第3話 変化
それにしても雨上がりの日は暑い、そしてじめじめする。まるで蒸されているシュウマイになっている気分だ。
憂鬱な気分で黄昏ながら授業を受けている。
この時期になるとみんなグループを作り友達というものができていた。俺はあれから男子とは特に話さすボッチかと思っていたが、あの子だけ俺のところへ放課毎きて話していた。
授業も部活動も一通り終わり部室の掃除当番であったため同じ部署の子と一緒に掃除をしていた。
最終下校時間が迫り部室の掃除を切り上げることにした。
「これ、俺が片付けるから貸して。」
彼女が持っているほうきを受け取りロッカーに片付けた。静かで誰もいないはずの部室なのに後ろから視線を感じた。振り返ると彼女がすぐ 近くに立っており下を顔を赤くして下を向いていた。
「どうしたの?」
声をかけても返事がなくそのまま気まずい空気がしばらく流れた。不安になった俺は彼女に近づき顔を見ようとした瞬間、彼女はゆっくりと 顔を上げ俺を真剣な眼差しで見ていた。
「あ、あの!あなたのことが好きです!私と付き合って下さい!」
大人しいはずの彼女が震えた大きな声で言った。彼女は真剣で返事を待っているかのように俺の目に訴えてきたが俺はなんて答えればいいかわからなかった。俺みたいなやつと付き合って彼女はなにになるのだろうか、本当に好きなのだろうか。彼女を信じたいが信じきれない俺がそこにはいた。
「君は俺のどこが好きなの?」
俺が声をかけたおかげか彼女は重たそうなため息と共に肩をおろし綺麗な顔で俺を見ていた。
「あなたのやさしいところが好きです。あなたの笑顔が好きです。私はあなたの全てが好きなのです!」
彼女は自信を持って俺に言葉と笑顔で心に訴えていた。今まで空白だった心が埋まったのか不意に泣き出しそうになる。彼女の真剣な眼差しを見ると落ち着く、俺は彼女と付き合って幸せになっていいのだろうか、こんな俺がいいのだろうか。
「大丈夫ですか?」
気づくと彼女は手を伸ばせば届く距離におり俺の顔を覗き込んでいた。我に帰った俺は我慢していたはずなのに泣いていた。どうすればいいかわからない混乱が頭の中を回る。こんなことで泣いてしまう俺を彼女は認めてくれるのだろうか。情けない弱虫を認めてくれるのだろうか。
「君はこんなお、おれでもいいのか?」
彼女は右手でハンカチを取り出し、左手で俺の手を握った。彼女の手は暖かく柔らかくとても心地よかった。綺麗なハンカチが俺の涙を拐っていき、彼女のポケットへ沈んでいった。
「笑っているあなたも泣いているあなたも変わらない私の好きになったあなたなのです。私はあなたの全てが好きなのです。」
泣いている俺を見ても引かず手を差し伸べてくれる。彼女は本当に俺のことが好きなのが伝わってくる、彼女の気持ちが心まで伝わる。
彼女の顔を見ると返事を待っているかのように俺を見ていた。俺の返事はもう一つしかなかった。
「こんな弱虫な俺だけど付き合ってください。」
細い震えた声で彼女の顔を見て言うとうれしそうに笑い抱きついてきた。初めて女の子のことを抱きしめた。暖かくて心地いい、ずっとこのままで居たいと願うほどであった。しばらく抱きついたまま時間が過ぎた、時計を見るともうそろそろ学校で出ないといけない。だが彼女は俺のことを離そうとせずむしろ抱きしめる力が強くなった。
今、俺は幸せだ。だが時間は有限であり今日はもう帰らないといけない。
「ねぇ、もうそろそろ行こうか。」
「あなたはずっと私のそばにいてくれる?」
彼女は俺と離れるのが恐れているのだろう。ここで別れてしまったら次、いつ会えるかはわからない。日常かのように過ごしているこの世界は確定されたことは一つもない。そして俺と彼女は離れるのを心の裏で恐れているのだ。
「大丈夫だよ、俺は君から離れたりしない。だから安心して。」
彼女は 一度、強く抱きしめたかと思えば力を弱め俺から離れた。目を見ると赤くなっており泣いていたのがわかる、まだ寂しそうな顔をしながら俺を見ていた。そして明日という恐怖が残っているのだろうか俺にはわからなかったが頭を撫で慰めた。
「一緒に帰ろうか」
「はい!」
俺が手を差し伸べると彼女は俺の手を握り部室の戸締りをし校門へ歩いた。二人で手をつなぎ一緒に歩いているだけなのに幸せに感じてしまう。入学するときに思っていた見えない希望が今ここにあり俺は手にした。俺は幸せ者だと自信持って言える。
