第154話 行動描写解説


 あれ? 行動描写解説について語ったことありましたっけ? あったと思ったのは、ぼくの気のせいでしょうか? してなかったかな?

 『行動描写解説』とは、ぼくの造語です。これは単純な執筆上の技術で、だれにでも出来ます。



 先日カクヨムで読んだ短編小説で、ぼくは主人公が中学生だと勘違いしました。実際には大学生でした。


 また、かなり前に読んだ長編小説で、「少女」と描写されたキャラクターを、ぼくは小学四年生くらいと勘違いしました。実際には十七歳でした。まあ、少女と言っても範囲広いですからね。


 そして、別の長編では、冒頭から「私」が居酒屋で酒を飲むシーンが続くのですが、この「私」が男か女か延々分からないということもありました。



 こういうこと、WEB小説では、よくありますね。


 読み手目線では、「おい、作者。きちんと説明しろ」となります。


 書き手目線では、主人公の「私」は自分ではすっかりおっさんのつもりで書いていたとか、文脈的にうまく解説が入れられなかったとか、いろいろ事情はあるでしょう。

 が、作品は、そこに書いてあることがすべて。コメント返信で説明しても手遅れですね。



 さて、そんなときに使うのが、『行動描写解説』です!ポキポン



 まずは使用例から行きましょう。作中でキャラクターにこんなセリフを言わせてみましょう。



「なあ、ラッキー。明日の体育の授業って、タイム取るんだっけ?」



 これは『電影竜騎士団』のタクトのセリフです。本編と関係ない雑談なんですが、このセリフを言ったことで、いくつかの事実を解説することができます。


 ここで分かる事実は、「タクトとラッキーが中学生とか高校生とかであり、しかも二人がおなじクラスだということ」です。


 これを説明文で解説するとかなり長くなります。が、キャラクターの行動あるいは言動として、それを描写することによって解説すれば、手短に、そして自然に読者に伝えることが出来ます。


 あと、ちょっと高度なテクニックですが、キャラクターの言動および行動として描写して解説する場合、それが事実ではなくても構わない(笑)というメリットがありますね。

 例文のセリフでタクトは「明日の体育の授業」について触れています。この解説を地の分でやると、これはでなければなりません。が、セリフなら嘘でも構わないのです。



 小説の冒頭は、とにかく気を使う必要があります。

 読者は右も左も分からず作品世界に放り込まれています。解説型の作者ならきちんと解説してくれるものを、描写型の作者は描写に夢中になって、伝えなければならない事実を伝え忘れます。


 また、解説型の作者でも、延々と解説したり、あるいは解説しなくてはならないのに、それが文中にコンパクトに挿入することができずに、諦める場合もあります。


 そんなときこそ、行動描写解説です。



 たとえば、こんな使い方もあります。


     ☆☆☆


 私は二十歳の誕生祝いに兄からもらった腕時計を一瞥した。女の手首にはすこし無骨すぎるダイバーズウォッチだが、時間にルーズな兄からの贈り物のくせに、この時計が狂ったことはこの十年一度もない。

 十五時ジャスト。今まさにおやつの時間だ。


     ☆☆☆


 時間を確認するだけの場面ですが、主人公の年齢やら、兄の存在やらが、どさくさに紛れて解説されています。



 これは、もともと『SF作法覚書』にて紹介されていた手法です。


 まあ、簡単に要約すると、


 ──退屈な講義をセリフの形でキャラクターに言わせても、それが退屈な講義でなくなることはない。読者に伝えたい情報があるならば、キャラクターの行動として読者に見せるようにする必要がある。

