Summer——01

 父がイタリアの出張から帰宅すると、それはもう怒涛の勢いだった。

 服に始まり家具、日用品……。

 積み上がった品々に母と2人、並んで閉口してしまったのは仕方のないことだったと思う。


 一応、最低限のものは彼女がうちに現れた翌日には揃えて整えておいたのだが……。

 靴やバッグ、ベルトといった小物の類いを同梱していたとしても、衣類だけで段ボールにして6箱分。

 何を考えているのかと問い詰める気も失せる量である。


「さすが……と、言うべきなのかな。ヒューマノイドというだけあって完璧で美しい」

「お褒めいただき恐悦至極にございます」


 カメラを構える父の称賛にプレゼンティはフレアスカートの裾を摘んで頭を下げた。

 シャッター音がパシャリと響く。


 ……絵になるとはこのことか。まるで映画のワンシーンのようだ。

 贔屓目なしにモデルと言っても通じる程度には整っている父の容姿と相まって、そんな風に思えなくもない。

 スクリーンの向こう側であれば。


 悲しきかなここは明弘あきひろたちの自宅であり、絵空事の世界ではなく現実だ。

 母は父のことを殴っても許されると思うし、何なら一発ぐらいは殴っておくべきだと思う。


昭吾しょうごさん、これサイズが合わないんじゃない?」


 着せ替え人形の如く出した端から渡してはプレゼンティを着替えさせ、それをカメラに収めていた父に諦め半分で荷ほどきの手伝いを始めた母が声をかける。

 そういうとこだぞ母さん。

 振り返った父は母の掲げたブラウスを見て納得したように「ああ」と声を漏らす。


「その箱の服は涼花すずかに似合うだろうと思って買い取ってきたものだからね」

「え」

「しかし……返品するべきかな……」


 カメラを一旦ローテーブルの上に置いた父は母の手からブラウスを抜き取ると片手でそれを持って、空いている手を差し出した。

 ダンボール箱の前で膝立ちになっていた母を立ち上がらせる。

 何かを確かめるようにブラウスを体に当ててから1つ、やはりとでも言いたげに頷いた。


「どんな服を着ていても私の目は君自身にしか向かないようだ」

「っもう、昭吾さんったら!」


 赤く染まった母の頬に軽い笑いを漏らしながらキスを落とす……。

 なべぶた

 蓼食たでくう虫も好き好き。

 せっかくだから着てみてもいいかと伺いを立てた母が、それならと見繕われた着替え一色を手にリビングから奥の自室へと移動する。


「……砂糖が吐けそう、とはこういう時に使う言葉でしょうか」


 考えるように顎に手を当ててぽつり、とプレゼンティは呟いた。

 真面目腐った調子のそれに思わずため息を返した明弘は悪くない。

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