第4話 海 Part2

「おっ、おかえり!」


 水着が外れる事件が解決し、浜まで戻ってきたトキとツチノコをナウが出迎える。


「ただいま戻りました!」「ただいま」


「ねぇねぇ、二人ともお腹空いてない?僕ぺこぺこなんだけど」


「確かに・・・私もです」「言われてみればな」


「よし、ご飯にしよっか!」


 そう言いながらナウは歩き始め、トキとツチノコはそれについて行く。


「どこ行くんだ?」


「決まってるじゃない、海の家!」





「ああ、ここ海の家っていうのか」


「そうですよ?着替えだけじゃなくてシャワーとかお食事もできるんです!」


「ほー・・・」


 ナウに着いてきて辿り着いたのは着替えをした更衣室のある建物。海の家、地域によっては浜茶屋と呼ばれるこの施設は海で遊ぶ上でよくお世話になる。


 ここの海の家は、男女更衣室と外に設けられたシャワー、あとは商品を販売したり料理を出したりするカウンターがあるだけで休憩ペースのような場所は無い。代わりに建物の周りにビーチパラソルが立ててあるテーブルとイスが何セットも設けてありそこを自由に使えるという感じだ。


「ご飯何食べる?」


「辛いもの・・・は、ないですね」


「海でも辛いもの食べるつもりだったのか?」


 メニュー表の看板を三人で囲みながら見る。メニューが豊富とは言えないが、貼ってある写真を見るにはどれも美味しそうだ。


「僕はこれ!」「私も」「私もです!」


 そう言って三人で指さしたのは焼きそば、海の家での定番メニューと言ったところだろうか。

 店員に焼きそば3つと適当な飲み物を注文し、しばらくして出てきたそれらを受け取りテーブルに着く。


「さっきどしたの?沖の方でなんかわちゃわちゃしてるのが見えたけど」


「い、いやぁ・・・ちょっとですね」


「うん、大したことない。解決したしな」


「そう?ならいいんだけど」


 そこで会話が止まり、ちょっとした沈黙。三人で顔を見合わせて、目で何かを伝え合う。


「じゃ・・・食べよっか」


 ナウの言葉にトキとツチノコが同時に頷く。そして、三人で手を合わせて。


「「「いただきます!」」」


 焼きそばを啜りながら、ツチノコが二人に声をかける。


「この後何するんだ?」


「うーん、何してもいいけど・・・なんかやりたいこととか・・・あっ」


「「あっ?」」


 ナウがすっと海の家の建物の方を指さす。その指の向く方を見ると、プラスチック製の水色のたらいとそこに浮かんでる緑と黒の模様が入った玉。スイカだ。


「スイカがどうしました?」


「違う違う、その上の看板」


 トキとツチノコが目線を少し上にすると、「スイカ販売中」の大きな文字の下に小さく書かれた「スイカ割りセット貸出中!」の文字。


 ナウの方をトキとツチノコが二人で振り返ると、ニコニコと笑っていた。





「よし、準備完了!やるぞ!」


「おー!」「お、おー・・・?」


というわけでスイカ割り。

 ナウが選別して買った大玉のスイカを、海の家から借りてきたブルーシートの上に乗せてナウが声を上げる。トキ達もそれに合わせて拳を天に突き出す。


「一発目、誰いく?」


「じゃんけんでいいんじゃないですかね?」


「だな」「だね?」


 というわけで、三人で輪になり・・・と言うよりは三角形だが。に、なりじゃんけんをする。


「「「じゃーんけーん・・・」」」


「ぽん!」


 それを数回繰り返し、結果として順番はトキ、ツチノコ、ナウの順。


「はい、トキちゃん。回るのは10回ね」


「ふ、不安です・・・」


「大丈夫大丈夫、頑張って!」


 ナウは笑いながらトキに木刀と目隠しを手渡す。

 トキはその目隠しをかけて、砂に木刀を突き立ててぐるぐると回り始める。


「「いーち、にー、さーん・・・」」


 ナウとツチノコが横で回転数を数える。


「「じゅう!!」」


 パッとトキが顔を上げて、フラフラと歩き始める。


「トキちゃん、もっと右!」「左に45度回転!」


 ナウとツチノコの誘導で、少しずつスイカへの距離を詰めていく。


「そこ!ストップ!」「そのまま振り下ろす!」


 その二人の合図でトキは木刀を振り上げる。しかし、木刀に重心を引っ張られてバランスを崩してしまい・・・


 ぼすっ


 スイカにはおろか、ブルーシートにも当たらずに砂浜に振り下ろしてしまった。


「ダメでした〜」


 トキは残念そうにしながらツチノコに木刀と目隠しを渡す。ツチノコはそれを受け取り、目隠しをかける。


(ここでかっこよく決められれば・・・!)


 目隠しをしているため前は見えない。しかし、その状況でも使える作戦を思いつき思わずニヤリと笑う。


 とりあえず木刀を立てて、それを中心にぐるぐる回る。


「「きゅーう、じゅう!!」」


 トキとナウの声で、すっと顔を上げる。


(作戦開始!)


