楽しみましょう!」
そういう二人の声も、チャンカチャンカという楽器の音や人混みから聞こえてくる喋り声笑い声にかき消される。
「さて、お店回りましょうか!」
「ああ!」
自然と声も大きくなる二人、手を繋いで歩きだした。
「ツチノコ、やってみたいとか食べてみたいとかあります?」
「うーん、よくわからなくて・・・トキは何かしないのか?」
「じゃあ、一つお手本がてらやってみます!」
そう笑ってトキはツチノコの手を引く。
そうして、たどり着いたお店。不思議な形の道具と、テントの奥の棚に並べられた様々な物。駄菓子をはじめ、上はゲーム機など豪華なものもたくさんだ。
「なんだここ?しゃてきや・・・?」
テントの上部に書いてある「射的屋」の文字をツチノコが読み上げる。
「まあまあ、見ててください?私が一回やってみますから」
そう言ってトキは、男性店主に懐から出した小銭を渡す。逆に店主から、金属製の小皿にコルク製の小さな弾を乗せられて渡される。
「何するんだ?」
「このコルク銃で、あの景品を撃って落とすんですよ。下に落ちたら貰えるんです」
「ほー」
トキは手前の台に置かれたコルク銃を手に取り、銃口にコルク弾を詰める。そして、ストックを肩に当てて片目を閉じる。
「お嬢さん、手は伸ばさないのかい?この店は伸ばし放題だよ」
「いいえ、大丈夫です。狙いがブレたらいけませんから」
店主に声を掛けられるが、その提案を断るトキ。
真剣な空気が流れる中、後ろでツチノコが唾を飲みこむ。
パン!
軽い音と共に、コルク弾が勢いよく飛ぶ。トキがじっくりと狙いを定めて放ったその弾は、棚の中央に置いてある携帯ゲーム機の箱にヒットした。しかし、そんな大物が釣れるわけもなくことごとくコルク弾は跳ね返された。
「ふむ・・・」
「トキ、それが欲しいのか?」
「いえ?今のは試し撃ちです」
(試し撃ち・・・?)
トキは次のコルク弾を詰めながら思考を巡らす。かつて、ナウから教えこまれたものだ。
(威力、落下速度、射程、銃の使い勝手・・・把握しました)
「じゃあ、狙いはアレですね」
トキが指したのは、駄菓子が大きく積み上げられたピラミッド。合計で七段もある。
(後六発、これならいけそうです)
また銃を構え、ピラミッドの一点に狙いを定める。
パン!
着弾を確認せずに、弾を詰め直す。また構えて、撃つ。
パン!パン!パン!
合計四発撃ち込み、やっとトキはその確認を始める。
「お、いけそうですね」
まだピラミッドは崩れていない。それどころか、一つも景品を獲得できていない。何回撃っても、少しその駄菓子の位置をずらすだけで落ちはしなかったのだ。
「五発目、これでトドメです」
パン!と、音が鳴ってコルク弾が発射される。
狙ったのはピラミッドの根元、一番下の段。そこに着弾するやいなや、急にピラミッドが傾いた。
ざらざらざらざら。
音を立てて、それが崩壊する。いくつもの駄菓子が下に落ち、どんどん獲得扱いになっていく。
「やった!成功しました!」
ニコニコと笑いながら、最後の弾を詰めるトキ。
「最後に一発♪」
そう言って発射された弾は、たった一発でフーセンガムを三箱落とした。
「ありがとうございます♪」
落とした駄菓子はビニール袋に詰められ、トキに手渡された。改めて見るとすごい量だ、買ったら三千円は優に超えるだろう。
「トキ、すごい上手いな」
「ナウさんに仕込まれたんですよ?あの人の方がもっともっと上手です」
「そ、そうか・・・じゃ、他のところも見てみよう?」
「そうですね!」
そう言って射的屋を去る。
(・・・“射的屋泣かせのNOW”の弟子だと?そんな化け物が居るなんて聞いてないぞ!?)
