第2話 水着選び

「で、何が欲しいのさ?」


 三人で店内をぐるぐる歩き回りながらナウが尋ねる。


「水着とか、あとキャンプとかもしたいねって話してたんですよ」


「・・・キャンプって、テント張るの?あれたっかいよー、僕も欲しいけど流石に年数回しか使わないのにアレはねぇ・・・」


「そうですか・・・ジャパリパークのキャンプ場ってバンガローあるんですかね?」


「あったと思うよ。まあ、そういうのもいいんじゃない?」


 ツチノコ置いてけぼりで話が進む、というかツチノコは分からない単語だらけで頭の上に疑問符が三つくらい浮かんでいる感じだ。

 その様子を見かねてか、単に会話がそこで一段落したからかナウが切り出す。


「ところでさ?水着?へぇ、水着。へぇ〜・・・」


 トキ達の方にニヤニヤとした笑みを送るナウ。ツチノコはまだ「?」な顔だったがトキは急激に顔を赤する。


「海とか行きたいし。な、トキ」


「ハイ、ソウデスネ・・・」


 真っ赤になってうつむくトキを見て、ナウはその肩をとんとんと叩いて、耳元で囁く。


(悪かったって、お詫びにちょっと頑張るからさ?)


「お詫び?」


(シ、声が大きいぞ?まあ待ってなって)


 トキの耳元から顔を離し、トキだけでなくツチノコにも聞こえるようにしてナウが呼びかける。


「とりあえず、水着買いに行こっか!売り場は向こうだね?」


 そうして、ナウ先導で三人進み始めた。





「ここだここ!さて、二人ともどんな水着がいいんだい?」


「私は可愛い感じのがいいですかね?ツチノコは?」


「私よくわかんないしなぁ」


 売り場に着くなり、ナウが二人に質問を投げかける。そして、このツチノコの答え。


(「よくわかんない」?その言葉を待ってたよツチノコちゃん!)


 心の中で親指をグッと立てるナウ。しめしめ、と水着がハンガーにかけられて並ぶ中を漁る。


「ナウさん?」


「ちょっと待っててね・・・二人に合いそうな水着が無いかなって・・・もっとも、僕の個人的なアレだから気にしないでね?あくまでオススメに」


 トキの希望、「可愛い系」の水着を適当にチョイスする。そしてもうひとつ、ツチノコの分は・・・これだ。


「はいはーい、お二人さんこんなのいかが?こっちトキちゃん、こっちはツチノコちゃんね」


 トキの分は、オフショルダービキニと呼ばれる肩の紐がないタイプの物。両腕ごと体ににはめて、胸の周りを一周するような物だ。全体的にレモン色っぽく、ヒラヒラした飾りがついている。

 さらに、下半身はパレオと呼ばれる布もついている。これは、体に巻き付けて腰のあたりで縛って使うもので、スカートのような形になるのだ。同じように、レモン色をしている。


 しかし、トキはそんなのには目もくれずにツチノコの水着ばかりを見ていた。


 当然だろう。ツチノコの分と言われて出てきた水着は所詮マイクロビキニと呼ばれるもの。オーソドックスな三角ビキニの布地を極端に減らしたものだ。しかも、ナウが見せてきたものは布地が必要最低限レベルしかない。その少ない布地はピンク色をしている。


「なあ・・・なんか私の、布ちっちゃくないか?恥ずかしいんだが」


「いや、似合うかなーって?」


 ニヤニヤと笑うナウ。それに対してトキが声を大にして反論する。


「ダメですよ!ツチノコ困ってるじゃないですか!」


 トキは眉をひそめているツチノコに目線を送る。ナウの思惑としては、さっきトキに囁いた「お詫び」としてツチノコのマイクロビキニ姿を見せてあげようと思ったのだが・・・実際はナウ自身が気になったというのもあるが。

 しかし、ナウも「ダメだ」と言われてゴリ押すなんてことはしない。


「そう・・・うーん、せっかく持ってきたんだけどね。まあ戻してくるよ、ゴメンね?」


 ナウは申し訳なさそうにそれを棚に戻しに行こうとする・・・行こうとしたのだが、ふとトキに目が留まる。


「な、なんですか?」


 じー・・・

 見つめてみる。


「き、着ませんよそんなの!なんでまたそんな小さいのを私が・・・大体私用のやつ持ってきてくれたじゃないですか私その試着も・・・」





 二分後。トキは試着室に、例のマイクロビキニを持たされて一人佇んでいた。


(どうしてこんなことにーーーーー!?!?)