 作戦はこう。

 まず、ピット器官を発動する。すると、目隠しを貫通して赤外線が見えるはずだ。きっと、キンキンに冷やされたスイカだけが浮き彫りになって見えるはず、そうすればそこに木刀を振り下ろすのは簡単な話。


 と、ツチノコは思っていたのだが。


「ぎゃああああ目がああああああ!!!」


 ピット器官を発動して、絶叫する。急に上げた大声にトキ達もビクッと驚き、砂まみれになるのもお構い無しに地面を転がり回るツチノコに駆け寄る。


「ツチノコ!?大丈夫ですか!?」


「うぅ゛・・・目が痛い・・・」


「目?目隠しが入ったりしましたか?」


 ツチノコが言っているのは正確には目ではないが、とにかく目のあたりがズキズキと痛むのだ。

 と、その様子からナウが何かを察する。


「ツチノコちゃん、ズルはいけないよ?」


「う・・・なんでそれを」


「ピット器官使ったでしょ?それで・・・」


 ナウの立てた仮説では、ツチノコはピット器官を使い、スイカの位置を判別しようとした。結果、ギラギラと夏の強い日差しにより熱され暑くなった砂浜と太陽光を乱反射する海面から出る赤外線が強すぎてアウト、わかりやすく言えば肉眼で太陽を直視したような状態に陥った。その強烈な痛みでゴロゴロ砂浜を転がった・・・ということだ。


「全くその通りだ・・・」


「ツチノコ、ズルなんてしちゃダメですよ?」


「うん、身をもって実感した。ごめん」


 ツチノコはまだクラクラするとの事で、この順番はパス。次はナウ、キュッと木刀を握ってキラキラとした目を手の内のソレを見つめている。


「懐かしいなぁ、この木刀を握る感じ・・・!」


「懐かしい?」


「僕は剣道もしたことあるのよ、もっとも学校で部活してただけだけどさ・・・でも実は苦手〜」


 ぶんぶんと木刀を正しい姿勢で振りながら、にししとナウが笑う。


「ナウにも苦手なんてあるのか?」


「何言ってるの、僕にも苦手はあるよ?剣道はねー・・・運動は出来るんだけど駆け引きが苦手ですぐ負けちゃう」


 ふっ、と短くナウが息を吐いて木刀を砂に刺すように下ろす。目隠しをかけて例にならいぐるぐる回り始める。


「「じゅう!!」」


「え、えーと・・・そのまま!」「そのまままっすぐ!」


 なんとびっくり、ナウはなんの指示もなしに真っ直ぐとスイカの方に向かっていく。


「すごい・・・」「ヒトって透視能力でもあるのか・・・?」


 指示を出さないのに、スイカの前でピタッと止まる。すっ、と天に刺すように木刀を振り上げ、それを勢いよく、掛け声を出しながら振り下ろす。


「はああああぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」


 タァン!


 スイカにクリーンヒット、しかし・・・


「かっ・・・た!?何コレ!?超硬いんだけどぉ!」


 スイカは無傷、逆に木刀越しに伝わる衝撃がナウの手にビリビリと響く。木刀を離した手を痛そうに振るナウに対し、スイカは何も無かったかのようにブルーシートの上に佇んでいる。


(((このスイカ・・・強い!)))


 だんだん、そのスイカが三人を嘲笑っているように見えてきた。まるでラスボス、魔王のようなとてつもない強敵オーラを放っている。


「なんか悔しいですねこれ」


「ああ、簡単には割らせないってか」


「僕の剣を耐えるとは・・・くぅ」


 三人でスイカを取り囲む。次はトキの番。


「「じゅう!!」」


 例にならってぐるぐる10回、ツチノコとナウの指示によりスイカに少しずつ近づく。


「「そこ!」」


 パン!


 トキが振り下ろしたのはヒット、しかし中心から逸れたためダメージは微量と思われる。

 目隠しを取って悔しそうに地団駄をふむトキ、それを呑気に「かわいいなぁ」なんて思いながら眺めていたツチノコに木刀達が手渡される。


「よし、やってやる・・・ズルはなしだ、正々堂々叩き割る!」


 珍しく気合いを入れているツチノコ、目隠しをきっちりとかけ、また10回。


 で、なんやかんやあって。


 パァン!


「まだ割れないか・・・」


「今のきっちり真ん中だったのにね?」「ツチノコでもだめですか・・・」


 まじまじとツチノコはスイカを見つめる。まだツチノコとしては食べたことのないスイカ、実に楽しみだ。しかし、せっかくよく冷えたものを買ったのにこいつが硬いせいでなかなか食べられない。そのせいでぬるくなってしまう。


「なんかムカついてきた」


 じっとスイカを見つめたまま、ツチノコが左目を閉じる。右手でピースを作り、それで右目を挟むようにして・・・


「ダメですよツチノコ!ズルはしないって言ってたじゃないですか!」


「だって・・・」


「というかビームじゃ割れるというか穴あくだけじゃ・・・」


 次はナウ。


「よーっしやるよぉーー!!」


 そんなこんなでスイカ割りはループする。何度もループループする。



トゥットゥルルットゥ ルットゥットゥル♪



「「「・・・」」」


 十週くらいしたろうか。まだ割れない。もうスイカ割りというゲームそっちのけで木刀で叩きまくるが、全く割れる気配を見せない。もう三人で座り込んでスイカを囲む。


「どうしたもんかね」


「どうしましょうね」


「どうすんだこれ」


 似たようなセリフを三人で放つ。と、その時スイカを囲む三角形の輪の外から声が掛かる。


「あの・・・どうしたの?」


 三人で声の方向を向くと、一人のフレンズが立っていた。黒い、上から下までひとつになっている水着とトキが付けているようなファー、白いダブルお団子ヘア。


「えと・・・スイカが割れなくて。あなたは?」


 トキの言葉に黒い小さな獣耳の彼女が貝殻のネックレス(?)を揺らしながら答える。


「私はアラスカラッコ、手伝ってあげようか!」


 わははっ、と明るい笑顔で彼女はそう言い放った。


Part3に続く!

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