§4

「だから俺はその気は無いから」

 ここは断固として言っておくべきだろう。

 この先の俺の生活にも関わる重大事項だ。


「でものろけ話はたっぷり塾で聞いたよ」

 的形さんがそんな事を言う。


「千咲の創作と妄想だ」

 断固として否定しておく。


「ならどんなタイプがお気に召すのでしょうか。お姉さん系ですか、クラスメイトですか、幼なじみですか。どれもOKって千咲は言っていますけれど」

 八家さんが攻める。 


「でも妹であることは変わりないだろう」

 そう言って俺は否定。


「双子ですから妹かお姉さんかは考え方次第ですよね。クラスメイトなのも間違いないですよね。幼なじみだって事実ですから大丈夫ですわ」

 八家さんにそう押し切られる。


 おいちょっと待て。

 何か色々おかしい。

 この2人、まさか……


「塾の頃から約束していたんだ。もし一緒にここに合格したら、是非千咲の恋を一緒に応援しようってさ」

「ええ」

 的形さんの台詞に八家さんが頷く。

 俺は理解した。

 この2人、千咲を含めて3人は俺の健全な高校生活の敵だ。

 初日から勘弁してくれ!


「だいたい世の中には法律というものがあってだな。3親等以内の婚姻は法律で禁止されている」


「別に法律的な結婚しなければならないという事は無いよな」

 的形さんは法律無視を唱えた。


「世の中には事実婚という言葉もありますわ」

 八家さんは高校1年生に似合わない単語を平然と口にした。


「千早はそんなに私の事が嫌い?」

 更に千咲がそんな事を聞いてくる。

 ちょっと目をうるうるさせて。


「そういう事は無いけれどさ」

 駄目だ。

 女子2人プラス千咲に対して口では勝てない。

 この場で撮るべき戦術はただ一つ。

 勇気ある撤退だ。

 おれは猛スピードで丼を平らげ、野菜を飲むようにしてかっこむ。

 若干むせながらも2分フラット程度で弁当を片付けることに成功した。


「ごちそうさま。弁当箱は洗って返すから。じゃあな」

 ささっと席を立って、机を1つだけ元に戻し。

 そして俺はその場を逃げ出した。


 その足でそのまま洗面所へ。

 洗面所に行ったのは、弁当箱を軽く洗うためだ。

 それにしても1日目にしてここまで攻められると思わなかった。

 この後は図書室辺りにでも姿をくらまそう。

 授業開始5分前の予鈴までは教室に戻らない方が良さそうだ。

 思わずため息が出てしまう。


 何で俺、こんな事になったのだろう。

 普通は兄弟姉妹の間にはこういう愛情は発生しない。

 ただ俺と千咲の場合、離婚の関係で小学1年からは違う家で育っている。

 それが悪かったのかもしれない。


 それでも小学校の頃はここまで酷くはなかった。

 中学の頃に何かやばいかなという感じに思えてきて。

 いや待て、変わらないのは俺の方か。

 千咲は幼稚園時代から将来は俺の嫁になると言っていたからな。


 でも普通は小学校高学年なり中学校なりで考え直すものだ。

 それがもう高校入った初日から全開だ。

 これからどうすればいいだろうか。

 答はそう簡単には思い浮かばない。

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