§16

 ちょっとの沈黙の後。


「網干、お前の血液型は何型だ?」

 明石が聞いてくる。


「B型だ。ちなみに母はB型」


「ならどっちで断絶が起きているかはわからないな」

 明石は完全に理解したらしい。

 そしておそらく他の面々も。


「AB型同士の子供でB型でしたら遺伝子型は必ずBB型のはずです。つまりその子供がO型という事はありえない訳ですね」

 八家さんが確認するようにそう口にする。


「ちなみに父はA型だ」


「つまり子供はAB型、B型しかあり得ない。ついでに言うと網干がB型だから父親はAO型となる訳か」

 これは的形さんだ。

 流石進学校の特進クラス。

 説明無しで皆さん理解してくれた。


「つまり私はお父さんとお母さんの子じゃ無いって事?」

 千咲だけが完全に理解していない模様。


「いや、世代断絶はその上、お母さんの段階で起こっている可能性もある。だから網干は結論がすぐに出ないと言ったんだ」

 そして明石はやっぱり完璧に理解してやがる。


「でもそうすると、千咲ちゃんと網干が結婚できる可能性が出た訳か」

 的形さんがそんな事を言う。

 でも俺もそれに気づいていた。

 そして千咲も、きっと。


「どうする。お母さんにでもメールしてみる?」

「それより証拠を固めよう。明日は市役所の日曜窓口が開いている。そこで網干が全員記載の戸籍謄本を取れば答は出るだろ」

 明石はそんな事を言う。

 確かにいきなりメールするよりその方がいいかな。

 心の準備をするためにも。

 でも何故千咲では無く俺が戸籍謄本を取るのだろう。


「どういう事?」

 俺のかわりに的形さんが質問してくれた。


「離婚してても結婚していた時の記載事項は残っている筈だ。除籍とか離婚とか書いてはあるけれどさ。普通養子の場合は実親とかも全部載っている。だから元々の筆頭者だった方、つまり網干の父親が含まれている戸籍謄本を取った方が色々書いてある筈だ」


 そうなのか。

「詳しいな、明石」

「単なる雑学だ」


 確かにこいつの場合はそうなのだろうな。

 下らない事も山ほど知っているし。


「じゃあ詳しい事は明日だね」

 千咲はそうあっさり言う。

 でも俺は色々複雑な気分だ。

 千咲が妹だというのは、俺にとっては当たり前の事実だったから。

 物心ついた時からの事実だったから。

 どんな人より一番身近な可愛い妹。

 ずっとそうだったから。


「じゃあ明日に備えて今日は寝るぞ」

「明日では無く今日ですわ、もう」

 時計は午前1時過ぎ。


「まあ修学旅行と違って門限も巡回も無いからな。うちの中学には修学旅行は無かったけれど」

「どうして?普通はあるよね」

「先輩が文化財に落書きして中止になったの」


 そんな会話もあまり耳に入らない。

 かと言って何か具体的な事を考えている訳でも無い。

 そんな感じのまま色々な千咲の思い出などを思い出したりして。

 周りが寝静まった後も、俺はなかなか眠れなかった。

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