 大体はナウのせいなのだが、それよりももっと大きな原因があった。


 ツチノコである。


 そう、ついさっき・・・



 ☆☆☆☆☆


「いやいや、着ろなんて言わないよ?ただトキちゃんが着てるのも見てみたいなーって」


「ナウさんに頼まれても絶対着ませんからね?」


 と、頬を膨らませていたトキだったが、次の瞬間にその発言の穴をついた言葉が響いた。



「私もトキが着てるの見てみたいな」



 それが、ツチノコである。


「えええ!?何言うんですかツチノコ!?さっき恥ずかしいって言ってたじゃないですか!」


 トキがツチノコの方を振り向いて驚いた顔を見せると、ツチノコはうつむいて目線を逸らし、申し訳なさそうに口を開く。


「うん・・・悪いがそれとこれとは別にトキが着てるのはみたい・・・ワガママだな、ごめん」


 そう言われてしまっては、トキも弱る。

 しかし、さっきのポニーテールのリベンジじゃないが、ツチノコが喜ぶなら見せてあげたいという気もトキにはあった。


 ☆☆☆☆☆



 そして、今。勢いでここまで来てしまったが、冷静になると着る勇気が湧かない。


「ツチノコが見たいと言うなら・・・いや、でも流石に・・・!」


 小さな葛藤。その末に・・・


「ええい!もう思い切りましょう!」


 意を決して、服を脱いでいく。やがて下着姿になり、それも取り払う。ハンガーから例の水着を外し、熱が冷めないうちにそれを着用。鏡を覗いてみる。


「・・・なんですかコレぇ・・・」


 思わず口から漏れる。本当に、大事なところが隠れるギリギリの所までしか布が無い。誰にも見られていなくても恥ずかしい。さらに、布地がピンクのせいで・・・


「何も着てないみたいじゃないですか!」


 その、大事な所と同系色だ。今すぐ脱いで服を着てしまいたくなるが、せっかくここまで来たのだ。あとはツチノコに見せるだけ。


「・・・えいっ!」


 扉を勢いよく開けてみた。





 バンッ、という音で外に待機していたツチノコとナウが試着室の方を振り向く。


「ど、どうでしょうツチノコ・・・?」


 そこに居るのは、ピンクのマイクロビキニに身を包んだ(?)トキ。内股でもじもじと自信なさげにツチノコに問いかける。


「・・・ナウ、ティッシュあるか?」


「へ?なんで・・・ええ!?」


 ナウがツチノコの方を振り向き、見えたのは口元から鼻にかけて、手で覆うツチノコ。指の隙間から、赤い液体が見える。


「ごめんトキ、刺激が強すぎた・・・」


 ツチノコはトキを直視出来ていない。鼻血を滴らせて、チラッと目を上げては背けてしまう。


「ツチノコ?大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫だが・・・わ、また出てきた」


 ナウのポケットティッシュによる援護もお構い無しに鼻血は流れ続ける。


「ごめんなさい、とりあえず着替えてきますね?あ、ナウさん私用に持ってきてくれた水着ください」


 ナウはもうひとつ控えておいた水着を手渡し、扉を閉めてあげる。水着を受け取る時、トキが悪い笑顔を見せたのをナウは見逃さなかった。





「ツチノコちゃん大丈夫?」


「やっと止まったよ・・・ティッシュありがとな」


「いえいえ・・・ところで、ツチノコちゃんたらスケベね?」


「・・・トキにだけ」


 フレンズとは、動物がヒトの体を得たものである。違いはあれど、基本的にはヒトなのだ。当然、人間三大欲求のひとつである性欲だって存在する。


