§7

「片付けは私がやっておくよ。だからお風呂とか入っていて」


 そう千咲が言ってくれたので取り敢えず風呂へ。

 と言ってもまだ湧かしていないので、ささっと洗って栓してスイッチ押して。

 風呂が沸く間に二階の部屋をささっと回って窓を開ける。

 防犯上問題が無い場所だけだけれども。

 これで風呂から上がったら閉めるのが俺の習慣だ。


 さて、自分の部屋を経由してタオルと着替えを持って風呂へ。

 なおタオルとかも我が家は父専用と俺専用がある。

 それぞれ自分の部屋で保管している。

 洗濯もそれぞれ別々にするシステムだ。

 確かにこの辺の性格、母さんとあわないよな。


 風呂からお湯張りが終わったという音楽が流れる。

 さて、風呂へ入るか。

 そんな訳で身体を洗って、そして湯に浸かっていた時だ。


「湯加減どう?」

「まあ自動だし、ちょうどいいわな」

 そう言ってふと嫌な予感がする。

 最近こそ無かったけれど、このパターンは前にもあったぞ。


「ならちょうどいいから私も入るね」

 やっぱりこう来たか。

 ここで騒ぐのは初心者だ。

 慌てて出ようものならお互い裸のまま脱衣所でかち合う羽目になる。

 近所からも何事かと思われかねない。

 奴が身体を洗っている時点でそそくさ逃げるのが最善だ。


「失礼しまーっす」

 入ってきた千咲をあえて無視。


「どう、最近大分胸も育ったんだよ」

「はいはい」

 視線をそっちに向けないで返答する。


「何なら触って確かめる?」

「別に」


「もう、つれないなあ」

「妹だからな」

 そう、千咲はあくまで妹。

 自分に言い聞かせる。


 そんな訳で千咲が髪を洗い始めた時点を見計らって、そそくさ退散。

 ちらっと色々見えたけれど徹底的に無視だ。

 確かに最近育った気もするけれどさ。

 あくまで妹だし気にならないぞと自分に言い聞かせる。


 タオルでささっと身体を拭いて服を着て、キッチンへ逃げる。

 千咲は妹だという意識があれば、裸が見えても大丈夫。

 そう、千咲は可愛いけれどあくまで妹なんだ。

 そう自分に言い聞かせておく。

 例え兄妹でもこの年で一緒に風呂には入らないという常識はこの際無視だ。


 明日の弁当用に取っておいたおかず類が冷めたのを確認して冷蔵庫へ。

 自分の脱いだ服やタオル等を洗濯機に放り込む。

 洗剤を入れてボタンを押しておく。

 千咲は割と長風呂だから、出るまでには洗濯も終わるだろう。


 2階の窓を閉めて洗濯物を自分の部屋に持って行って干せば、家事は完了だ。

 千咲という不確定要素が入ってはいるが、俺の普段の生活とそう変わりは無い。

 父はいつも遅いし、自分の事は全部自分でする派だから。

 洗濯物を自分の部屋に干し終わった頃、ようやく千咲が風呂から上がった様子だ。

 どうせ凄い格好だろうから部屋から顔は出さないでおくけれど。


 足音が風呂からリビングに消えて、そしてまだ戻って来た。

「千早、今日は一緒のベッドで寝る?」

「お前は自分の部屋が2階にあるだろ。客間もあるしどっちかで寝ろ」

 俺は部屋から出ずにそう言っておく。


「どっちもあまり使っていないから今一つなんだ」

「駄目、俺のベッドはシングルサイズだしさ」

 それ以上の台詞は無い。

 足音が去って行く。

 今回は諦めてくれたようだ。

 ちょっとほっとする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る