第5話 約束

 ピンポーン・・・  ピンポーン・・・

 頭の中で慣れた音が鳴り響く。頭が痛い、体が重い。

 ピンポーン・・・

 玄関の呼び鈴がなっていた。玄関を開けるとあいつが立って居た。

「おい!大丈夫か?」

まただ、何を言っているんだ。俺は平気だ、なんともない。

何故だろうかあいつの顔を見ると落ち着いてしまう。誰かが支えてくれているような気分になる。

ドスン・・・

 また目の前が暗くなった。

「やっと起きたか」

目を開けるとソファーに俺は寝て居た。そしてあいつが心配そうな顔でこちらを見ていた。まだ何が起きたかが理解できない、玄関を開けたところまでしか覚えてない。

「なぁ、もう彼女はいないのか」

半分泣いている細く弱い声で俺はあいつの顔をみた。

あいつは真剣な顔になるとカバンの中を漁ったと思えばこちらを向いた。

「あぁそうだ、もういないんだ」

 認めたくなかった。だが彼女は何年立っても現れない。何年待っても約束は果たされない。一体なんのために生きているのだろうか。ありもしない約束を何故ここまで頑張り続けたのだろうか。

もう疲れてしまった。いっそのこと死んでしまいたい。

「なぁ、佐藤みゆって覚えてるか?」

忘れるわけがない。小学校から中学2年まであいつとずっとつるんで居た人だ。

佐藤みゆは俺が学校を休んでもほとんど毎日のように俺の家に来て居たが、中学2年生の時にどこかへ転校してしまった。

「佐藤みゆがお前の彼女を突き落としたんだ。」

それを聞いた瞬間、吐き気がこみ上げた。あの時のことを思い出してしまったのだ。彼女が死んだはずの場所、彼女の私物、彼女の全て。

 佐藤みゆが彼女を殺した理由がわからなかった。だが彼女が死んだ理由は俺のせいでもある。彼女は死んではいけなかった。死ぬ理由がなかった。

 「俺が彼女を殺したのか」

「間違ってはいない、だがお前が殺したという訳でもない。」

あいつが言っていることがわからない。俺はどうすればいいのかわからない。

 「約束」

 俺はなんのためこれから生きればいいのだろう。何を希望として生きればいいのだろう。

 彼女と交わした約束なんて始まりも終わりもなかった。ただ現実を認めたくなかっただけの俺の言い訳だったんだ。

「お、おれはどうすれば逃げないで済む・・・おしえてくれ・・・」

泣きながらぐしゃぐしゃな声であいつに言った。あいつは顔を一つも変えず俺をただ見て居た。

「好きな道を選べ、結果はどっちも一緒だろうがな。」

わからない。選択枠がなんなのかわからない。死ねばいいのか、生きればいいのか。どっちも一緒だとあいつは言うのだろうか。

 でも明日会えるんだよ。また一日頑張れば彼女に会えるかもしれないんだよ。

 俺はまた逃げているのか。

 かもしれない、その言葉が俺の心を蝕んだ。

 あいつは動かない俺の体を抱きかかえ入ってはいけないはずの寝室へ連れて行きベットへ寝かせた。

ここは心地よく俺を歓迎しているように思える、だがなぜあいつは俺をここに運んで来たのかわからない。

あいつは俺に黒い懐かしく感じる何かを持たせた。

 あいつは何かを探している。

 あいつは俺を見ている。

あいつは・・・

 目の前が真っ暗になり、その先にはただの暗い世界だけ広がって居た。

 



 


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