第213話 『invert 城塚翡翠倒叙集』を読みました


 先日、『invert 城塚翡翠倒叙集』を読みました。『城塚翡翠倒叙集』とは、『medium 霊能探偵城塚翡翠』の続編で、シリーズ二作目になります。一作目はミステリーの大賞五冠を成し遂げた名作で、まあ、そんなこと以前にめちゃくちゃ面白い。

 まさか、カクヨムで小説を書いてる方々で、読んでいない人がいるとは思えないのですが、一応簡単に解説します。


 『medium 霊能探偵城塚翡翠』のmediumとは、霊媒という意味です。翠色の瞳をもつ美しい女性、城塚翡翠は霊能者で死者の霊をその身に降ろすことが出来ます。それによって殺人事件を解決していくミステリーの連作中編集が第一作目。

 城塚翡翠は霊視と降霊により事件の真実にたどりついたり、被害者の声から事件のヒントを得たりするのですが、そこに証拠能力はなく、犯人を逮捕することはできません。

 そこでミステリー作家の香月先生と組んで、彼の推理とともに殺人事件を解決していきます。が、城塚翡翠はすでに、自分が殺人者によって殺されてしまう未来を霊視しているのです……。


 というような話なのですが、もう鳥肌が立つくらい面白いです。

 本作は連作中編で四つの話が入っているのですが、一貫したひとつの事件が進行しています。ぼくは本作を読んだとき、かなり早い段階で真犯人を予測することができました。みなさんはどのあたりで真犯人を見抜くことができたでしょうか?


 本作のアイディアを思いついたとき、作者の相沢紗呼さんは、これでは読者にトリックが見抜かれてしまうと思い、苦悩し、努力の末にあの作品を書き上げたと言います。

 こういう、書き手の、真摯で手を抜かない態度があり、不断の努力があって初めて、結果としてあそこまでの作品を書くことが出きたのだなぁと感心してしまいます。



 さて、その続編の『invert 城塚翡翠倒叙集』ですが、一作目とは趣向を変えた形式のミステリーになってます。タイトルにある通り、倒叙作品集なんです。


 倒叙作品とは、ミステリーの一形態で、テレビドラマでいうなら『刑事コロンボ』とか『古畑任三郎』とか『チェックメイト』とかいった、最初から犯人が分かっていて、その犯人の視点で物語が進行するものをいいます。


 二作目は、この倒叙形式のミステリーの中編集になっています。

 この二作目の『invert』は、どうせ一作目は超えられないだろうと思って未読だったのですが、先日ふと購入し読破した次第です。


 たしか以前、カクヨムでミステリーを書いて人気だった坂井令和さんに訊いたとき、一作目より落ちるという評価だったので、読まずにいた、というのもあります。


 が、今回読んでみて、一作目に負けず劣らず面白いと感じました。もちろん、どちらが?と問われると一作目に軍配は上がると思いますが、二作目でもクライマックスで「マジか……」と思わず呻くクオリティーでした。いや、ほんと、「マジか……」ですよ。



 しかし、倒叙ミステリーにおいて、ドラマ『刑事コロンボ』の大きさは計り知れないですね。

 ドラマ『古畑任三郎』は、完全に『刑事コロンボ』へのオマージュであり、ただしきちんとオリジナリティーも出しています。ただ、『刑事コロンボ』をなぞったトリックもいくつかあります。「ああ、これは『二枚のドガの絵』だな」とか。


 ドラマ『古畑任三郎』は、あるドラマの打ち上げで、脚本家の三谷幸喜さんが関口プロデューサーと、どちらが『コロンボ』に詳しかで勝負し、その結果製作されたという都市伝説があります。三谷さんは否定していますが。

 それくらい、古畑はコロンボです。コロンボがスタート・ラインというのは間違いないです。ドラマの中で古畑任三郎は、警部補という役職です。が、本家のコロンボは、警部です。

 しかし、コロンボの実際の階級は、実は日本でいうと警部補にあたるらしいです。吹き替えの語呂が悪いので、警部に書き換えられているんだとか。そういうマニアックな知識をなぞって、古畑は警部補です。



 余談ですが、古畑任三郎の任三郎は、俳優の時任三郎さんからとっているそうです。


 時任三郎さんは、時任ときとう三郎さぶろうなのですが、業界の方々は愛称として、とき任三郎にんざぶろうさんと呼ぶそうです。

 昭和の時代の人気歌番組『ザ・ベストテン』(生放送)で、アナウンサーの方が時任三郎さんのことを「トキ・ニンザブロウ」さんと呼んでしまい、視聴者からものすごい数の間違い訂正の電話が局にかかってきたというのは、事実です。




 さて、話を『invert 城塚翡翠倒叙集』にもどします。本作は連作中編なのですが、三作しか入っていません。三作目の「信用ならない目撃者」が長編並みに長く、かつ、めちゃくちゃ面白いです。

 読んでいて気づいたのですが、これは『刑事コロンボ』の名作エピソード「5時30分の目撃者」へのオマージュですね。


 本家『コロンボ』の目撃者は、なんと盲人。目の見えない人です。犯人は殺人を犯して逃げるさいに、この全盲の目撃者を車で轢きそうになるんです。

 そして、コロンボ警部は、この目の不自由な目撃者をつかって犯人を追い詰めます。あれも名作でしたね。とくに最後のコロンボのセリフがかっこいい。


「5時30分の目撃者は、×××だ」


 ちなみに、『invert』の「信用ならない目撃者」は、酔っぱらった女性です。ちょっとハードルは下がってます。


 とはいえ、とはいえですよ。

 「信用ならない目撃者」は素晴らしかったです。が、今回のお話はここらで終わりにしようと思います。ネタバレ厳禁のミステリーの内容について、これ以上は語れません。これでも少し長く語り過ぎてしまったくらいです。

 結局はひとこと。読んでない人は読んで下さいな、ということで。


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