Summer——06

 プレーンタイプと米粉使用のチェロスについては気に入ったらしく目を輝かせて絶賛したプレゼンティは父たちと合流するまでに購入した10本全てを食べきって、現在、モデルの仕事を再開している。


 無事に送り届けたことだし涼みに戻ろうとした明弘も、彼女と共にカメラを向けられていた…………。


 ちょっと意味が分からない。


 父は顔がいいのでモデルもこなせれば、プレゼンティとそれらしくスキンシップを図ることで互いの虫除け、厄除けにもなる。

 撮影の合間に声を掛けられるとそれなりに時間が取られて予定がズレ込むため、これがありがたいらしい。

 本業がデザイナーでセンスが悪い訳もなければ意見交換も当然のようにできるという一石三鳥の役どころを買われて撮影にも参加していた。


 しかし、明弘は違う。

 ツリ目故に鋭さを含む視線が子供らしさを完全に殺してしまっている。それでいて身長は伸び悩んでいるから歳を盛ることもできない。5年は経ってから出直して来いと追い払われ、できることと言えば見学くらいのもの……。

 はっきり言って大きなお世話である。

 モデルになりたいだなんて誰も思っちゃいない。


 父の本業の方になら多少の興味はあるけれど跡を継ごうとまでは考えてないし、見学なんて暇なだけ。1人、海で遊ぶというのも虚しいばかりで、だから、フードコートでカキ氷を食べていたのだ。


 それなのに何故、カメラを向けられているのか。

 ——目元が問題なら、そこを隠してしまえばいいんじゃないのか?

 などと言い出したプレゼンティが後ろから抱きついてきて、その手で明弘の目元を覆った——その姿に、琴線に触れるものがあったらしい。

 カメラマンがシャッターを切った。


 飛んでくる指示の勢いに負けて従ったが……。

 明弘の水着は自前のものでブランド品ですらない。

 目的としているカタログのそれには使えないだろう。


 一通り撮って、カメラマンが満足したところでデータを確認した大人たちが無言で握手を交わし始めた辺り、一種のホラー映像でしかなかった。

 暑さにやられたのだろう頭を彼らは早急に冷やしてくるべき。


「まあ、お前も見てみろ」


 他と同じようにデータを確認して、感心した様子を見せた父に手招きされ——離れないプレゼンティを半ば引きずるようにして移動し、大人たちの輪に加わる。

 …………ひんやりとした彼女の体が気持ちよくて、自由にさせてしまうのも致し方のないことだと言いたくなる程度には暑いのである。


「記念に買わせてくれ」

「いいさ、気にするな」

「おいおい、お前の腕プロの仕事に金を払わせない気か?」

「撮らせてもらった礼だよ」


 喉の奥で笑うように、いい絵だと述べる。

 大人たちの声に思わず無言を返した。


 ————目元を隠す手が外れた、ほんの一瞬を切り取った、それは確かにいい絵で。

 照れ笑い。初々しくも年相応にじゃれ合う男女の間にはそれ故の美しさがあった。


 まるで別人。自覚のない恋心を暴かれたような、そんな写真を手にカメラを地面に叩きつけなかっただけ、理性的だったと思う。

 無言のままにデータを消去しようとしたがその前に取り上げられて叶わなかった……。


 くそっ……! 消させてくれ!

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