第3話 海 Part1

 太陽の光をギラギラと跳ね返す白い砂浜。素足で踏みしめるとじゃりじゃりする。


 底が見えず、吸い込まれそうな青い海。目にするだけで心奪われるような神秘を感じる。


 その砂浜と海の間を行ったり来たりしてる透明な水。正確には海水。


「やー海だね・・・」


「何ぼーっとしてるんですか?」


「いや、久々に来たからちょっと見とれちゃってね。いいね、海・・・うん」


 うっとりと、砂浜に立って遠くを見つめるナウ。水着姿のトキはそれを不思議に思いながら、まだ更衣室から出てこないツチノコを心配していた。


「ツチノコ遅いですね」


「ねー。トキちゃんやっぱりその水着似合うね?」


「えへへ、そうですか?」


「僕はその辺のセンス無いから分からないけどね」


 ナウが似合うと言ったトキの水着は、先日買ってきたものだ。

 スラリと、人より長めの綺麗な首が出る上、紐がないというオフショルダービキニの特性ゆえ首から肩まで何にも邪魔されることなく露出される。

 レモン色のヒラヒラした胸周りと、腰に巻いたパレオが風に合わせてゆらゆら動くのが可愛らしい。トキの金色の目となんとも言えずマッチしている。(少なくとも作者の脳内では)


「ナウさんは水着着ないんですか?ほら、プレゼントしてあげたじゃないですか」


「あはは、お断りしておきます。僕は海を眺めてるよ・・・」


 そう言ってナウは砂浜に腰を下ろす。ズボンが汚れるのなんてお構い無しだ。


 その時、トキの肩がとんとんと叩かれる。振り向くと・・・


 その控えめな胸を覆うミント色のシンプルな三角ビキニ。セクシーさを醸し出す黒の紐。所々にアクセントで黒いレースのような飾り。下の水着は紐で両脇を留めるタイプだ。を、身にまとった恥ずかしそうなツチノコ。


「ど、どうだ?付け方間違ってないか・・・?」


「ええ、バッチリですよ!かわいい!」


「かわいいって・・・/// トキも、かわいいぞ?」


「えへへ・・・」


 トキとツチノコはいつも通りイチャイチャ。もうそれも慣れたナウは、特に気にすることなく壮大な海を見つめていた。


「いいね・・・海・・・」


 そんなナウはひとまず置いといて、今回スポットを当てていくのはもちろんトキノコの二人。

 二人で海に来るのは初めてだ。と、言うわけで改めて。





























 初めての海


 うみ【海】

 地球上の陸ではない場所、塩水などの大きな広がりのこと。今回の海は浜辺のことを指し、seaでもoceanでもなくbeachである。



「ツチノコ、日焼け止めちゃんと塗れました?」


「ああ、そこはバッチリやった。さて、まず何する?」


 海ではいろんなことが出来る。泳ぐのはもちろん、砂遊びも出来るしビーチバレーやビーチフラッグ、スイカ割りなども海らしい遊びだろう。水着なのをいかして日光浴なんてのもできる。


「うーん、悩みますね。でも、とりあえず泳ぎましょうよ!水着も来てるんですから!」


「私泳げるかな?イマイチどうとも・・・」


「じゃあ、浅いところで遊びましょうか?」


「その方がいいかな、トキはそれでもいいのか?」


「ええ!ツチノコが一緒ならもちろんですよ!」





 ぴちゃ、と言う音と共に水に足を踏み入れる。心地よい冷たさとぐちゃ、とする独特な素足への感触。


「どうですかツチノコ?これが海ですよ!」


「なんか変な感じ、でも悪くない」


「もう少し深いところ行きましょうか」


「うん」


 トキがツチノコの手を引いてトキが沖の方に歩を進める。なんだか嬉しくて、トキもツチノコも口の端が上がってしまう。


 そのままどんどん「陸」と呼ばれる場所から離れていき、水の冷たさを感じる範囲が足の先から上の方に少しずつ伸びていく。


「これ以上は深いですかね」


「そうだな、これ以上はちょっと・・・怖い」


 トキと繋いでいる手に力を込めながらツチノコが不安そうに呟く。


「ふふふ、じゃあこの辺で遊びましょうか!」


 そう言ったところは、水面が二人の腰より少し下ぐらいの所。トキの方が身長は高いのだが、そんなに身長差が激しいというわけでもないので大差ない。ツチノコの下の水着がチラチラ見えるくらいだろうか。


「うん、そうしよう。ところで、遊ぶって言っても何するんだ?」


「こうするんですよ、ほら!」バシャ


 ツチノコの質問に答えると同時に、両手で水をすくってツチノコに向かってそれを勢いよく投げ飛ばすトキ。投げ飛ばすというか、ぶちまけるというかぶっかけるというか・・・そんな感じだ。


「わわ、冷たい!やったなぁ〜!?」


 案の定身体に海水を浴びたツチノコ。その後トキを真似て彼女にも水を浴びせる。


「あははは!それそれ、もっとですよ!」


「トキ?こっちは尻尾も使えるんだぞ?ほらほら!」


「えっ!ずるい!」


 キャッキャと水を掛け合うツチノコとトキの二人。ツチノコが尻尾で水面を叩くようにトキに水しぶきを飛ばすのが「卑怯だ」とトキが笑いながら抗議するが、ツチノコはお構い無しにビシャビシャと尻尾と手を動かす。


「あははは・・・はぁ、疲れますね・・・」


「そうだな、結構体力使う」


 そう言って二人で汗だく海水まみれになりながら笑い合う。


「ん・・・?」


「どうしました?」


 そんな時、ツチノコがとある違和感に気がつく。なんとも言えぬ解放感、というか何かが足りないような感じ・・・何が?


