第7話 〜side story〜 No.2
「みゆ?」
自分のクラスへ向かう途中だった。目の前には懐かしい初恋の彼女が立っていた。
俺はとっくの前に忘れてさっていた初恋の物語が思い浮かぶ。心を掻き毟るような感覚に浸る。その反面、彼女の顔を見ると嬉しさも感じてしまう。おそらく2年ぶりに会うだろう。
「久しぶり」
彼女は驚く素振りを見せず俺がここにいることを前から知っているかのような当たり前な顔でこちらを見ている。どこで情報を手に入れたのか、それとも偶然なのか。だが俺は彼女が何故ここに立っているのかは認めたくないがあらかたわかっている。
「あぁ、久しぶり。」
「ねぇ、君がいるっていうことは彼もここにいるんだよね?」
やはりそうだったか。彼女はこれだけのために遠いところからわざわざ来たのだろう。
「科は違うがちゃんといるぞ。」
それを聞くと彼女は不気味な笑みを見せそのまま去っていった。
前からずっと変わらないままだ。
何故、俺はこんな女に恋をしてしまったのだろうか。
何故、俺はこんな女がにくいのだろうか。
折角の新しい青春の始まりだというのに視界はバラ色から黒色へ教室に近くにつれ変わっていった。
中学校となんだ変わらずのつまらない日々だ。
久しぶりに彼と二人で帰れるのに何も話そうとしない。
「そんなことよりも、知り合いはいたか?」
「なぁ、中村みゆという女子をお前は知っているか?」
彼はもう覚えてないのだろうか、憎い。俺たち3人の大切な10年間の思い出をなんだと思っているのだろう。俺の苦労も彼女の苦労も忘れてしまったとうのだろうか。それなら知る必要はない。
「いや、知らないな」
彼が少し睨んでいるように感じる。流石に怪しすぎたか、だがそれから別れ道まで彼は何一つ追求しようとしない。それならば言う必要なんてない。一人で苦しめばいい。
自室に行き、ある写真がどうしても目に止まってしまう。中2の彼女が引っ越す前に行った花火大会の写真。
明るく複数光る花火を背景に楽しそうに笑う3人。あの時の光景が頭に思い浮かぶ、彼女を花火会場から離れたところに呼び出し告白をした、だが彼女は彼にしか興味がなかった。いや、彼に依存していたんだ。彼女が彼を見る視線はとても怖く人として見てない、自分の欲求を満たすだけの道具にしか思えなかった。
俺はどちらに味方をすればいいのだろう。
流石に運動部だと疲れてしまうな。
ピロン・・・
久しぶりに彼女から連絡がきた。何かと思えば彼と俺と同じクラスの地味な子と呼ばれている人と付き合っているとのことだ。
内心少しばかり嬉しい、けれど彼はああいうタイプが好きだったんだろうか。そう考えていると恐ろしい一言が送られてきた。
彼女は何がしたいのかはわかる。けれど折角、彼が幸せの第一歩を進んだというのに壊す必要性はあるのだろうか。そして彼女に協力する必要があるのだろうか、けれどここで彼女の申し出を断れば今後、彼女との縁を切ると同じ意味をしている。だから俺は壊す。
俺がすることは拡散だった。とりあえず俺とバレないようにサブアカウントを使って知っている友達全員、グループに流した。そして彼の噂もついでに流すことにした。
これでいいんだ。彼は一生苦しんで生きればいい。
王に従う奴隷のように俺は彼女に一生、奴隷として生きる。
「やっときたか。」
「いろいろ準備してたの。」
待ち合わせより10分過ぎている。手が悴んでおりヒリヒリする。彼女は一体何を準備していたのだろう。
どうやってあいつらを壊すのだろうか。恥をかかす、仲を引き裂く、何をしたいのだろう。
「そうか、とりあえずあの店に入らないか?」
「うん」
短い返事ともに震えている足を喫茶店へ運んだ。中は暖房が効いており暖かく、冷え切った体にはちょうどよかった。
彼女は暖かいコーヒーを頼み、俺は何も頼まなかった。
「なぁ、どうやってあいつらを壊すんだ。」
「あなたは知らなくていい、あなたはただ見にきただけでしょ。」
そう言われると言い返せない、勝手に付いてきた俺が知る必要はないといえばないのだ。けれどデート中に彼らを壊す方法が一切検討がつかない。
