第3話 本

弁当のケース。

タッパーだったが、どう返そうか。

見て悩みながら、勿体無いとも考えていた。

だが、後悔は無かった。

何故なら、俺と付き合うのは。

本気で苦労すると思ったから、だ。


「.....」


タッパーをきれいに洗浄して台所に置いてから。

何時もの様に勉強していた。

時折、アニソンを聴きながら、だ。

今現在、父さんと母さんは仕事で、仲が悪い妹と俺しかこの家には居ない。

その為、結構、自由気ままにやっている。

そして何だか勉強、飽きたな、と思ったぐらいの時。

自宅のインターフォンが鳴った。


ピンポーン


「.....何だ?宅配か?」


宅配便だろうか。

また妹が何かアマドンで注文したのだろう。

ため息を吐いて、出ようとしたら隣の部屋の妹が代わりに出た様で。

一階にバタバタと音がして行く。

俺はフンと声を上げて。

そして目の前の教科書を見た。

ちょうどいい間が空いた。

小テストが有るから集中しないといけない。

良かった。

と、思っていると。


コンコン


「.....は?」


「兄貴。女の子。あんたに用事だって。出て」


面倒臭そうな、素っ気ない言葉でその様に妹が話した。

いや、ちょっと待ってくれ。

何だ女っていうのは。

客人なら招き入れろよと、文句を言いながら降りて行く。

そして、玄関付近で俺は驚愕した。

その場に居たのは。


「.....お前.....」


「.....えと.....あん.....じゃ無くて、冴島。ごめん。来ちゃった」


赤面しながら、汗をかきつつ。

俺に柔和に笑む三宝。

まさかの事に驚愕して、それから考えてみるのだが。

何故に我が家の事を知っている?

って言うか、それよりも。

問題がある。


「.....どういう事だ。お前とは付き合えないと言った筈だろ。色々聞きたい事が有るけど先ずはそれだ。何でだ?」


「.....えっと、そ、そうだな.....だけど私.....あ、アンタの事を本気で好きだから.....だから、諦めきれないから.....その、えっと決意したの.....こ、この場に来たのはその宣言だ」


何とも諦めの悪い。

俺はその様に思いながら、頭を掻く。

と言うか、今なんて?

宣言って何?


「.....?」


「.....私、アンタの学校に転学する事を決めたんだ!」


とっても嬉しそうに目を輝かせる、三宝。

まさかの、衝撃的過ぎた。

何を言って、え?

俺は眉を顰めてしまった。

冗談だろう。


「.....私、アンタと付き合う為なら.....何でもしてやる.....私に振り向かせてやるって決めたんだ.....!」


何を言ってらっしゃるのこの子。

俺はタジタジした。

明後日の方向に全てがぶっ飛び過ぎているでは無いか。

それも転学までするとか。

救ってもらって、俺を好きなのは分かるがやり過ぎだろう幾ら何でも。


「.....」


「.....わ、私はその.....アンタの.....発達障害のことがよく分からない。.....さっきはごめん。だから、は、発達障害の事についても.....理解したい.....だから、お友達から.....始めたいんだけど.....駄目?」


