せめて夢でも幻でも


中年と言われる年齢になっても一度も異性との交際経験がない。

(もちろん同性との交際経験もない)

今時こんな人間はめずらしくもないだろうから、詳しい事情は省こうと思う。


はっきり言えるのは、私は敗者であり、売れ残りであり、

ここからの逆転は絶望的だということ。


人生は長いようで短い。

二十歳くらいまでには適性を見出だし、

三十歳くらいまでにはそれなりの立場を確保しておかないと、

その後はお先真っ暗なのだ。


私はもう若くない。

こんな私を好きになってくれる人はいない。

もう終わったのだ。


それなのに、人としての寿命はまだ半分以上も残っている。

こんな惨めなまま四十年以上も生きるなんて、私には耐えられない。

だから、自分で終わらせる。


悲しいな。

まだ始まってもいないのに、終わらせなきゃいけないなんて。

せめて夢でも幻でも、素敵な恋人ができたらいいのにな。



……

ああ、いる。

すぐ隣に。


顔もよく見えない。

名前も知らない。


でも、分かる。

私はこの人が好きだ。

この人も私が好きだ。


暖かいなぁ。

好きな人と手をつなぐのって、こんなにも暖かいんだ。


よかった。

最後に、ほんの一瞬だけど、幸せになれて……。

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