第222話 ライフル編


 このツアーでは拳銃以外も撃てました。


 有名どころでは、M16。法律によりフルオート機能はないのですが、セミオートで撃てました。ゴルゴ13の持っている銃ですね。ただしあれ、狙撃銃ではなくて、アサルト・ライフルです。このときは223マグナムと呼ばれる銃弾をつかいました。


 口径としては、5.56ミリなので、一番の小口径です。が、銃弾が長く、威力は44マグナム以上ありますが、小口径のため反動が御しやすく、すごく撃ちやすいです。


 まず、片手で撃つ拳銃と、両手で保持するライフルでは弾丸の威力が桁違いです。しかも、M16は操作が簡単で、マガジンへの銃弾の装填も楽でした。上からぐっと押すだけで入っていくのです。普通のマガジンみたいに、上から下の弾を押し込んで、その状態を保持して後ろへズラして装填するという難しいことをしなくて済みます。



 他に、ボルトアクションのライフルも撃ちました。スコープがついているやつ。

 このスコープつきのライフルで、たぶん日本人のほとんどが誤解していることがあると思います。

 銃のスコープは一度外したら、もう一回照準を調整しなおす必要があります。


 照準の調整は、ターゲットを撃って、着弾点とスコープのクロスゲージのズレを手動で合わせるという、極めて時間のかかる作業が必要です。


 よく映画で、殺し屋がビルの屋上で狙撃銃を組み立ててターゲットを狙う場面がありますが、残念ながら嘘です。あれは銃に関する極めて初歩的なミスといえます。


 

 ということで、話をもどします。

 このとき撃ったボルトアクション・ライフル。銃の名前は知りませんが、これくらい大量に銃を撃つと、銃器の名称より弾薬の名称の方が重要になってきちゃいます。


 撃ったのは300マグナムと呼ばれる銃弾でした。

 四角い箱型の弾倉に5発入れて、ボルトをかちゃっ、かちゃっと操作して一発ずつ撃ちます。おもにハンティングに使う銃みたいでした。


 撃った瞬間、あまりの反動に吐き気がしました。オエっとなって、2発目はもう撃ちたくなかったです。


 本当に強力な銃を撃つと、吐き気がします。

 それを5発も撃ったら、銃のストックがあたる右肩の部分が赤く腫れてました。銃ってそれらくい威力のある武器です。


 そのあと7.62ミリのNATO弾も撃ちました。

 これは小銃用の銃弾ですが、やはり撃つと気持ち悪くなるレベルです。迂闊に持って撃てば、手首をおかしくします。基本的に軍用の銃弾は、やはり威力が大きいです。


 さらに撃ってみた第二次世界大戦中のライフル。Kar98kって名前でいいんでしょうか? みなさん、「クッパ」と呼んでましたが。


 ナチス・ドイツのボルトアクション・ライフルなんですが、これももう撃つのが嫌になるような強烈な銃でした。戦争中はこんなもので撃ち合っていたのかとも思うと、恐ろしいです。戦争反対。絶対行きたくないです。


 あと、撃たなくて後悔したのが、M1ガーランド。

 他の人が撃っていたのですが、ベンチレスト射撃でした。これ、立射は難しいと思います。

 映画『ペライベート・ライアン』に出てくるらしいんですが、ぼくはよく覚えてません。それくらい、実銃は衝撃的でした。


 撃った瞬間、周囲の空気がボッと燃えるように熱くなり、空間自体が震えるような衝撃波が走ります。

 とにかく大戦中の銃器は、その威力のレベルが違います。現代の軍用銃はずいぶん大人しく、扱いやすくなっている印象でした。



 射撃にはおもにチキン・ターゲットという鉄板を使いました。三十センチ以上あるニワトリ形の分厚い鉄板で、これをターゲットとして立てるだけ。弾が当たると倒れます。カコーンっと音が響いて爽快です。


 これを遠くに置いてきて、みんなで射撃するんですが、二百メートルだと当たりません。スコープがあると当たるのかな。百メートルだと、ライフルなら当たります。でも、素人には難しい。


 最後に、アメリカに行ってぼくが恋した拳銃の話をします。

 実弾射撃ツアーでアメリカに行くまで、ぼくはその拳銃を知りませんでした。

 一緒に行ったモデルガン・ショップの店員の人が「俺の645~」と叫んでいたのを覚えています。

 スミス&ウェッソンM645という自動拳銃です。45口径のダブルアクション。シルバーの銃でした。武骨で大柄で、そのくせ洗練されたデザイン。


 撃発時のリコイルは強烈なくせに、グリップは手になじまないタイプで、そこが逆に心地よかった。

 ぼくはそのM645にすっかり惚れこんでしまうんです。


 2日間の射撃を終え、ぼくらは帰国しました。同じ旅をした仲間とは、とくに連絡先も交換せず、またいつか実弾射撃ツアーで会えるかもしれない。そんな気持ちを抱えて別れるのですが、それ以降ぼくは実弾射撃ツアーに行くことはありませんでした。


 他のメンバーはどうだったのでしょう? 少なくとも現在は、実弾射撃を目的とした海外旅行のツアーは、その宣伝を目にしません。


 かつては石を投げれば当たるくらい存在したガンマニアという人種も、いまや数多のマニアたちの中に埋もれてすっかり見なくなりました。


 銃好きは、出来のいい安全なトイガンに満足しているようで、実物の銃を撃とうという危ない人たちは少なくなったのでしょうか。かくいうぼくも、すっかり拳銃好きから足を洗ってしまいました。


 今回実弾射撃ツアーへ参加した経験を書こうと思ったのは、単にいま書いている小説に銃が出てくるから。

 また、ぼくと同じ小説を書く人たちに、銃というもののリアルをある程度知ってもらいたかった。


 銃は、とくに拳銃は人殺しの道具であり、アメリカでは乱射事件が起こるたびに銃規制の意見が高まり、その都度、日本で言う米議員みたいな銃議員が台頭してきて規制に反対するというイタチごっこが繰り広げられていると聞きます。


 また、銃が人を襲うという意見に対して、だから銃で防衛するのだという対立意見が必ず出ます。


 日本には銃がありません。それはいいことだと思います。が、世界には銃が溢れている。

 それが悪い物怖い物だとして否定的に見ようが、人を守るものだと肯定的に見ようが、すでにある物はなくなりません。無かったことにはならない。


 だから、この場で最後になにか皆さんに伝えることがあるとすれば、ふたつだけ。


 銃を持ったら、引き金に指を掛けないこと。

 そして、もうひとつ。銃口を人に向けないこと。


 それだけは覚えておいてください。


 


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