 見ているトキも何かがおかしいことに気がつく。さっきからツチノコに見えていたものが足りない、何か大事なものが・・・そう言えば、露出が多い気がする。特に腰のあたり、もっと何かあった気がする。紐?


「「あっ!」」


 二人とも思考をめぐらせ、答えにたどり着いたのは同時だった。


「ない!なんで!?」


「さ、さっき尻尾動かしてた時じゃないですか?それでも紐が緩んで・・・!」


 その違和感は、ツチノコの水着である。下の部分が無い、外れてしまったのだ。何時からか二人ともわからず、もう二人では見つけられないところまで流されてしまっているかもしれない。


「ととととりあえずこれ巻いてください!ツチノコのそんな所晒すわけには!」


 トキが手渡したのはさっきまでトキ自身が腰に巻いていたパレオ。トキはその下にも水着を着ているのでパレオでとりあえず隠そうということだ。


 そう、つまりツチノコは下が今何も付けていないのだ。ツチノコ本人にしても、その恋人であるトキにしてもそれを他人に見られてはたまらない。もっとも、お互いに見られるのは嫌ではないのだが。むしろ・・・本人達のみぞ知る所ということで。


「ありがとう、とにかく探さなきゃ」


 トキから受け取ったパレオを巻きながらツチノコが呟く。そして、トキに顔を向けて「ん?」と口から漏らす。


「どうしました!?」


「トキ、下見てみて」


「下?」


 そう言われてトキが首を下に向ける。そして、ぎょっとする。


「な、なんで!?私のもない!」


「えええ、これどうするんだ!?パレオ一枚しかないし」


 いつの間にかトキの水着を外れてしまっていた。つまり、二人ともすっぽんぽん。誰もこちらなど見てないので平気といえば平気なのだが。


「とりあえずツチノコ付けててください!私なんかいいので!」


「ダメだ、トキが付けろ!トキのソコが見られるのは耐えられない!」


「私こそツチノコのが誰かに見られるなんて嫌ですよ!だからツチノコが・・・!」


「ダメだって、ほらトキ付けて!」


「あああ!?外したら思いっきり見えちゃいますよ!そんな、あっ・・・」


 目の前でパレオをはらりと外して自らソコをさらけ出すツチノコに、トキは顔を赤くする。恋人になって初夜を迎えてもう半年近く経つし、それ以降しょっちゅうシていたのだがまだこうやって改めて見るのには刺激的だ。


「ほらトキが付けて!」


 トキがあうあうと顔を赤くしている間にツチノコが彼女の腰に強引に巻いて縛る。やっと完結したどっちが隠すか戦争、ツチノコの勝利(?)なのだがその間にも脱げた水着は波に揺り動かされていく。


「どこいったかな・・・もう流されちゃったかな」


 二人とも水中メガネなど持っていないし、水中で目を開けることなどできない。ましてや海水だ、真水でも開けられない二人には辛いだろう。慣れれば海水の方が痛くないそうだが、経験ゼロの二人のことだ。


「買ったばかりなのに・・・」


「まだ近くにあるかもしれない、探してみよう」


 ざぶざぶと水を掻き分けながら進み、青い水越しに見える砂を見つめながら歩き回る。

 そうしてみれば、割とあっさりと。


「お!あった!」


「ありました!」


 二人同時に声を上げる。そんなに遠くまで行っておらず近くに沈んでいた。


「もう、焦りましたよぉ・・・さっさと付けちゃいましょう」


「うん、一回浜の方に戻ろうか」


 そう言ってお互いに水着を着用する。


「さ、行きましょうか」


「うん・・・って、あ」


「あ?」


「トキ・・・水着逆」


 お互いの水着を確認すると、流される前ツチノコが付けていたのをトキが、トキが付けていたのをツチノコが着ている。二人とも顔を赤らめてそれを外し、水の中でそれらを交換する。そしてまた付ける。


「さ!行きましょうか!」


「そ、そうだな!行こう行こう!」


 来た時のように戻るのも手を繋いでだったが、顔を合わせて笑うことはできなかった。むしろ二人とも明後日の方向に照れと恥ずかしさと冷静になって思い出すさっきのお互いのはしたない姿から来る表情を逃がしていた。


「・・・忘れましょう」


「・・・だな」


 忘れられるはずも無いのに、そんな会話を交わした。



 Part2に続く!

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