第194話 『トップガン・マーベリック』を観てきました



 ギャァァァァァァーーー! 面白かったー!


 っていうか、前作『トップガン』より遥かに面白くないですか? これ。



 まず、冒頭。

 絶対に不可能なミッションの解説から入ります。


 峡谷内を、対空ミサイルの攻撃を受けないように低高度で侵入し、尾根を背面飛行で越えてからのターゲットへのミサイル攻撃。ただし、敵にキャッチされる危険があるため、タイムリミットが設定されていて、その時間内に攻撃を成功させるためには、亜音速での飛行が必至。

 狭い峡谷内を、崖にぶつからず、低高度で、高速機動!


 なにこの、ゲーム『エースコンバット』みたいなミッションは(笑)


 敵の対空攻撃を避けて峡谷内を高速飛行し、一点に攻撃をヒットさせるというミッションは、古くは映画『スター・ウォーズ』からあります。あっちは直線でしたが。

 もしかしたら、もっとも古い元ネタがあるのかもしれないですが、ぼくは知りません。


 あと、有名なところではマンガ『エリア88』。

 ゲームの『エースコンバット』や『エアフォース・デルタ』などに必ずある峡谷ミッションは、どちらかというとこの『エリア88』から来ていると思います。



 とにかく、この峡谷ミッションは、やったことある人は分かると思いますが、難しいです。

 戦闘機は、足のペダルなんか踏んでも曲がらないので、とにかく旋回するときは、曲がりたい方向へ機体を90度傾けて、操縦桿を引いて曲がります。

 

 右に旋回して、そこから切り返して左旋回なんてときは、右に90度傾けて、そこから反対へ、今度は180度回す必要があります。この切り返しがちょっとでも遅れると、速度がある場合は、曲がり切れずに壁に激突します。


 それを、低高度。峡谷から上へ出ないようにして行うのは至難の業。しかも、当然、先がどうなっているのなんて見えないし……。



 と、今回の『トップガン』は、峡谷ミッションという目的が最初から決まっているのがいい。

 そして、それを成功させるために、かつて『トップガン』を卒業したエリート・パイロットたちが、再びトップガンに集められるのです。

 その教官として任命されるのが、トム・クルーズ演じるマーベリック! (ちなみに、マーベリックはタッグ・ネームで、戦闘機パイロットにつけられるあだ名です。本名じゃないよ)


 もう、この展開が、映画『メタル・ブルー/アイアン・イーグルⅡ』とか映画『ハートブレイク・リッジ』とかを思い出して、これだけで燃えますよ。


 『ハートブレイク・リッジ』は、クリント・イーストウッド主演の陸軍ものの映画ですね。イーストウッドが鬼教官なんですが、物語の後半、彼が鍛えた若者どもが実戦投入されるのも同じです。


 しかも、集められた若手パイロットの一人は、かつてマーベリックの後席をつとめ、事故で亡くなった親友ギースの息子。彼はそんな過去の経緯から、マーベリックを激しく恨んでいます。



 集められたエリート・パイロットたちは凄腕ぞろいなんですが、彼ら相手にマーベリックは空中戦をいどみ、ぼっこぼっこに撃墜しまくります。


 この空戦シーンも素晴しいです。

 ただ、空戦映像に関してだけは、映画『ナイツ・オブ・ザ・スカイ』の方が上かなぁ?

 といっても、『ナイツ・オブ・ザ・スカイ』なんて知っているひとほとんどいないでしょうけどね!



 今作の主役戦闘機は、F/A-18ホーネット。ただし、エアインテイクが四角いので、高性能機のスーパー・ホーネットです。

 ただし、現行の最新鋭機、F22ラプターやF35ライトニングとかに比べるとすこし古く、性能が落ちます。

 そこをうまくストーリーに盛り込んでいるところもいい。


 旧作『トップガン』は、戦争映画というより、青春映画でした。一応バトルはあるけど控えめでした。


 ただし、今作『トップガン・マーベリック』は、まずバトルありきでスタートします。が、それでもきちんと青春映画。主人公はおじさんですが。

 でも、そのためのキャラづけも上手い! 本来なら中将になっているはずのマーベリックが大佐キャプテンってところとか。

 もう、キャプテン・マーベリックですよ!



