第220話 ショットショー


 さて、一行がサンフランシスコからヒューストンまで移動したのには理由があります。

 「ショット・ショー」というものに参加するためです。


 当時のぼくは、ショット・ショーがなんであるか分かりませんでした。

 これはいわゆる銃器メーカーの新作発表会です。のちにぼくは日本で飲食関係の仕事につき、食品展示会というのに行って、「ああ、これの銃器版がショット・ショーだったのか」気づきます。


 ちなみに、食品展示会では、国内外の各メーカーが新作の食品を展示し、試食し放題。美味しかったら、パンフレットをもらったり、その場でサンプル請求したり、発注したりできます。一度ぼくはアイスクリームをサンプル請求して、アイスクリームなんか販売していないお店のスタッフ全員で美味しく頂いた経験があります。


 さて、ショット・ショーの話を始めましょう。

 会場はヒューストンのドーム球場でした。当時日本にドーム球場なんてものはなかったので、ぼくはびっくりしました。これが「がんばれ!ベアーズ」に出てきたドーム球場ってやつですか! 調べたら、まさに映画に出てきた球場でした(笑)

 とまあ、若者おきざりの話題は置いておいて。


 このドーム球場内に、大小さまざまな銃器メーカーがブースを展開し、そりゃもうすんごいお祭り状態です。

 小さい町工場的なメーカーから、日本でも名の知れた大企業まで。ドーム球場の中にひしめきあっています。


 ちなみに、休憩ブースも用意されていて、ホットドッグ食べ放題、コーヒー飲み放題です。ホットドッグは、切れ目の入ったパンにソーセージ自分で入れて、刻み玉ねぎよそって、ケチャップとマスタードかけるセルフ・スタイルです。どかっと置いてあるので、好きなだけ食べていいんです。

 コーヒーも飲み放題。

 コーヒーは、「へー、アメリカってこうなんだ!」と驚いたのですが、あんがい飲み放題な場所が多かったです。日本の緑茶の感覚ですね。


 いろいろな展示ブースをのぞき、行くたびにおっちゃんがチラシくれるんで何かと思ったら、仕入れてもらいたいんですね。あとで分かったんですが、このショット・ショー。タカハシさんの経営しているガン・ショップの店員ということでID発行してもらって入場していたのでした。


 会場内をぶらぶらしていると、株屋さんがやってきて、いいました。

「あそこの狙撃銃で、遠くの人を狙ってトリガー引いてみ。ガクッと揺れるから」

 そういってH&K社のブースを指さします。置いてあったのは、見たこともない滅茶苦茶かっこいい狙撃銃。当時はまだ有名にはなっていませんでしたが、H&K社、すなわちヘッケラー・コッホ社の狙撃銃PSG―1です。あのメタルギア・ソリッドに出てくる奴ね。


 クソ重い狙撃銃を構えて、ためしに遠くの人を狙ってみました。もちんそれ、実銃です。弾は入っていないけど。


 スコープごしに通路の果てにいるおじさんの頭にクロスゲージを合わせます。おじさんは家族と一緒に他社のブースを楽しそうにのぞきこんでいて、まさか自分が狙撃銃のスコープのクロスゲージを頭に合わされているとは気づかず笑っています。


 ──恐ろしてく、トリガーが引けませんでした。


 株屋さんは、トリガー引くと、ガクッと揺れると驚いていましたが、よく引いたな! これ、すっごく怖いです。できませんでした。


 その後、警察オタさんたちと合流しました。警察オタさんは、ビアンキ・シューターのパフォーマンスを見たと言っていました。残念ながら、ぼくは見損ねてしまった。


 みなさん、「ビアンキ」って聞いて何を思い出しますか? 自転車ですか?

