第7話 お祭り!プロローグ

 祭りの日の夕方。トキはナウ宅で浴衣を着せられていた。


「はい、おしまい!ツチノコちゃんに見せておいで?」


 トン、とトキはナウに背中を押される。


「ありがとうございます!」


 ナウに礼を言って、トキはくるりと回ってみせる。

 ナウから借りた浴衣、桃色でトキとよく合う。


「可愛いよ、よく似合ってる。ツチノコちゃんも喜ぶよ!」


「はい!」


 そうして玄関を出て、ツチノコの元に向かう。





 一方のツチノコは。パトロール事務所で、パークパトロールのメンバー達に囲まれて浴衣を着せられていた。


「ここがこうで・・・」


「いや、そうじゃなくて・・・」


「ちがうよぉ、こっちがこうでぇ・・・」


(大丈夫かな・・・?)


 この浴衣はパークパトロールで所有しているもの、なんでも私服警備に使うらしい。が、一回も使われたあとのない新品そのものなそれをツチノコは着せられていた。


「ふー、やっとできた。ノコッチ、行ってらっしゃい!」


「ありがとう。・・・ところで、私が着ても変じゃないか?あんまりこういうの似合わないんじゃ」


 ヒラヒラとした袖を揺らしながらツチノコがメンバー達に問いかける。

 薄黄色のその浴衣、ツチノコによく似合っているのだが。


「可愛いよ!大丈夫!」


「トキも喜ぶさ、行ってらっしゃい」


「俺が大丈夫って言うから大丈夫だ、行ってこいツチノコ!」


「・・・あんなにアツアツだから・・・きっと・・・大丈夫・・・!」


 不安そうなツチノコを全員で勇気づけ、事務所から送り出す。


「「「「「行ってらっしゃい!」」」」」


「・・・ここにただいまはしないけどな?」


 そう言って、ツチノコは事務所のガラスの扉をくぐる。


「・・・待ち合わせの場所、間に合うかな?」





 トキとツチノコ、少しだけ離れ離れ。

 お互い、別々に着付けをしてもらって浴衣姿で顔を合わせるのだ。事前の連絡でトキはナウの元へ、ツチノコはパークパトロールの所へと別れていた。


 そして、今二人ともそこを離れてひとつの場所に向かっている。





「ツチノコ、遅いですね」


 呟いてみたものの、時計は近くにないし腕時計もないので本当にツチノコが遅いのかはわからない。トキが早すぎただけかもしれない。


「・・・ここも懐かしいですね」


 待ち合わせの場所は、大きな針葉樹の下。都市部なのに、わざわざこんなものが植えられている。


「・・・あの頃は、恋人じゃなかったんでしたっけ」


 過去に、一度だけ二人でここに来たことがある。

 前のクリスマスイブの夜だ。この大きな針葉樹がクリスマスツリーとして派手に飾り付けされ、イルミネーションが観れるということで二人でここに来たのだ。


「あの頃は、なんだったんでしょう?髪が黒いのも、一晩で治っちゃったし。あれは不思議でしたね」


 まだ、トキは知らないのだ。前の冬、去年の末頃から今年の二月後半まで続いた髪が黒くなる謎の現象。

 ナウもツチノコも知るように、あれはトキが動物の朱鷺であった頃の繁殖期が何らかの理由でフレンズなのに出てきてしまったものなのだが・・・そのせいでツチノコを襲ってしまったとトキ本人が知ってしまってはきっと傷つくだろうと思って、誰も伝えてない。トキの中では、「あれは不思議だったなあ」でおしまいになっているのだ。



 と、そんなことを考えていると遠くからこちらに近づいてくる人影がひとつ。

 近づくにつれ、その姿は大きく見え、容姿もはっきりと見えるようになる。


 薄黄色の浴衣、フードに隠されることのない綺麗な青緑の髪、少し恥ずかしそうな表情。


「ごめん、待ってたか?」


「少しだけ。もう、遅刻した分楽しませてくださいね?」


「ははは、私祭り初めてだからよくわからないって・・・」


 二人とも、出会ってから今日の今日まで同じ家で暮らしていた。それは恋人になる前からもだ。ほとんど同じに行動していた二人、デートの待ち合わせなんてするのは初めてだ。すこしそれっぽい会話を交わしてみた。


 そして、話はお互いの容姿についてに移る。


「・・・ツチノコ、可愛いですね?」


「トキも、よく似合ってる」


 浴衣姿なんて、お互い見た事ない。その「良さ」を形容する言葉を持っておらず、そこで言葉が止まってしまう。


「なんて言うんでしょう・・・エモい?」


「えもい?なんだそれ」


「いや、昔ナウさんがこういう時に使ってた気が・・・」


「そうなのか?」


 お互いの浴衣姿に見惚れ、しばらく見つめ合う。そして、ツチノコから一言。


「行くか?」


「そうですね、ここで見つめ合っても仕方ないですし」


 トキがツチノコのすぐ側に小走りで駆け寄る。

 ツチノコは隣に来たトキの手を取る。


「絶対に離れるなよ?いつぞやみたいなのは嫌だからな」


「当たり前じゃないですか?むしろ、離れられると思わないでくださいね?」


 そんな会話を交わしながら、繋いだ手を動かして指を絡める。ぎゅっと、離れないように。


 そうして、お祭りの会場までは歩いて向かった。



 続く!

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