第4話 カラオケ

§10

 家に荷物を置いて、徒歩5分のカラオケ屋へ。

 部屋に入ったは良いが、実は俺はカラオケ初めてだ。

 分厚い本とマイク、それとタブレット状の機械が置いてある。

 恐らくはこれで曲を入れるのだろうと思うのけれど。


「誰かやり方わかるか?」

「うーん、人がやっていたのを見た事はあるけれど、自分でやった事は無いんだ」

「私は来たのも始めてですわ」

 的形さんと八家さんは知らない模様。


 しかし。

「ふふふふふ、この日のために実は予習済み!」

 明石がタブレットを手に取り中央、皆の見える場所に置いて操作を始める。


「まずはこのタブレットで操作する方法。ここで局をどうやって探すかを決めて、ここでこんな感じで探す。自信が無ければ此処で曲名を押せば、歌いだしとか詳細を確認出来る。そしてここをポチッと押すと」


 カラオケ機の大きい画面に曲名が表示された。

 ちなみに俺の知らないグループの知らない曲だ。

 タイトルからして柑橘類の曲らしい。


「そんな訳で不詳わたくしめから第1曲。歌っている間に各自曲を探して入れてくれ」


 派手で騒がし気なイントロが流れる。

 明石がマイクを持って立ち上がり、前へ。

 小さいディスプレイがあり、どうやらそこで歌うらしい。


 大きい画面に歌詞が表示される。

 何だこれは。

 愛媛農協にでも作らされたような歌詞と歌に俺はあっけにとられる。


 明石は半ば叫ぶように歌い出す。

 決して歌は上手い方では無い。

 ただ歌詞があんまりなのと、明石が気合い入れて歌うのとが合わさった結果。

 見ていてなかなか面白い代物になっている。

 そうか、上手く歌うだけでなくこういう方向性も有りなんだな。


 女子陣も全員入れた模様。

 俺も何とか歌えそうな曲を入れる。

 そして。

 最後に蜜柑を連呼して曲を終わらせた明石を拍手で迎えた。


「何だったんだ今の曲は」

「気にするな。ネタ系カラオケ定番曲その1だ。この日のためにネットで研究して練習した」

 そんなジャンルがあるのか。

 ついでに言うと、そんなのを練習する人もいるのか。

 世の中は広い。


「そんな訳で今度は別の歌手でやはりネタ系を」

「そんなのばっかかい!」


 なお2曲目を歌っているのは的形さん。

 今はメジャーな元ボカロ系の男性歌手のメジャーな曲だ。

 案外上手い。


「この人の曲は好きだし歌も上手いと思うのですけれど、ビデオクリップは実写より本人が書いたイラスト背景の方がいいですよね」

「それって、顔は見ない方がいいって事かな」

「それを言っちゃ本人が可哀想だろ」


 八家さんがオブラートに包んだ表現をしたのに対し、千咲が身も蓋もない返答をして、明石がトドメを刺す。

 言いたい事はわかるし俺も同意するけれど。


「次は駄目系で行こうかホモ系で行こうか」

 明石がそんな事を言いながら曲を探している。


「どんな引き出しをお持ちなんですか明石さんは」

「でも八家さんの入れた曲、アレだよね」


「うっ」

 八家さんに中程度のダメージ!

 

「ネタバレはしないで下さいね。絵と曲は好きなんです」

 八家さんは言い訳のようにそう説明する。


 俺にはわからないが八家さんが入れた曲も何か微妙に問題がある模様。

 明石は無駄に知識が広いからなあ。

 そんな感じで2時間はあっという間に流れていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る