 ツチノコだってもちろん例外ではない。洞窟暮しの頃には感じなかったが、トキに対してはやはりそうなのだ。恋愛は人を大人にするということだろうか。


「まったく、ラブラブなんだからぁ〜。いいんじゃない、恋人ってそういうものよ」


「っ・・・」


 ナウの言葉にツチノコは赤面し顔を背ける。

 かく言うナウも、恋人のことなんて知らないが。恋愛経験なんてほぼない、本気の恋愛を知らないのだ。だからこうして髪を伸ばしてポニテにしてみたりしているのだが。


「ほら、トキちゃん次の水着着て来るよ?まあ、布地はそこそこあるしそれは大丈夫かな?」


「多分・・・」


 ツチノコは、時折こうやって鼻血を流す。もちろん興奮から来るものだが、夜のベッドの上で流すことは滅多にない。もちろん理由はある。


 ツチノコが、地上に出て三日目のこと。トキと初めて銭湯に行き、風呂を体験した。裸に抵抗はあったが、すぐに慣れてトキの裸も見慣れた。トキに恋愛感情を抱く、抱いていたことに気がつく前からだ。

 そのため、裸が性的興奮の対象としてあまり見れてない部分がある、もちろん裸は裸なのだが、それ以上に下着姿や、先程のような隠れている方がそそられるのだ。

 と、ナレーションでツチノコの性癖を暴露したところでトキが次の水着を着て扉を開ける。


「どうですか?」


 今度は、もじもじした様子もなく堂々としている。

 例のヒラヒラレモン色オフショルビキニに、同じ色のパレオ。この場にいる誰もが水着の似合う似合わないなんて分からないが、各々の感想を言う。


「似合ってるんじゃないか?可愛いくていいと思う」


「僕もいいと思うよ!着心地はどう?」


「別に不便しませんね?この、腕も巻くのって動きにくいかと思ったんですけど、私は特別なんとも・・・」


 腕を前後に動かしたりして、トキが答える。

 トキの水着姿をまじまじと見つめるツチノコ。いいなと心の中で思う反面、とある部位に目が留まる。


 谷間。


 水着を着ているのため、そこが見えるのは当然なのだが・・・少しツチノコは考え込む。

 思考を巡らせた後、首を下に向けて自分の胸を見る。次にトキのを見る。自分。トキ。自分。トキ。ナウのも見てみる。最後にまた自分のもの。

 そして、最初に考えたことと結びつける。


 結論。ツチノコの胸は小さい。


 今まで全く意識してこなかったツチノコだったが、急に恥ずかしい気持ちがこみ上げてくる。こうやって、服を着ていればそんなに気にはならないものの水着を着たらどうか。目立つに違いない。


「さて、ツチノコちゃんのも選ぼうか?どんなのが似合うかな〜」


 そういうナウはそこそこある、今まで触れてこなかったがそこそこある。特別大きい訳では無いが、ツチノコのそれとは大きく差がある。


「ツチノコは普通に三角ビキニとかが似合いそうな気もしますけど、どうですかね?私はとりあえず服に戻りますね」


 トキだって、谷間が出来るくらいはある。ナウよりは小さいし、世間的に見れば小さい部類かもしれないが間違いなくツチノコよりもある。わかりやすく膨らんでいるのだ。


 ぺたぺた(ココ重要)と自分の胸を触り、それを改めて確認するツチノコ。思い切って、自分からいい感じの水着を引っ張り出してナウに見せてみる。


「これとかどうだ?私の普段着っぽいし」


 ツチノコが見つけたのは淡い水色と白の横ボーダーのフード付きパーカー・・・のような形であるラッシュガードというものだ。簡単に言えば濡れても大丈夫なパーカー、日差しを遮ったりする役割もある。


