第4話 「また明日」

 部室に行くと彼女が顔を少し赤くして待ち構えていた。

「あの、今度の土曜日なのですがよかったら一緒に出かけませんか?」

おそらくデートの誘いなのだろうか、付き合って結構経つが一度もデートらしいことをしてなかった。俺から誘いたかったがなんて誘えばわからなかったせいで引き延ばしていたら彼女から誘いがきてしまった。

「いいよ、どこか行きたいところでもあるの?」

「はい!二人でその、映画をみに行けれたらと思いまして。」

 まだ照れを隠せないのか顔を赤くして嬉しそうに返事をしてくれた。

 デートまでまだ、四日もある。その四日が何故な時間がすぎるのが遅く感じてしまう。相変わらずクラスからの視線が痛く、あの子が来るたびみんながこっちを向いて噂話をしているように思えた。


都会の街中でも白く軽い粉が降って来る。何年かぶりに見るこの光景は寂しく、懐かしく思えた。手がかじかんで来た頃だった。マフラーを羽織り小走りして来る女性がいた。

「遅れてごめんなさい。電車が遅くなって・・・」

声を聞くまで誰かわからなかった。制服しか見てなかったせいか白いコートと赤いマフラーを着ている彼女は大人っぽく学校とは別人に思えてしまった。口からは白息が小刻みに出ており顔を赤くして走って来たのがわかる。待ち合わせ時間は1分も過ぎていない、なのに彼女は遅刻したみたいに反省しているようだ。

「俺が早く来すぎただけだから大丈夫だよ。さぁ、行こっか。」

「はい!」

優しく彼女に声をかけ手を差し出すと嬉しそうに手を握り、先ほどまで寂しく寒かったこの光景は彼女の手の温もりにより暖かく光り輝く太陽が俺たちを祝福してるかのように照らしていた。

 映画を見る時を手をつなぎ、今までとは違った雰囲気で映画を楽しみモールの中を二人で回っていると彼女があるお店の前で止まり、手が引っ張られた。中を見て見ると可愛らしい熊や猫のぬいぐるみが整列しているかのように綺麗に並べられていた。

彼女は俺の手を無言で引っ張りお店の中に入った。そして黒い猫の頭くらいの大きさのぬいぐるみを手に取り小さい女の子のようにはしゃいでいた。

「これが欲しいの?」

 猫のぬいぐるみを手に取り値段を見て見るとそこまで高くなく俺でも買える値段だったので買ってあげることにした。

彼女は恥ずかしそうに下を向きながら顔を上下する。ぬいぐるみを持ちレジに足を運び財布から溜まりに溜まったお札を引き出し店員に渡した。これは彼女に渡す初めてのプレゼントで渡す側の俺も嬉しく感じてしまった。

彼女はぬいぐるみを受け取ると「ありがとう」と恥ずかしそうに声をだしお店を後にした。

  一通り周り終えると外に出ると日が沈みかけていてオレンジ色の粉が朝よりも降り注いでいた。時間を確認すると17時を過ぎておりもう帰らなければならない時間だった。それを察した彼女は手を強く握りまだ一緒に居たいと行動で訴えていた。だが女の子を一人で暗い道を返すわけがなく、残念そうな顔を見るのは心が痛んだが、駅まで綺麗な夕日を見ながら黙々と歩いた

「あの、明日もあえないでしょうか。」

駅の別れ道に差し掛かると彼女から月曜日まで待てなかったのかお誘いの言葉をもらった。

明日は日曜日だ。友達も居ない俺は休日は全部空いている、正直なところ俺からお誘いをしたいところだった。

 「いいよ、でも明日は何するの?」

「よろしければ、あなたの家に行って見たいです。」

驚いてしまった。家は散らかってないし親も居ないから大丈夫だ。だがまさか彼女からお家デートに誘われるとは予想にもしてなかった。まだ一度も彼女と落ち着いた空間で二人っきりになったことはない。彼女と二人ならまた抱きしめたい、あの温もりをまた感じたい。俺がどれだけ彼女のことを愛しているか証明したい。彼女は誘っているのだろうか。考えてもわからなかったが何もなかった休日がまた輝かしい休日に変わった。

「少し駅から歩くけど大丈夫?」

「はい!大丈夫です!」

俺の返事を察してくれた彼女は少し強く手を握ると嬉しそうに笑った。彼女の笑顔は清々しいほど綺麗で見ていると何故か見ている方が恥ずかしくなってしまうほどだった。

「「また明日」」

魔法の約束をすると彼女は俺の頬優しくキスをして来た。突然であまりわからなかったが彼女の顔が近くていい匂いがした。彼女の顔を伺うとりんごのようになっており、相当恥ずかしかったのか少し下を向いて居た。

