第221話 拳銃編


 さて、サンフランシスコでの実弾射撃の話をそろそろ始めましょう、いえ、いいかげんに始めましょう。


 ホテルを出たわれわれは、タカハシさんの車で結構遠くまで走ります。そして着いたのが、郊外の屋外射撃場。射撃場と言っても、もう牧場です。北海道のなだらかな丘陵地を思い出してください。


 えんえん続くなだらかな起伏の牧草地の一部が射撃場になっている。

 遠くには牛が草を食んでいるし、見渡す限り波打つ丘陵、丘陵、また丘陵です。

 そこに射撃台だけある。


 ターゲットはペーパーを台に貼ってもいいけれど、チキン・ターゲットという鶏の形にカットされた分厚い鉄板を置いて撃ち倒したり、スーパーでターゲットとして買い込んだ缶コーラを撃ってもいい。こういう自由さのあるツアーでした。


 とくに、缶コーラを撃つと、ぽーんと吹っ飛んで行くのが爽快。

 台の上に5つ並べた缶コーラを連射でつぎつぎ撃って、うち3つをぼくがを吹き飛ばしたら、「うそ、いまの誰?」と警察オタさんがびっくりしてしました。連射で3つは中々凄いんです。使用銃はコルト・ガバメント。


 コルト・ガバメントは名銃です。

 45ACP弾を使います。『ルパン三世』で銭形警部が使っている銃ですね。ぼくの大好きな映画『アンタッチャブル』でも、やたら出てきます。


 むかしの米軍正式拳銃で、自動拳銃の名作。ただし、ぼくはあの戦車みたいな武骨なデザインが嫌いだったんですが、撃っているうちに大好きになりました。


 激しい衝撃と、噛みつくような反動。ただし、取り回しがしやすいです。この撃ち味は本当良かった。嬉しいのは、アメリカ本土迄こなくても、グァムあたりの射撃場でもこの銃がふつうに撃てること。


 また45ACP弾は、マンストツピング・パワーに優れているといわれています。すなわち撃った相手の戦闘力を奪う性能が高いらしいです。


 ただし拳銃弾の威力については諸説あります。

 サンフランシスコで聞いた話ですが、麻薬中毒の患者が銃を乱射して、警察官が応戦したのですが、倒れるまでに実に200発以上撃ち込んだそうです。麻薬中毒の人間は、それくらい恐ろしい。小説『レッドドラゴン』では、主人公がマグナム弾の特殊超強力弾頭『セイフティー・スラグ弾』を使用していますが、これは、そういう経緯があるからです。



 話を射撃場にもどしましょう。


 基本、この射撃ツアーでは、セットでついてくる銃弾の他に、オプションでいくつもの銃弾をオーダーできます。そのオーダーは出国前に申し込むのですが、現地で頼んでドルで買っても問題ありません。


 メジャーな銃弾としては、9ミリ・パラベラム弾があります。現在、各国の軍隊はこの9ミリの拳銃弾を使用していることが多いと思います。


 45口径の口径が11.5ミリですので、9ミリは少し小さい銃弾になります。

 そもそもが第二次世界大戦のころにゲオルグ・ルガー氏が自動拳銃用に開発したのが9ミリルガー弾で、現在でもこの9ミリ口径の拳銃はめちゃくちゃ多いです。


 射撃旅行の当時に流行っていたのは、なんといってもベレッタ92F。映画『ダイハード』や『リーサルウェポン』で活躍した最新型の自動拳銃です。


 またアメリカの刑事ドラマ『刑事スタスキー&ハッチ』でスタスキー刑事が使用していたスミス&ウェッソンM59も9ミリオートですね。

 古い人には、ドラマ『太陽にほえろ』で神田正輝さんが使っていた銃と言った方がわかりやすいでしょうか。


 この92FとM59はどちらも、ダブルカラム・マガジン、すなわち複列弾倉を採用しています。マガジン内に2列、正確には2列交互に銃弾を装填し、ガバメントなどの2倍、なんと15発の装弾数を得ています。


 これは9ミリ弾が小さいから可能なのですが、のちに45オートでもこのダブルカラム・マガジンを採用したハイキャパシティーというカスタムガンが大流行りします。


 9ミリオートは反動が軽く撃ちやすい印象です。トリガーを引くと軽快に銃口が跳ね上がります。このときの射撃ツアーでは、2日目が射撃レンジ貸し切りだったので、自由に撃つことが出来ました。通常では出来ない、空き缶を撃ったり、ポリタンクを撃ったりもやったのですが、なんといってもラピッド・ファイアが出来たのが良かったです。


 ラピッド・ファイアとは、いわゆる連射のこと。これ通常の射撃レンジでは禁止ですので、決してグァムとかハワイとかではやらないでください。


 9ミリオートは、ダブルアクションの物が多いです。

 ベレッタ92Fもスミス&ウェッソンのM59も、一発目はトリガーストロークの長いダブル・アクション──すなわち大きくトリガーを引いてハンマーを起こし、そのままトリガーを引き続けてハンマーを落とし撃発する──で撃ちます。