目を潤ませて。

本気で俺に怒涛の剣幕で詰め寄ってくる、女の子。

余りにも良い香りに俺は赤面して慌てた。


「.....も、もう良いよ。分かった。.....友達ならなってやるよ」


俺の言葉に、ほ、本当か!と言って、にへへ.....と、はにかんだ。

その笑みは、本気で恋した乙女の感じ。

俺は恥ずかしくなってそっぽを見た。

すると、手を伸ばしてきた。


「じゃ、じゃあ、宜しくな。冴島.....」


「.....あ、ああ。宜しく.....」


何なんだ本当に。

思いながらも、俺は反応した。

それから、弁当箱を返す用事も有るし。

と思って三宝を俺の部屋を指差した。


「俺の部屋に来るか」


「.....え、えっと。そ、それ本当に.....良いのか.....?」


たかがそれだけで何でそんなに嬉しそうにする。

俺も恋をした様に恥ずかしくなってくる。

自分の部屋なのに、だ。


「じゃ、じゃあ、お邪魔する.....じゃ無くて、お邪魔します.....えへへ.....」


俺は、おう、と反応した。

三宝は靴を投げる様に脱いだが、その次に整えて。

俺の側に寄って来て、そして嬉しそうにする。

マジで小っ恥ずかしい気持ちだ。

クソッタレ.....うん。



「.....えっと、えへ.....へ.....」


「.....お茶どうぞ」


「お.....おう、じゃ無くて、有難う.....」


勘弁してほしい。

と思いつつも、招き入れたのは俺だ。

ため息を吐きながら、弁当箱を返した。


「ど.....どうだった?私の卵焼き.....そ、相当な自信作.....」


「.....美味しかったよ。素直に言うなら」


「.....!」


いかん何これ。

本気でドキドキする。

俺はその様に思いつつ、顔を背けた。

三宝は本当に嬉しそうにニコニコしている。

心臓がドキドキする。

いや、バクバクか。

とにかく、破裂しそうだ。


「お.....男の子の.....部屋に入ったの.....初めてだ.....」


「.....お、おう、そうか.....ってマジで?」


頷く、三宝に俺は驚愕した。

結構、経験が有るかと思ったんだが。

だって、コイツ、県内でも唯一の不良だぞ。

お茶を飲みながら、正座を崩さない三宝を見ながら思ってしまう。

俺の部屋の周りを見ながら、はにかんでいる。

ネズミランドに行った様な、年頃の女子高生の様な顔。

参ったな、抱きしめたくなるぐらいに可愛い。

いかんいかん、俺は駄目だ。


「.....あのさ、ちょっと聞いて良いか?何でこの場所が分かったんだ?」


「.....えっと、あ、ツテ.....だけど、め、迷惑だったか.....?」


「.....いや、うん」


上目遣いでモジモジ。

俺は赤面して、横を見た。

実の所、女の子をこの部屋に招き入れたのは俺にとっても史上初だ。

ボッチが部屋に女の子って。

非常に恥ずかしい。

ライトノベルとか片付ける暇が無かったぞ。

恥ずかしい。

と思いつつ居ると、三宝は俺の読んでいるライトノベルを指差した。

とある、だ。


「ら、ライトノベルとか.....おま.....じゃ無くて冴島は好きなのか?」


「.....そうだな。俺は.....病気で殆どの趣味が出来ないから.....読む事だけに専念しているみたいな感じだ」


「.....そ、そうか.....ごめんな.....」


シュンとする、三宝。

いや、えっと。

うん、どうしよう。


「.....すまん、そういうつもりじゃ無い」


「い、いや。私が悪い。スマン.....」


そして、三宝はお茶を置く。

俺はそんな三宝の顎を見つめ。

何とか話を切り返そうとした、時だった。


「.....そ、その.....私にも.....ライトノベルの事を.....教えてくれないか.....」


「.....え、いや.....ちょっと文化が独特すぎるから.....リア充だろそれにお前.....」


「お.....お前の事なら何でも知りたい.....から.....そんな.....の関係ない!」


「.....」


なんかマジで息が止まりそうなんだけど。

これって現実?

俺はその様に思いながら。

赤面のまま、あまり恥ずかしくないライトノベルを渡してみた。

所謂、バトル恋愛系。

それを嬉しそうに一生懸命に読み始める、三宝。

それから、俺を見つめた。


「.....えっと、その.....この小説、か、借りても良いか?」


「.....あ、ああ」


ちょっと強迫神経症的には嫌気が有るが。

大切にしてくれるだろうと思い俺は頷いて渡した。

すると、パァッと明るくなって。

胸に両手で小説を当てる。


「.....た、大切に読むからな!絶対、か、返すから!」


「.....お、おう」


えへへと言いながら。

大切にそれを鞄に仕舞う、三宝。

俺は鼻元に指を当てて。

そして横を見た。



「.....と、突然、ゴメンな」


「.....いや.....」


1時間後。

暗くなった表に立っている、三宝を見送る為に。

俺は外に居た。

良いのに、なんて言っていたが。

客人だからな。


「.....その、ま、また来たい.....んだけど.....」


三宝はその様に話して。

目を彷徨わせながら、答えを待つ様に俺を見る三宝。

俺は赤くなりながらも。

その言葉に仕方が無く、答えた。


「.....分かった。来たら良い」


「.....あ、有難う!」


大喜びでそして、手を盛大に振って去って行った。

俺はその光景を見ながら。

手を組んでいた。

まさかこんな事になるなんて、と。

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