Presenty——03
…………上の、リビングからか?
止まない騒音を無視することもできず
しかし——。
店舗を兼ねているからと特別防犯設備を整えている、ということもなく一般的な家庭のそれと大差はない。
警報を鳴らすような装置、うちにあっただろうか?
肩からズレた通学カバンの位置を直し階段に足を掛ける。
一段一段、2階へ近付くごとに音は増す。
大きな、鉄の箱……。
側面に埋め込まれたパネルが「音源は自分です」と主張するかのようにチカチカと明滅を繰り返している。
父宛の荷物か?
実は先に帰宅していた母が受け取りを済ませてから、改めて買い出しに出掛けた……という可能性は考えられなくもな————ビーッビーッ!
ああくそっ! いい加減、警報音が耳に痛い。
見覚えのない箱がどこから運ばれてきたものかを考えるより、まずは耳障りなこの騒音をどうにかするのが先か…………。
そして、思わず眉間のシワを深くする。
————使用されているのはラテン文字。
アルファベットだ。
英語? 違う。
イタリア語? 違う。
もしどちらかなら明弘はどんなに小難しい単語が混ぜられていたとしても内容の5割は読み解ける。
その自負がある。
しかし、パネルに表示されている文章をどれだけ見直しても綴りに覚えのある単語は1つとしてない。
ぱっと見で記号付きだとか特殊な文字が伺えない辺り、フランス語やドイツ語ともおそらく異なる…………。
いったい何語なのか。
分からないが…………。分からないなりに、状況と雰囲気から騒音の原因と解決法についてが記されており、その下に添えられた……やはり覚えのない単語を浮かべるボタンが内容に了承の意を示すためのもの……と、推察することはできる。
この推察がまったくの検討違いだろうと、1つしかないボタン。これを押すか押さないか。
選べる選択肢が他にないなら、後は物理的に破壊するしかない。
ほんの僅かな不安。
躊躇いを覚えつつも明弘はパネルに触れた。
そっと、ボタンを押す。
————ビーッビッ……。
ほどなくして音は止んだ。
その事実にほっと胸を撫で下ろす。
…………さて。
家に静けさが戻ったところで改めて箱を観察してみる。
……送り状が貼られていない?
母が剥がしたか。
いや、それよりも奇怪なのは開け口どころか繋ぎ目1つ見当たらないことだ。
父宛の荷物と思い箱と表現したが、パネルが埋め込まれているだけの鉄の塊という可能性もある?
そもそも何故、鉄。
……鉄だよな?
仮に箱として、膝を抱えれば身長157センチ標準体型の明弘はすっぽりと収まることができるだろう。
それだけの幅と高さを有している正六面体。
間違っても銀などでは作るまい。
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