 で、2発目からは、ハンマーが起きているので、そのままトリガーをちょっと引くだけで、シングルアクションにより、もう「流れ落ちる砂のように」連射ができます。


 すなわち、バババババっと連射が出来るんです。──まあ、45口径でもやろうと思えばできるんですが、ちょっと反動がきつくて難しい。


 そこへいくと、軽量多弾数で、多数の銃弾をターゲットに撃ちこむという考え方の9ミリオートは連射がしやすいです。

 はじめてやると、ババババっと銃口が暴れるように上へ向いていくのですが、慣れれば簡単です。

 余談ですが、『刑事スタスキー&ハッチ』の名シーンで、スタスキー刑事がM59をで、犯人相手に15発全弾ぶち込む演出もあります。


 ぼくはこのときの射撃ツアーで、92FもM59も撃ちました。ワルサーP38も撃ったような気がしますが、よく覚えていません。ただ、ワルサーはもう旧銃なので、自動車で言うならクラシックカーにあたります。旧銃のモーゼル・ミリタリーも撃たせてもらいましたが、調子はあまり良くなかったです。


 反面、最新式のベレッタの快調だったこと。とはいえ、ダブルアクション・オートはワルサーP38すなわちルパン三世の愛銃から始まります。有名なベレッタ92Fは、そのメカニズムは、ほとんどワルサーP38と同じだそうです。



 さて、そろそろマグナムの話をしましょう。

 マグナムといえば、リボルバーです。あの有名なコルト・パイソンを撃ってきました。これ、人によってはもの凄く嵌まる銃らしく、市役所マンの人は延々これを撃っていました。ぼくも撃ちましたが、とくに感動はなかったです。ということは、やっぱ撃ちやすいのかなぁ。

 なにしろ、44マグナムに比べると、中途半端な印象が強いんです。



 ということで、44マグナム。本物のマグナムをこのときに初めて撃ちました。

 スーパー・ブラックホークもあったのですが、主にスミス&ウェッソンのM629を使用しました。スーパー・ブラックホークはシングルアクションなので、いちいちハンマーをコックしなきゃならないし、それ以上に大量の弾薬を消費する場合、リロードがあまりにも! ええ、あまりにも!めんどくさすぎる。


 スーパー・ブラックホークはシングル・アクションです。サイドにあるローディング・ゲートを開き、シリンダーを回して装填位置から一発ずつ銃弾を入れていくのです。これが少しめんどくさい。が、それ以上に、腹立つほどめんどくさいのが、排莢です。


 銃弾、とくに火薬量の多いマグナム弾は、撃った後の薬莢でべたついています。これをシリンダーから取り出すには、イジェクション・ロッドという細い棒をつかいます。


 シングル・アクションの場合は、銃身の斜め下についています。これをシャコッと引っ張って、弾倉に入っていた空薬莢を出すのですが、シングル・アクションだとこれ、一発ずつ出す必要があります。いやもう、めんどくさいことこの上ないです。


 いっぽうダブルアクション・リボルバーだと、弾倉をスイングアウトして、イジェクターをがしっと叩けば、薬莢は6発いっきに排出できます。これほんと、マジ便利です。


 というわけで、ぼくはずっと44マグナムをM629で撃ってました。

 ほんと、何発撃ったのか記憶がないです。44マグナム弾を箱単位で買って、撃ちまくりました。100発か200発か覚えてません。というより、そもそも数えてなかった(笑)


 44マグナムの撃ち味はというと、やはり心に響く強烈なものです。

 トリガーを引くと、ブオンと銃が跳ね上がり、こちらはその反動で一瞬動きが止まります。撃った瞬間、顔に熱風が吹き付けてきます。


 連射は無理です。これはもう映画『ダーティー・ハリー』のまんまです。ブオンと跳ね上がるので、銃口をもどさないと次弾が撃てない。9ミリのようにラピッドはできませんが、その必要がないほど力強い銃弾です。


 ただ、当たらないとノーダメージですから、連射できる9ミリが警察や軍隊で重宝されるのはよく分かります。すなわち、44マグナムは阿呆が使う銃弾です。山で熊相手に護身用で持っていくのが正解です。


 その阿呆の銃弾を延々撃ち続けて、しまいにはぼくの親指と人差し指の間の皮膚は真っ赤に腫れてしまいましたとさ。

 でも、素晴らしかったです、44マグナム。

 ブラボー、マグナム。これぞ、トリガー・ハッピー!


 このときに、デザート・イーグルも撃ちました。

 イスラエル製の44マグナムを使用する自動拳銃です。ゲームなんかによく出てくるんですかね。ガスガンは、日本でも人気でしたが、実銃はクソです。


 火薬量の多い44マグナムを撃つため、可動部がべたついてすぐに作動不良を起こします。動かなくなると、クリーニングが必要です。せっかくのマグナム・オートなのに、すぐに動かなくなるし、そもそも44マグナムは連射に向きません。


 みんなして、「これ、なんのために作ったんだ?」と首を傾げていました。

 事実、最近はその名前もあまり聞きません。


 明日はライフル銃の話をします。



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