 照れている姿がとても可愛く、この姿を写真として残しておきたくなってしまった。

それから 二人で本当の別れの挨拶し階段を登り電車を待って居た。

前を見ると白いコートと赤いマフラーを羽織り、手元には黒い猫のぬいぐるみを持った彼女が反対車線で電車を来るのを待って居た。彼女も俺のことを気づき手を振って来たのでこちらも手を振り返した。彼女のことを見ながら今日のことを振り返ると右からくる電車が俺たちの視線を遮った。

通り過ぎるはずの電車がなぜかホームの少し先で急停止していた。

「キャーーー」

とても声の高い女性の叫び声がホーム中に鳴り響いた。何が起きたか理解できず不安に思った俺は恐る恐る周りを見渡した。


そこには先ほどまで立って居た彼女が居なかった。

そこには赤黒いペンキのようなものが飛び散っている。

そこには靴が落ちて居た。だがよく見ると靴の先には細長、何かがくっついていた。


・・・違う・・・大丈夫だ。

  知りたくない。見たくない。

意識とは違い目はホームの下を眺めている。

そこには黒色に変色している赤いだろう布が落ちている。

・・・違う・・・違う・・・・・・・・


「人身事故が発生しました。しばらくの間電車は運転見合わせとなります。」

アナウンスが流れ我に帰った。俺が思っていることは多分、気のせいだろう。

 ホームはとても騒がしく、逃げる人もいれば立ちすくんでいる人もいた。

 しばらくすると駅員がホームにいた人、全員を改札まで戻した。今日はもう電車が出ることはないらしい、あたりを見渡しても彼女はいない。この小さい駅中を必死に探し回っても彼女らしい人はどこにもいなかった。スマホを取り出し電話をかけても出てくれない。

「大丈夫ですか?」

肩を叩かれ我に帰った。体はとても暑苦しく、服は汗のせいかびしょ濡れだった。振り向くとあたりは暗く、警察官の正装をきた男性が居た。恐らく、この人なら彼女を探すのを手伝ってくれるかもしれない。

「白いコートと赤いマフラーをきている女性をみませんでしたか!」

「・・・」

警察官は下を向いて何も答えない。

「あ、あと!黒色の猫のぬいぐるみを持っています!」

「・・・ちょっと、こっちに来てもらえるかな。」

言われるがままついて行くと、あの駅の近くまで行った。

警察官は俺の電話番号を聞くとしばらく待つように言われた。そして黄色いテントの中に入っていった。

すると警察官の後ろに茶色いコートをきた大人が二人いた。

「はい」

黒い猫のぬいぐるみを渡された。少し汚れていて鼻にくる強烈な匂いがする。これには見覚えがあった。彼女に買ってあげたぬいぐるみだった。

 ・・・違う

 「これを持って帰りなさい。後日、連絡するよ」

黒い猫のぬいぐるみを持って俺はただ家に帰ることしかできなかった。


 家に着き扉を開けると親が待っており怒られるかと思えば何も言わずただ俺を見るだけだった。部屋に入りもう一度メッセージを確認すると先ほどと一緒で何も変わっていない。

しばらく、ぬいぐるみを眺めて居た。気づくともう彼女との待ち合わせ時間の1時間前だった。こんな疲れた顔を見せるのは少し悪いけど駅まで歩いた。

 彼女は「また明日」って言ったんだ。だからちゃんと待ち合わせ場所にいるはずだ。そうだ、いるんだ。

 太陽が登り、そして沈んだ。寒い、さみしい、赤い夕日が俺をあざ笑う目の前には電車がある。

  夕日が俺をエスカレータに誘っているかのように電車のホームを照らし出す。

だが俺は誘いに乗るわけには行かなかった。何時間、何日、何年待とうと彼女はいつか俺の前に現れる。多分今日は忙しかったのだろう、だから明日になれば学校で会えるはずだ。

・・・ちがう・・・・・そうじゃない・・・

 ほとんど動かない体を必死に動かし学校まで向かった。教室に入るとみんなの視線がいつもと違っていた、哀れんでいるのか、化け物を見るような目で俺を睨んで来る。

教師が来ていつも通りのHRが始まった。

「中村みゆさんは親の都合で引っ越すことになりました。」

席を見て見ると1つだけ空白で本当に引っ越したのが伺えた。とてもしんどい授業が一通り終わりやっと彼女に会える時間がやってきた。

だが部室には彼女は現れず、最終下校時間まで待ったが来なかった。

・・・そうなのか・・・いや、ちがう

 次の日も次の日も・・・いなかった

 「また明日」


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