§23

「そう言えば何故いつも隣なんだろうな。向かい合わせじゃ無くて」

「忘れたの?前2つは父さんと母さんの席だから一緒になるまで空けておこうって」


 千咲の台詞で思い出す。

 両親が離婚したのは俺達が小学校1年生の時。

 俺自身は理屈で何故こうなったのかを理解はしていた。

 無理矢理自分を納得させていた。


 でも千咲はどうしても納得出来なくて。

 結果、千咲は学校のある日は毎日こっちの家に家出してきた。

 本当の家はこっちだって言って。


 父と母は仕事で遅いから千咲がこっちに来たことに気づかない。

 だから僕が御飯をもう1人分炊いて、僕の分としておいてあった夕御飯のおかずを2人で分けて食べて。

 千咲の布団はマンションに持って行ったから俺のベッドで2人で寝て。

 そんな事が続いた結果、父母の帰りが遅い日は2人一緒というルールが出来た。

 元々の子供部屋は俺の部屋になっていたので、新たに2階に千咲の部屋も作った。

 その部屋はほぼ使われないまま、結局小学校4年頃までは一緒に寝ていたけれど。

 

 座る場所の件はその頃俺と千咲がしたいくつかの約束の一つだ。

 約束というかおまじないというか。

 家族がもう一度一緒にいられるようにという願いを込めた約束。


「結局離婚したままだけれどな」

「でもあの頃に比べると大分関係はましになったかな。やっぱり離れている方が上手く行くみたいだから、父さん達も」

「確かに」


「再婚する気は無いみたいだけれどね。下手にくっついたら世帯収入が倍になるから税金が酷いことになるって言っていたし」

「何だかな」

「お兄もそう思うよね」


 まあそれでも今が一番家族の関係がいいような気もするし。

 こういう形もありかなと思える程度にはこっちも成長した訳だ。


「それは別としても、こうやって隣同士にいる方が恋人っぽくていいよね」

 ちょっと待て。

 いきなりそう切り込まれて思わず焦る。


「いきなりそれは反則だろ」


「私にとってはいきなりじゃ無いよ」

 千咲がそう言って俺の方を見る。


「離れてからはもっと色々お兄の事を視ているしね。少なくとも小中学校通しての間、お兄より好きになれる男子はいなかったな。私もおかしいと思ってお兄以外を好きになろうと色々したんだけれど」


「高校になったらまた環境が変わるだろ。中学の時より出来る奴も多いしさ」

「どうだろ。無理じゃないかな」

 おいおいおい。


「多分ね、お兄のいいところを色々見過ぎちゃったんだよ、私。それに今のクラスに入れたのも結局お兄が色々勉強教えてくれたおかげだしね。高校は別の所に行くって言っていたのに、私が志望を変えたら結局最後まで色々面倒見てくれたし」


「まあ妹だからな」


「本当に?」

 千咲の視線が俺に突き刺さる。

「本当に妹だから?」


 何とか頷きつつ俺は理解した。

 問題は何か、警報は何を意味するのか。

 多分千咲をこれ以上好きになったらもう止められない。

 俺自身が止められなくなる。


「ならどんなタイプがお兄は好き?妹でなければ姉?それとも幼なじみ?ツンデレ系とか病んデレ系?お気に召すまま何でもどうぞ」

「千咲は今の千咲で充分だと思うぞ。実際中学時代も結構モテていたろ」

「お兄にモテなきゃ意味ないんだよ。やっぱりお兄と言う呼び方が駄目なのかな。千早君、って呼んだ方がいい?千早と呼び捨ての方がいい?」


 冗談っぽく言っているけれど本気なのはわかる。

 なにせ誰より付き合いが長いから。


「さっきも言っただろ。千咲は千咲のままで充分」

 これは間違いなく俺の本音なのだ。


「もし私の嫌いな処があったら何でも言って。直すから」


「特に思いつかないな」

 これも本音だ。


 俺の台詞を聞いて千咲は少し考える様に時間を置いた後、再び口を開く。

「なら、これからお兄が私に本気になって貰うように色々やってみるね。もう懸念する事は何も無いから遠慮しないから」


 既に危ない状態だから何もしないでくれ。

 口に出しては言えないけれど俺の本音だ。

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