Presenty——02

 彼女、プレゼンティが家族に加わった——。

 より正確に言うと居候としてうちに居付いたのは4月も中旬。

 新学期を迎えてしばらく経った頃のことである。


 その日は、夕日に照らされオレンジ色に染まった帰路を歩いた。


 所属する美術部で見学に来た、あるいは既に入部を決めている新入生の相手をしていたら備品の後片付けが下校時間を過ぎてからのこととなり、いつにも増して遅くなってしまったのだ。


 時刻は17時30分。

 出張でイタリアを訪ねている父はさておいて、早ければ母が家に着いている頃だろう……。

 定時を17時とし、片道30分の通勤路。

 基本的には済ませてから戻る買い出しを後に回したなら丁度今くらいの時刻となる。


 ————視線の先に我が家が見えた。

 住宅街の一角に堂々と建てられた昔懐かしい西洋建築風の青い屋根、紋様混じりの白い壁が少女の憧れそのまま。メルヘンチックな外観をしている。

 宝飾デザイナーでありカラーコーディネーターとインテリアコーディネーターを兼業する父の店舗としても機能してるため『一見して分かりやすい』ことが重要視された結果なのだとか。


 車3台は悠々と停められる車庫。

 木々や花々で飾られた庭。

 外観と相反する日本式の縁側。

 全てを横切って裏口の前に立つ。


 1階には相応に誂えられた部屋が揃っており、父が在宅中の折には正面玄関より出入りすると客人と鉢合わせる可能性が高い。

 不在の今、その心配はない訳だが……。


 2階へと通じる階段が目の前にあるという利便性からも裏口を利用することが習慣と化していた。


 しっかりと締め切られている扉をブレザーの内ポケットから取り出した鍵で開き、誰の気配もなく、しんと静まり返っている家の中に入る。

 母はどうやらいつも通り手頃な店に立ち寄って買い出しを済ませているようだ。

 帰っているならある筈の母の車が車庫になかった。

 別段、遅くなったからといって叱られる訳でも、問題がある訳でもないのだが心配を掛けることにはなる。

 先に帰ることができて良かった……。

 そう、安堵したその時だ。


 ————ビーッビーッ!


 警報のような、芸術性のカケラもない機械音がけたたましく鳴り響き耳をつんざいた。

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