 ぼくは、ホルスターです。

 ビアンキは、ホルスターの有名メーカーです。逆に、なんで自転車出しているのかほくには分かりません。


 で、そのビアンキが、主催するハンドガン大会があり、それが有名な「ビアンキ・カップ」。その選手であるシューターの人が来ていて、パフォーマンスとしてガバメント系カスタムガンのマガジン・チェンジを披露したそうです。


 カスタムガンすなわち競技用ハンドガンにはいろいろ改良がされていて、たとえばマガジンの底部にはウエイトをかねたバンパーがついています。

 カスタムガンでは、マガジンキャッチ・ボタンを押すとマガジンが落下します。

 シューターは、マガジン・チェンジを、それを利用して、左手でポーチからマガジンを抜きながら、右手でボタンを押してマガジンを落としつつ、すかさず新しいマガジンを銃把に装填します。その間、一秒もかかりません。

 これがコンバット・シューティングのマガジン・チェンジです。


 そのマガジン・チェンジを披露してくれたそうです。ちなみに、ひげ面のシューター。おっさんなんですが、全米レベルの一流アスリートです。めちゃくちゃスタイルがいい。細身で、豹のような体型していて格好良かったです。


 ショット・ショーを1日見て回り、サンフランシスコへ帰りました。

 基本がサンフランシスコで、そちらのホテルに宿泊します。観光も少しあったと思いますが、細かいことは覚えていません。みんなして、タカハシさんのバンであちこち行きます。



 サンフランシスコで食べさせられた変な物①

 バッファロー・シチュー。

 バッファローといっても、PC機器ではありません。動物の方です。ビーフシチューみたいなんですが、肉がとにかく硬い。全然美味しくないです。



 サンフランシスコで食べさせられた変な物➁

 ロブスター。

 タカハシさんに連れていかれた、ちょっと高級な料理店で食べたロブスター。一匹まるまる皿にのってきました

 初めて食べましたが、あれは美味しいんですかね? ちょっと首を傾げる味でした。

 でも、ハサミの中まで肉がつまっていて、それがつるっと出てきて感動しました。



 サンフランシスコて食べさせられた変な物➂

 マクドナルド。

 みんなでマクドナルドにいって、ハンバーガーを食べました。

 会計のときに50ドル紙幣を出したら、10ドルからのお釣りしかもらえませんでした。50ドルだ、50ドルだと主張しましたが、黒人の女の子はノーの一点張りです。間違いを認めようとはしません。アメリカでは迂闊に高額紙幣は出さない方がいいなと思いました。

 しかも、アイスコーヒーのSをオーダーしたのに、Lが出てきてるし。と、思って近くのテーブルに座る黒人カップの飲んでいる物を見たら、バケツみたいな巨大なカップにストローが刺さってる!

 これが、アメリカのサイズかよ、と驚きました。とにかくアメリカの食べ物は、すべてがデカい。



 サンフランシスコで食べさせられた変な物④

 ベトコン・ラーメン。

 ベトコンとは、ベトナム人兵士のことです。すなわち蔑称です。いいのかな?この店名、といまは思うのですが。

 このとき出てきたラーメンは、見たこともない透明な麺に変な野菜が入っていて、ほんと、変な味でした。

 まだ日本に、東南アジアの料理が入ってくる前の時代です。結構衝撃的でした。

 しかも、中に入ってる草が、うえっというような変な味で、とにかく嫌だった。

 が、タカハシさんが言うんです。

「この葉っぱはチャイニーズ・パセリっていうんだけど、最初は変な味なんだけど、慣れるとこれがたまらなくなって、無いと逆に物足りなくなるんだよなー」

 ほんとかよ、と当時は思ってましたが、今のぼくはチャイニーズ・パセリ、すなわちパクチーは大好きです。

 そして、ラストに出てきたのは、ベトコン・コーヒー。何か特別に道具で入れるコーヒーなんですが、すげー美味かったのだけ覚えてます。おそらくアメリカで飲んだどのコーヒーよりも美味かった。



 サンフランシスコは観光地なので、港の近くの観光客用の売店で、海老のから揚げみたいなものも食べました。あんまり美味しくなかったです。


 いろいろな話を聞くと、世界中のいろんな料理がとにかく食べられて、そのどれもが世界トップクラスで美味しいのは、日本だそうです。


 一時期東京でベルギーワッフルが大流行りしたときのベルギー人のセリフがこれです。


「こんな美味しいワッフル、食べたことがない!」


 すみません、実弾射撃の話は次回から始めます。



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