§6

 俺が買い物をして帰ったところ、既に千咲の自転車が玄関前に停めてあった。

 どうやら先についたようだ。

 鍵を開けようとして既に開いていることに気づく。


「お帰りなさい」

「ただいま」

 そう言ってから付け加える。


「俺が帰るとわかっていても鍵は閉めておけよ。最近はこの辺にも空き巣が出没するらしいから」

「はいはい」

 今一つあてにならない返事だがまあいいだろう。

 俺はまず取り敢えず自分の部屋に寄って制服を着替える。

 この家は元々は母の実家で部屋数が多い。

 1階だけでキッチン、リビング、リビングと一体となって使っている8畳間、俺の部屋、父の部屋、客間がある。

 何故母の実家に父が住んでいて母がマンションに住んでいるかの理由は簡単。

 離婚した際、広すぎて不便だと母が自分からマンション住まいを希望したからだ。


 そんな訳で普段は父と俺が住んでいるがやっぱり2人には広すぎる。

 使っているのは1階だけで2階の4部屋はほとんど使っていない。

 家が傷むと困るから毎日風通しだけはしているけれど。


 制服とズボンをハンガーに掛けて家の中用のトレーナーとスエットパンツに着替えてから、脱いだ服類と買い物袋を持ってキッチンへ。

 うちはキッチン横に洗濯機があるので脱いだワイシャツ類はその中へ放り込む。

 あとは買ってきたものを冷蔵庫に入れるなり何なりしてと。


「今日は夕食は何?」

 リビングの方から声が聞こえる。


「生姜焼き。豚が安かった」

 多めに作っておけば明日の弁当にも流用できる。


 まずは炊飯器を早炊き1.5合にセットし、ささっと生姜焼きとキンピラを作る。

 野菜は冷凍のオクラを茹でて、適当にちぎってレタスの上に乗せてと。

 冷や奴を皿にのせて瓶のなめたけの中身を豆腐の上に乗せれば夕食完成だ。

 炊飯器から炊飯完了の電子音が流れる。

 最近は慣れたもので炊飯器の早炊きと同じ早さで夕食を作れるようになった。


「出来たぞ、取りに来い」

 2人分だと皿の数が多いので1人では持ちきれない。


「はいはい」

 出てきた千咲の格好にちょっと俺は頭痛を感じた。


「あのなあ、もう少し真っ当な格好をしてくれよ」

「家だといつもこれだけれどな」

 制服の上着とスカートを脱いだだけの姿だ。

 つまり上はブラウス下はパンツ。

 この場合のパンツとはズボンという意味では無い。


「いいじゃない。私は気にしないし」

 俺は気にするの!


「それに妹でも姉でも恋人でも問題無いでしょ」


 一つ余分なものが入っている。

「どさくさに紛れて付け加えるな」


 どっちにしろ口では勝てない。

 なので何やかんや言いつつもそのまま2人で夕食をテーブルへ。

 4人掛けのテーブルに2人で並んで腰掛ける。

 これは今までがそうだったからそのまま。


「相変わらず上手だよね、料理。私はこうはいかないな」

「母さんは何でも自分でやってしまうからな。まあしょうが無い」

 母さんは自分の手で作らないと気が済まないタイプ。

 だから千咲が家事をする必要はない。

 自然、料理とかも千咲は得意ではなくなる訳だ。

 でも母さんはあまり凝ったものは作らないのだけれども。

 弁当も手のかかる幕の内タイプではなく丼物とサラダが定番だし。

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