男性店主が動揺を隠せなかったのは、また別のお話。
「ツチノコは射的しないんですか?」
「いや、うん。トキが凄すぎて」
「え、なんかごめんなさい」
会話を交わしながら屋台を回っていると、ふとツチノコが立ち止まる。トキもそれに合わせるように慌てて立ち止まる。
「どうしました?」
「あれ、気になる」
ツチノコが指した先にあったのは、「金魚すくい」と書かれた屋台。当然、金魚すくいの屋台である。
「やってみますか?」
「んー、ちょっと気になる」
「せっかくです、やりましょう!」
というわけで。
それぞれポイが三枚、桶が一つ。
「この紙みたいなのですくうんだな?」
「そうですよ!桶が水に着いたらアウト、だそうですね?」
「ふむ・・・」
ツチノコがポイを水の中に入れる。そして、金魚の下からすくい上げるように上に持ち上げる・・・が。
水に漬けていた時間が長すぎたのか、あっさりとポイが破れてしまう。金魚は少しも持ち上がらず、優雅に泳いでいるその形のままに穴が空いてしまった。
「・・・これ、可能なのか?」
「できますよ?私は成功したことないですけど、えへへ」
「むぅ、なんか悔しい」
「もっと、水に付けないようにするんですよ。こう、パッて!」
トキが実際にポイを使ってやってみる。が、上手くいかずあっさりと穴が空いてしまった。
「やっぱり、難しいですね」
到底無理だ、と言いたげな表情のトキを見てツチノコは思う。ここで私が金魚をすくえば、なかなかかっこいい所を見せられるんじゃないか?トキに射的で気圧されていたが、これで挽回できないか?
(本気モード・・・!)
薄暗い中で、ツチノコの目が淡い灯りをともす。綺麗な青緑の目が、一層美しさを増す。
「ツチノコ・・・?って、え!?野生解放!?」
「ああ、本気出す」
「そ、そうですか・・・使いこなせたんですね?」
「うん、なんとなくできるようになった。トキは・・・野生解放したことないんだっけ?」
「え、いや私は・・・ええ、まぁ」
野生解放。まだまだ未知の現象であり、それが出来るフレンズも限られているとされている。理論上はどのフレンズでも可能だが、余程の感情の昂りなどがないと普段それが発現することはない。
ましてや、それをコントロールできるフレンズなんて極わずかだ。いつの間にか、ツチノコはそれを会得したらしい。
そして、トキは。
ツチノコの記憶が薄い所で、一度だけ野生解放をしたことがあった。しかし、トキはその野生に振り回されてしまった・・・具体的には、憎む対象に強い殺意を覚え、殺す勢いで攻撃を加えようとしてしまったのだ。その時はなんとか自我を取り戻して踏みとどまったものの、それ以来トキの中でもトラウマになってしまい野生解放したことはない。
(ツチノコは平気なんでしょうか・・・いやでも、最初に野生解放したのは私のことを助けてくれた時・・・ってことは、私と同じような感じなんでしょうか?あの時思いっきり人蹴ってましたし)
またしても去年のクリスマスのことを思い出していると、ツチノコが嬉々とした声を上げる。
「やった!トキ、見て!」
ツチノコがそう言って見せてきた桶の中に、オレンジ色の金魚が二匹。まだ人の親指くらいの彼ら(?)は、大きなプールから桶に移されたのも知らないかのようにゆらゆら泳いでいる。
「おお!すごいですねツチノコ!」
「へへへ、そうか?」
「ええ、私金魚すくい成功してる人初めてみました!」
「はは、そんな大げさな・・・私ポイ切らしちゃった、トキはやらないのか?」
「そっか、私はまだポイありますもんね。よーし、ツチノコに負けませんよー!」
ツチノコが嬉しさのあまり、尻尾で地面を叩く横でトキも金魚すくいを再開した。
その後トキは成功せずにポイを使い切ってしまった。ツチノコがすくった二匹は貰い受けた。
「・・・かわいいな」
「そうですね?」
ビニール袋に水と共に入れられ、ゴムで留められた金魚を眺めながらツチノコが呟く。トキもそれを覗き込み、ツチノコの呟きに反応する。
「・・・トキ程じゃないけどな」「ツチノコ程じゃないですけどね?」
言葉が被った。隙が生まれるのは攻撃する時ということだろうか、お互いに攻めお互いに不意打ちを食らったため二人で黙り込んで赤面してしまう。
「・・・水槽、買わなきゃいけませんね」
「そ、そうだな!ごめん、勝手に出費増やして」
「いえいえ、大丈夫ですよ?どうせお金はそんなに使いませんし、平気で・・・あ・・・引越し」
「あ・・・いや、ごめん。その分仕事も頑張るから・・・」
「いえいえいえ!大丈夫です、大丈夫!そんなこと言ったら金魚が可哀想ですよ」
「そっか、そうだな・・・」
ツチノコがしゅんとした顔をする。それを見かねて、トキは明るい声をかける。
「ほら!次は何します?食べ物とかもいいですよね!」
「食べ物・・・そっか、食べ物!トキのおすすめとかあるのか?食べたい!」
「あはは、ツチノコは食べる話になるとテンション高くなりますね〜?」
「え゛っ、そうか?な、なんか恥ずかしいな」
「私のおすすめは・・・」
そんな会話をしながら、また歩き出した。
Part2に続く!
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