彼女の目には深いクマができていた、そして今すぐにで寝そうな雰囲気を出していて疲れが溜まっているようだ。
「これからどうするんだ。」
「ここはモールから駅に行く時に必ず通る、だからあいつらが帰るのをずっと待つつもり」
帰りに何かするのか。確かにモールから駅に行く際に必ずこの道を通るしかない。彼らがいつ帰るかはわからないがずっと待つつもりなんだろう。
店内に鳴り響く落ち着いた音楽、そしてか微かに匂うコーヒーの匂い、とても眠たくなってしまう。彼女の顔を覗いて見ると窓の方を凝視しており瞬き一つせず、背筋が凍るほどだった。
わからない、なぜ俺は彼女にこんなについて行くのだろう、彼女の奴隷と生きることが俺の生きがいなんだろうか。不思議なもんだ。
チリン・・・チリン・・・
扉が開いた時になるベルの音で気が付いた。恐らく俺は寝て居たんだろう。そして目の前には彼女が居なかった駅の方をみて見ると彼女らしき女性とその奥には彼とおしゃれな白いコートをきた女性がいた。
俺は急いで会計を済まし後を追いかけた。
あたりはすでに暗く、人通りもあまりなかった。その中、必死に彼女を追いかけた、駅に入り改札を通り過ぎており右側のホームに向かっていた。そして、左側のホームを歩いているのはあいつだった。いつもよりも着こなしていて彼女と俺がいることを気づいてないようだ。
俺は彼女を追いかけるためホームに続く階段を必死に登った。1段1段登るたびに悪い方の想像が頭に浮かんでいく。
ドスン・・・
階段を登りきった瞬間だった、鈍く聞いたことのない重たい音が聞こえ、そこには彼女が手を伸ばし微かに赤色の液体が飛んでいた。わかってしまった。彼女はあの女子を突き落としたんだ。
用を済ませた彼女は鳴り響く悲鳴のなか平然と俺の隣を通り階段をおりていった。よく見ると手元にはサバイバルナイフのような包丁を持っていた。彼女はこれから彼も殺しに行くんだろう。止めた方がいいのだろうかわからない。
「な、何をしてるんだ!」
「邪魔、どいて」
無意識に彼女の前にいた。けれど彼女は俺の顔を見ず無表情でただナイフを持っていた。
と、止めなければならない・・・
「どくわけないだろ!自分が何をやっているのか目を覚ませ!」
「うるさい」
体の力が抜けて行く。
立てない。
お腹が痛い。
彼女が持つナイフの先には血がポツポツとこぼれ落ちており下を見ると俺から血が垂れ流れている。
ゴホッ・・・
口から苦く鉄の水を飲んでいるかのようだった。喉が枯れきったように痛く、今まで味わったことのない苦しみが襲ってきた。目の前は真っ赤で俺の無力さがはっきりとした瞬間だった。
「あいつを止めろ!」
「早く救急車を!」
「離せ!」
様々な声が微かに聞こえる。うっすらと映っている視界には駅員らしき人が数名と彼女がいた。そして俺のお腹を抑える人、俺を揺する人、これが死なんだと実感をしてしまった。
* * *
ガシャ・・・
何度、呼び鈴を鳴らしたんだろうかやっとの事で出てくれた。本当に大丈夫なんだろうか。
彼が扉の先から出て来ると死んだ動物のように顔が青白く頬がたるんでいた。
「おい!大丈夫か?」
ドスン!
何も言わず倒れてしまった。はじめ救急車を呼ぼうと思ったが彼を持ちソファーまで運んだ。しばらくすると目を覚まし驚いた顔をしていた。
哀れな姿だ全てが絶望で過去をいまだに引きずっている。彼を生かすべきなのか殺すべきなのか俺はどちらを取ればいいだろう。彼は何も悪くない、俺と彼女が悪いのだ。けれどそれを知ったからといって何もならない。
泣き崩れている彼を見ると傷と心が同時に痛む。彼を抱きかかえるととても軽く、子供を持っているようだった。そして寝室にはベットその上にある黒い猫の人形が置いてあった。人形を退かし彼を寝かせるとぬいぐるみを彼の胸元に置いた。
カバンの中を漁り、1本の包丁を手に持ち彼に向けて手を上にやった。
このまま楽にさせてあげるべきだろうか。それとも生きる希望を与えるべきか。
ポス・・・・
力いっぱいに包丁に握り思いっきり振り下ろした。
消えない約束 @NA_LEAF
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