「うーん、似合うのは間違いないけどさ・・・こう、色気が足りないんじゃない?」


「色気なんて私いらないしさ、こういうのがいいと思うんだよ」


 ツチノコの発言、全くの嘘である。トキのようなものを着てみたい気持ちもゼロではないし、色気が今急激に欲しくなったのだ。いらないなんてことは無い。


「ツチノコちゃん、それはずるいんじゃない?トキちゃんだってもっとこう、肌が見えるのが見たいんじゃないかな」


「う・・・でも」


「何の話ですか?」


 横から着替えてきたトキがひょっこりと顔を出す。


「ツチノコちゃんの水着が色k「わー!!」


 トキに受け答えしようとするナウの言葉がツチノコによってかき消される。その様子をナウもトキも不思議に思い、かき消した本人が「やらかした」と顔を赤くする。


「どうしたんですかツチノコ?」


「や、なんでも、その・・・なんでも」


 トキはツチノコの不自然な様子から、何かを察する。そして、その手を引いて歩きだしナウに言葉を投げる。


「ツチノコがトイレ行きたいそうなんで、案内してきますね!」


「ん?はーい、行ってらっしゃい」


 ナウに簡単に見送られ、水着売り場を離れる。





 ガチャン。

 ツチノコも訳がわからないまま手を引かれ、多目的トイレに二人で入り、扉に鍵をかける。そして、トキが一言。


「ツチノコ、何か悩んでますか?もしナウさんに言い難いことなら私に教えてください?」


「そのために、ここまで?」


「当たり前じゃないですか!ツチノコが変なので、もしかしてナウさんに聞かれたくないことかなーって。私に言い難いことなら無理に言わなくても大丈夫ですけどね?」


「そ、そうか・・・」


 ツチノコは驚いた。何を思ってトキがここに連れてきたかって、自分のためだったのだ。嬉しい気持ち半分、トキに相談すべきか半分で複雑だが。


「・・・あの、さ」


 せっかくこうしてくれたのだ、意を決してツチノコが口を開く。


「私はさ、トキに比べてほら・・・胸、ないじゃん。だから、水着着るの恥ずかしくって・・・」


 トキは真剣な表情で聞いてくれた。そして、その短い言葉を聞き終えてにっこり笑う。


「そんなことだったんですか?」


「そんなことって・・・私にとっては結構深刻なんだぞ」


「ツチノコ、ちょっと失礼しますね」


 そう言ってトキがツチノコに歩み寄り、パーカーのファスナーを下ろす。ツチノコは若干驚いたが、なすがままにされる。やがて、下着も取られて、パーカーの間から素肌が見えるようになる。


「トキ・・・?何を?」


「まあ見ててください」


 次はトキ自身。胸の前だけボタンを開けて、ブラジャーをとって胸を露出させる。


 そして・・・ツチノコに抱きつく。


「とととトキ?/// なにして・・・」


 ツチノコが下駄を履いていると、トキとはほぼ身長差がない。それでもツチノコの方が少々背が低いが、この際あまり関係なく裸になった胸と胸がぎゅっと合わさる。


「ツチノコ、こんなに近いですよ?ほら、すぐ近くです」


 耳元でトキが囁く。くすぐったくて、少し色っぽい声にゾクッするツチノコだが今重要なのはそこではない。


「これ、おムネが大きかったらこんなに近くならないんですよ?無いだけいっぱい近づけます、なんだか素敵じゃないですか?」


 小さいのが、素敵?


 そんなことがあるのか?こういう所でも、ツチノコは無知だ。今まで地上で生きてきて、漠然と付けた知識では大きい方が良いとされていた。


 なのに今、トキは抱きしめながら自分の小さくて平らな胸を「素敵」と言ってくれた。その言葉が胸の中で膨らみ、だんだんと自信に変わってくる。


「私は別に大きいのが好きってことないですよ?私はツチノコのが好きなんです、大きさなんて関係ないんですよ」


 まだ囁き続ける。その優しい言葉に、いつの間にか緊張した心が解きほぐされていくのを感じる。そして、ツチノコから確認も。


「ほんとか?」


「嘘つくと思います?」


 抱きしめられていたのを解かれ、トキが下着を着てまた前のボタンを閉めていく。ツチノコも脱がされた下着を自分で着て、パーカーもきちんと閉める。


「さて、戻りますか?ナウさん心配しちゃいます」


「そうだな?」





「あら、おかえり二人とも」


 水着売り場に戻ってくるなり、ナウに声をかけられる二人。


「ツチノコちゃんは気ぃ変わった?やっぱりこういうのも着てみようよ」


「うん、ちょっと着てみるかな」


「お、ほんと?いいね、きっと似合うよ」


 三人でワイワイ、ツチノコの水着選びが始まった。


 今回も平常運行、これが日常です。

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