§19

「お兄のと比べてみるよ」

 俺の記載は1枚目の下の方に書いてある。


 それにしても千咲が俺のことをお兄と呼ぶのは久しぶりだな。

 普段は千早と名前の方で呼ぶのだけれど。

 名前の方で呼ぶようになったのは何時からだっけかな。

 小さい頃はお兄ちゃんと呼ばれていた記憶があるし。


 そんな事を考えたせいか、その記載を見つけたのは千咲の方が早かった。

「この『民法第817条の2による裁判確定日』って何だろう」


 こういう時は自分で調べるより早い方法がある。

「明石、民法第817条の2って何だ?」


「1、家庭裁判所は、次条から第817条の7までに定める要件があるときは、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組(以下この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。

 2、前項に規定する請求をするには、第794条又は第798条の許可を得ることを要しない。

 つまり特別養子縁組の制度だ」


 何でこんなの暗記しているんだ、こいつは。

 でもついでだから更に聞く。


「特別養子縁組って普通の養子とは違うのか」

「法律上の子どもと実親との親子関係を断絶させる事、続柄も養子ではなく長男長女となる事かな、大きな違いは。

 要はほとんど実子と同等扱いになるという事だ。ただし、実子と違う事がある。

 民法第734条、さっき言った近親婚の禁止だ。但し書きにあるとおり養子は除外、特別養子の場合も扱いは同じ。つまり同じ夫妻の長男長女の間であろうと婚姻可能という事だ。了解か」


 今の明石の説明で的形さんと八家さんも状況は理解できたのだろう。

「ある意味最高の結果じゃん。間違いなく兄妹でかつ結婚可能って」

 的形さんはそう言うけれど。

 俺としてはまあ思うところが色々あるわけで。


「ここから先の事実関係は親に聞くのが正しいと思うぞ。推測するにも情報が少なすぎる。

 さて小生はそろそろ失礼しよう。一通り状況はわかった。後は2人で考える番だ」


「そうですね」

 八家さんも頷く。


「私としては野次馬的な興味もあるけれどね。でもその辺はもう少し考えを整理した後もでいいかな」

 的形さんも。


「そんな訳で、明日学校でな」

「またね」

「失礼します」


 3人が去って行く。

 うん、確かにここからは2人で考える、もしくは確認するべきだろう。


「取り敢えず帰って話そうか」

「うーん。折角ここに来たんだから、お買い物して帰った方がいいんじゃない」


 俺より千咲の方が冷静だ。

 言われてみると確かにその通り。


「なら昼と夜の分を買って帰るか。何がいい」

「今日の昼は菓子パンの気分かな。夜は昨日が焼肉だったから出来れば刺身とかそっちがいいな」

「はいはい」


 取り敢えず今はいつものように返事。

 そう、何が変わった訳では無い。

 千咲が妹である事実は変わっていないのだから。


 血を分けたとかそういうのはあまり気にしていない。

 そんなの関係ない位に親密だという自信はある。

 だからこそ問題もある訳だ。

 でもその辺は今は考えない事にしよう。

 千咲や親と話し合うまで、その辺は封印だ。

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