§3
入学式という名の集団拷問が終わって教室に戻った後。
先生の説明の時間も何とか耐える。
明石君の号令で昼休みこと昼食の時間に突入。
そして俺は忘れていた事を思いだした。
「ちょっと売店を覗いてくる」
明石にそう言って立ち上がった時。
むぎゅっと制服の袖を掴まれた。
「千早のお弁当は持ってきたよ」
遅かったか。
「悪い。朝のうちに受け取っておけば良かった」
いや、本当は持ってきているのはわかっている。
入学して1日目から噂が出そうな行動はしたくなかっただけだ
「どうせ同じ保温袋に入れているからね。一緒に食べよ」
俺の気遣いは千咲に全くもって無視されたようだ。
片手を引っ張られずるずると千咲の席の方へと連行される。
既に空席の机を使って席が組んであり、俺の席と弁当も置いてあった。
ちなみに俺と千咲だけで無く、他に女の子2人も一緒だ。
いつの間にこんな状態に。
「同じ塾だった
ショートカットの活発そうな方が的形さん。
長髪長身で大人しそうなのが八家さんか。
「どうも、話は千秋からたっぷり聞いていますわ」
八家さんが言葉に若干含蓄含んでそんな事を言う。
とっても嫌な予感がした。
回りを見る。
わざわざ席を移動してまで一緒に食事をしているのはここだけだ。
なにせ入学初日、そこまで各自仲良くなっていない。
だからとっても目立つ。
嫌でも注目されているような気がする。
何かもう勘弁して欲しい。
「さて、御飯にしましょう」
「はい、千早のお弁当」
千咲が容器2つと箸箱を俺に渡す。
ちなみに弁当箱のデザインは千咲のとおそろいだ。
ちょっとお洒落なお鍋の形をした大小2つのタッパー。
俺のが白色、千咲が赤色と色違い。
今日の中身は大きい方が焼き鳥丼、小さい方が野菜サラダだ。
千咲のも全く同じ。
「お弁当の入れ物も中身もおそろいなんですね」
「その方が作るの簡単だしね」
「それって千咲が作っているの?」
「大きい方がお母さん。サラダの方は私」
「凄ーい、愛されているな、千早君は」
愛されていると言ってもなあ。
それに実は両方とも母が作っていると思うぞ。
「ちなみに同じお弁当があと2つ、お母さんの分とお父さんの分も」
「そっか、離婚してても仲いいし同じ会社なのですよね」
皆さん色々諸事情も御存知のようだ。
俺は諦めて静かに焼き鳥丼の方を食べ始める。
的形さんがにやりと笑って俺の方を向いた。
「さて、千咲の愛情に際して千早君のコメントを一言」
とんでもない事を言われて思わずむせる。
御飯を吹き出さずに飲み込むことに成功した俺を誰か褒めてくれ。
「愛情ったって妹だぞ、しかも双子の」
「でも似ていないよね、全然」
「そうですわ、似ていないから大丈夫ですよ」
何が大丈夫なのだ。
「私達皆で禁断の愛を応援して差し上げますから」
もう一度むせそうになる。
何という恐ろしい事を言うのだ八家さんは。
何か教室内の視線がこっちに向いているようで怖い。
怖すぎて確認出来ないけれど。
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