§2
一番右の前から2番目。
名簿によると僕の前に似座っているのは
彼がこのクラスに合格してくれたのは幸いだった。
おかげで臨時の号令係とかはやらなくて済みそうだ。
ア行で始まる名字の人間にはそういうトラウマが存在する。
臨時の号令係とか委員長とか日直とか。
ちなみに明石君とは初対面。
きっと入試の時にはいたのだろうけれど覚えていない。
見かけは細身の人の良さそうな奴だ。
「ども、初めまして。今後宜しく」
とりあえず挨拶をしておこう。
同じクラスで3年間の付き合いになる筈だしさ。
「こちらこそ。何処の中学?」
正しい反応を返してくれた。
大変話しやすくて宜しい。
「こっちは鷺崎市南中。そっちは?」
「楓市中央。どっちも微妙な距離だな」
学校の最寄り駅からどちらもJRで2~3駅離れた場所だ。
「まあね。楓市なら東勝鹿は受けたのか?」
「合格したけれどこのクラスの方がレベルが高そうだから」
そんな感じで受験の話をちょっとした後。
「ところで一緒に来た女の子、あれ彼女か?」
いきなり聞かれた。
「名字は違うが双子の片割れだ。両親が離婚してさ」
「そうか、悪い事を聞いたな」
明石君は申し訳なさそうな顔をする。
「いや、うちの場合は全然悪くない。今でも家族一緒に夕食食べに行ったりするし」
そう。
離婚した今でも父母ともに仲はいい。
離婚理由は性格の不一致。
何でも世話したがりな母と自分の事は全部自分でする主義の父。
幾度も話し合いと試行錯誤をした結果。
離婚した方が平和かつ仲良く暮らせると判断した模様だ。
ちなみに今こそ家は離れているが、父母の仕事場は今でも同じ。
父が経営して母が経理を担当する貿易会社だ。
社員も何人かいるが基本的に2人で会社を回している。
今でも仕事が忙しいときは千咲と一緒にどっちかの家に泊まらせられる。
そんな状況だ。
親には何で離婚したんだよ別居で充分じゃないかよと深く追及したい。
言っても無駄とは百も承知だけれど。
「取り敢えず離婚して別居しているけれど普通に仲は良いんだ。世の中の深刻な離婚家庭に数百回怒られてこいと言いたいレベルで」
「何かしらんが苦労しているのはわかった」
察しが良くて助かる。
「それじゃ彼女ではないんだな」
「単なる双子の妹だ」
「似てないな」
「二卵性だからな」
明石はうんうん頷いた。
「よしよしチェックと」
むむっ。
「何をチェックしているんだ」
「高校生活をバラ色にするためのリストだ。何せ中学時代は暗黒だったからな。高校デビューで目指せリア充!という訳で、クラスの女子全員をまずチェックだ!」
おいおいおい。
「それでここの荒川学園特進に来るのは間違っていないか?」
ここはバリバリ進学校の最先端な進学クラスのだけれども。
「ここの特進に入ると一般クラスの女子を食い放題と聞いたからだ!」
俺はそんな話を聞いたことは無い。
大丈夫かこいつ。
「そもそもカリキュラムが違うし一般クラスと一緒になる機会は無いぞ」
「課外活動に女子を通じた紹介に、色々チャンスはある筈だ!俺は高校デビューして、中学時代の皆を見返してやるんだ!」
危ないなこいつ。
とりあえずこいつに千咲を紹介するのはやめておこう。
同じクラスだから知り合う可能性はあるけれど。
そう思ったところでチャイムが鳴った。
すぐに先生が入ってきたので、話の時間はこれで終わりだ。
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