日が沈むところが見える絶景の別れ道に差し掛かり彼女が少し寂しい顔をした。
「その、あなたは『また明日』の意味を知っていますか?」
俺の前に出てきて問いかけてきた。「また明日」の意味を考えたが全くわからなかったただの別れの挨拶だけだと俺はずっと思ってきた。だが彼女は別の意味もるかのように俺に問いかける。
「わかんないな。どういう意味なの?」
「それはですね、『また』って言うのは次も会おうねって言う意味があります。だから明日絶対に会おうねって言う約束の言葉でもあるんですよ」
何故だか俺は彼女に負けたような気分だったが彼女はいたずらした女の子のように微笑み楽しんでいるように思えた。
日常的に使っていた言葉はこんな深い意味があるとは思わなかった。きっと彼女は俺が目の前から消えることを恐れている。だからこう言った言葉で遠回しに約束を設けたのだろう。そんなことをしなくてもいいと思ったが彼女は満足げな顔をしているためそのままでいいように思えた。
「なら、君もちゃんと明日、俺とあってね」
「はい!」
意味を理解してもらって嬉しかったのかとても嬉しそうで安心したのか肩を降ろし意地悪なほどの可愛い笑顔でこちらを向いていた。
だが、もうすぐ帰らなければならないと言うことを知っている彼女は名残惜しそうにしていた。頭を撫でてあげると猫のように嬉しがりすぐ機嫌を取り戻し笑った。
「じゃあ、また明日。」
「はい、また明日。」
俺はうまく笑えていたのかわからなかったができる限り笑顔で彼女を見送った。
彼女と別れて一人になった俺は何故か恐怖を感じていた。探し求めていた「希望」が見つかり幸せなはずだ、だが怖い、そしてすごく寒い。何かが俺の心を掻き毟っていた。
彼女の背中を見送り自転車に乗って、謎の恐怖のことを考えながら家まで重たいペダルを漕いだ。
次の日の朝、学校に行きたくてしょうがなかった。早く彼女に会いたい。彼女に触れたい。そういった感情が俺を包み混む。
学校の授業が何故かいつもよりも長くしんどく感じてしまう。長い授業が終わり短い放課になり、いつも通りにあの子が近寄ってきた。
「何かいいことがあったの? ・・・あ!もしかしてあの部署が同じ子と付き合ったとか!?」
理解ができなかった。あの時、部室には誰もいなかった。そして帰るときも誰とも会わなかった、彼女がみんなに言ったのだろうか。いや、彼女はそんなことを言いふらす人ではないはずだ。考えれば考えるほど驚きと恐怖が交互にに襲ってくる。
「やっぱりそうなんだ〜」
面白そうにあざ笑うかのように微笑み、俺を見る視線と言葉は背筋が凍るほど怖かった。この子は一体なにがしたいのだろうかわからない、どこから情報を得て、何故、今言ったのだろうか。そんなことよりも彼女と付き合っていることを広めてもらっては俺も彼女も困ってしまう。せめて少しくらいは口封じをしておかなければならない。
「あんまり広める・・な・・・」
話に夢中になっているせいか気づかなかった。クラス中が俺の方を不気味な顔をしながら鋭い視線が俺の体に突き刺そうとしている。
教室には暗く濁った空気が流れ、授業が始まって終わっても、その空気が消えることはなかった。
部活に行き告白して以来、初めて会う。昨日の恥ずかしさがまだ残っておりなんて声をかければいいのかわからなかったが部署が一緒なおかげか部活の話で盛り上がり、いつも通り、いやそれ以上の会話ができ部活動が楽しくなり、ずっと続けばいいなと思う程であった。
部活動が終わり、自分から手を差し出すのは恥ずかしかったが勇気を出し手を差し伸べた。彼女は嬉しそうに俺の手を握り、昨日のように一緒に帰ることになった。
「「また明日」」
二人で魔法のような約束を交わし昨日のように彼女の背中を見送り自転車に乗った。空に映し出された夕焼けは俺の青春を照らしてそれと天国へのエスカレータへ誘っているのか、煽ってくるような赤い景色が広がっている。
入学式のときに期待していたバラ色の青春が今、始まった。今までつまらなかったモノクロの人生が彼女のおかげで彩られて行くのが感じる。1日1日と過ぎる日々がとても楽しく当たり前のようかに過ぎていった。
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