§11

 カラオケから帰る途中、明石からの攻撃を受ける。

「まさかNHKみんなのうたの曲を連続で出すとはな」

「歌える歌が無くなったからしょうがないだろう」


 なにせ流行の歌はサビだけしか知らない。

 俺がわかるのはせいぜい教科書で習った曲とかその程度だ。

 その辺は俺より千咲の方がまだまし。


 そして明石は更に八家さんを攻撃。

「八家さんも怪しい曲ばっかり歌うよね、上手かったけれど」


「あれって怪しい曲なの?素直にいい曲だったじゃない」

 的形さんが?という顔をする。


 しかし八家さん本人の反応は異なった。

「詳細は言わないで下さいね。姉がその手のゲームや本が好きなんです」


 何だその手とは。

 でも明石には通じたようだ。


「ひょっとして夏と冬に有明で戦ったりもする?」

「姉は売っている方です。もうすぐ壁になれそうだって」


「壁とかどういう話?意味がわからない」

 千咲が当然の疑問を口にする。

 勿論俺もわからないし、的形さんもわからなそうだ。


「世の中にはわからない方が良い世界があるんだぜ、お嬢さん」

 わざとらしい口調で明石は言った。

 チイチイチイ、と人差し指を左右に振る動作付きで。


 壁とか売っているとか何なのだろう。

 ありあけと言われても横浜土産のハーバーしか俺には思い浮かばないしな。

 ただ明石がその気ならこっちも言いたい事がある。


「変な歌ばかり歌っていたのは明石、お前だろ」

 蜜柑とかダメ人間とか印度化とかホルモン注射とか。


「一曲まともに歌ったっぽいのもあれ、わざとだよな。ホモ曲と有名な奴」

 的形さんも突っ込んだ。


「バレていたか。でも的形さんは何故そんなの知ってるんだ?」

「家の母がマッキーのファンだから」

「なるほど理解した」

 俺は理解していない。

 ただ明石の引き出しがこの分野においても広いことは思い知った。

 思い切り異次元な方向にだろうけれど。


「そういう意味では的形さんと姫路さんは真っ当だ。うん、学生の鏡」

 的形さんは最初に歌った歌手中心。

 千咲は地名と2桁数字がついたあの系統のグループの曲が中心だった。

 そういう意味では確かに真っ当と言えるかもしれない。

 それにしても八家さんの曲は何だったんだろうな。

 上手かったしいい曲揃いだったけれど。


「さて、網干と姫路ちゃんの愛の巣に到着!」

「いやそれ違うから」

 家に着いた。


「そのバイク、明石君のですよね」

 八家さんが明石に尋ねる。


「ああ。元は親父ので、兄貴経由で俺のになった」

「いいですね。私も免許を取ってベスパかピアジオの古いのが欲しいのですけれど」


「趣味的だなあ。でも普通の家はうるさいんじゃない」

「残念ながら許してくれそうに無いですね」

「うちの学校はバイト禁止だしなあ」


 明石、八家さん攻略中か?

 でも今のところ八家さんから話をしている感じだからなあ。

 そんな事を考えつつ、玄関の鍵を開ける。

 昔ながらの引き戸をガラガラ引いて開けて。


「おいよ。何も無いけれどどうぞ」

「それじゃ、おじゃまします」

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