 そして、人間関係に問題を残したままストーリーは、ミッションへと突入。


 もう、このクライマックス・バトルは秀逸です。

 不可能なミッション。前半に張られた伏線の回収。気持ちいいくらいのピンチの連続。


 これからご覧になろうという人に、劇中でスルーされている軍事知識を少し解説します。



 戦闘機はミサイルに狙われたとき、『チャフ』か『フレア』という欺瞞物質を撒いて、ミサイルを誤誘導します。

 『チャフ』はおもにレーダー誘導のミサイルに対して、『フレア』はおもに赤外線誘導のミサイルに対して使用されます。『トップガン・マーベリック』の作中では、フレアが使用されています。


 なので、劇中で、戦闘機がぼんぼこ花火みたいなものを撒き散らして旋回していたら、「ああ、これは赤外線誘導のミサイルを外すための囮としてのフレアだな」と思ってください。


 また、劇中では、ミサイルを回避するさいに、スロットルをしぼって熱を落とす演出もありました。←あったと思う。



 ラスト・バトルは、かの名作『ファイヤー・フォックス』もちょっと入っていて、めちゃくちゃ興奮します。

 そして、そのための伏線が前半にちゃんとあったのに、まったく気づきませんでした。


 エクセレント! 

 そして、ブラボー! &ついでにチャーリー!


アクション映画としても素晴しい。が、『ミッション・インポッシブル』みたいに非現実的な展開にならず、ぎりぎりのところで踏みとどまって青春映画に納めているのが凄すぎる。

 ほんと匙加減が凄いです。


 これまで戦闘機映画というと『トップガン』が代表作でしたが、その続編である『トップガン・マーベリック』がそれを破って筆頭に立った感じです。

 本作の素晴しいところは、戦闘機にまったく興味のない人でも、その面白さがいささかも失われないところです。




 そういえば、ちょっと前。戦闘機がでてくる小説を書くために、戦闘機のフライト・シミュレーターに乗ってきたんです。

 そのとき乗ったのが、F16ファイティング・ファルコンとF35ライトニングとFA18ホーネットでした。


 劇中で使用されるホーネットですが、すげー乗りにくかったです(笑) 乗りやすいって聞いてたけど……。


 スプリットS、つまり縦方向、下への180度旋回で地上に激突しました。劇中ではなんとか立て直してますが、ふつうは無理で墜落します。

 原因は高度不足。つまり、低い高度はそれだけ、危ないということです。

 マンガ『頭文字D』でも言ってますね。

「上りのミスはなんとかごまかせるが、下りのミスは即事故だ」と。それくらい、重力の力は恐ろしいです。



 また、これも余談ですが、劇中で、戦闘機の噴射ノズルがたまに火を吹いてます。あれは「アフターバーナー」です。


 ボタンを押したり、スロットルを一番上まで入れると、オンになる装置で、車でいえばターボ、『ドラゴン・ボール』でいえば界王拳です。


 ノズルが火を吹いたら、「あ、本気だしたな」と思ってください。

 ホーネットは、スロットル・レバーを一番上に入れて、そこからカチっともう一段あげると、アフターバーナーがオンになったと思います。

 アフターバーナーを入れると、加速力は増しますが、燃料をめちゃくちゃ消費するそうです。



 映画も面白かったですが、いろいろ刺激も受けました。

 この映画を観て、「そうだ、無人戦闘機と有人戦闘機のバトルSFを書こう」と長編のアイディアを思いつきました。


 いかん。これは、ぼくにしか書けない、ぼくなら書ける物語だ。書かねば……。そして、絶対に面白い物にせねば!



 さて、じっさいの話ですが。


 じつは現代の戦闘機は、格闘戦はしません。

 遠距離からミサイルを撃って終わりです。ちかづいて機銃を撃ち合うことは、もうあり得ない時代なんです。

 だから、空戦技術でマーベリックは無敵の強さを誇っていたのです。そして、すでに時代はドローンなどの無人機が主役となり始めており、戦闘機パイロットはやがて絶滅します。

 そんな時代の最後の戦闘機映画。それが『トップガン・マーベリック』

です。


 すでに実戦配備がはじまっている無人機たちは、どれもこれも、まるで深海魚のように不気味なフォルムの攻撃機械です。


 が、超音速で飛翔する、人が乗る戦闘機は、どれも天翔ける鳥のように美しい。

 やがて消えて行く戦闘機パイロットたちを描いた、最後の時代の映画。


 どうぞ、ご堪能ください。


 もしかしたらぼくは、もう一回くらい劇場に観に行くかもしれません。



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