 ただし、キャラクターたちに、彼らがすでに知っていることをわざわざ語らせることは、してはいけない。



 要約すると、こんな解説です。もうちょっと長いんですが省略しました。


 ここから少し進歩させて、ぼくが使用しているのが、行動描写解説です。

 キャラクターの行動を描くことによって、読者に対して解説するやり方です。



 なーんて書くと、すげー偉そうですが、これを知識として知っていると、無限に応用が利きます。



 また、これの簡易版で、「サブリミナル」という小技もあります。これは「それを連想させる単語を挿入する」だけです。



 たとえば冒頭で挙げた、十七歳の「少女」を小学生と勘違いした例。

 まず、書き手は、読者がいろいろ勘違いすることに気を使い、「少女」だけでは小学生と思い込んでしまう読者がいるかも知れないと臆病になる必要があります。

 その上で、その勘違いを避けるため、言葉を変えるなら、書き手がここと思い定めた場所に、不特定多数の読者を正確に追い込むために、予防線を張る必要があります。


 その「少女」が十七歳であり、「彼女は十七歳なのだ!」と書きたくない場合、彼女に関する描写のどこかで「豊かな胸」とか「胸が揺れる」といった言葉を入れればいいでしょう。

 女性を胸だけで判断するな!と怒られるかもしれませんが、少なくともこの「胸」という単語で、彼女の年齢が十七歳である方向へ読者を誘導することができます。




 とまあ、いつになく真面目に創作論みたいなことを語りましたが、飽きたのでここらでやめます。



 で、話変わりますが、「電撃の新文芸」の募集が始まりましたね。

 ぼくは『ときめき☆ハルマゲドン』を「熱い師弟関係」で応募しました。

 まあ、あいつら全く熱い師弟関係ではないですけどね。



 あとひとつだけ、雑談させてください。


 実は、半年ほど前に、新しい万年筆を買いました。

 サンプルで店頭に置いてあったパーカーの極細を試し書きして、そのぬるっとしたインクフローに感じ入り、金のペン先の万年筆が欲しくなったんです。


 いろいろ探して結局プラチナの「♯3776センチュリー」の極細を買いました。ローレルグリーンという、ほとんど中の見えないグリーンのクリアボディーです。


 プラチナのペン先には、極細もあるのですが、サンプルを試し書きしてみたら、細すぎる! いやもうミシン針か!ってくらい細いんです。紙に穴あくんじゃないか?という細さ。

 書き味もカリッカリッで、これレコードの上を走らせたら音楽聞こえてきそうな書き味です。


 さすがに超極細はないわ、と極細にしました。が、プラチナの技術と拘りには恐れ入った次第です。



 で、最近はこのセンチュリーの極細でプロットを書いていたのですが、サンプルの試し書きよりも、ずっと細いんです。まるでシャーペンのような書き味です。それはそれで扱いやすいんですが……、なんか違うと思っていました。


 ところが、プロット一本、すなわち『電影竜騎士団』のプロットを書き終えたあたりで、線が太くなり、書き味も変わってきました。

 そういえば、カクノ(1000円の万年筆)も、ある程度書くと、急に線が太くなったことを思い出しつつ、使っていたのですが、ある時点で内部のコンバーターがインク洩れするようになったんです。

 コンバーターは内部にあるインクのタンクですから、多少のインク漏れは構わないのですが、補充の時に指がインクで汚れる。

 そして、なんか最近、キャップを取るとペン先がインクで汚れている。もしかしたら、コンバーターの気密がゆるくて、漏れているのかも。


 仕方なく、新しいコンバーターを買ってきて、入れ替えようとしたんです。


 が、買ってきた新品のコンバーター。ピストンがスカスカで、しかも稼動しない。不良品か?と焦りましたが、パーツが緩んでいるだけでした。ねじって締めたら、直った。


 ……だがまてよ。


 もしかして!と、今まで使っていたコンバーターを確認すると、……やっぱりパーツが緩んでいる。壊れたんじゃなくて、緩んでいるだけじゃん。締めたら直った、かも。


 かも、というのは、水洗いだけして使ってないから漏れが確認できないんですが。



 どうやら、プラチナのコンバーターは、分解可能みたいです。


 たしかに、分解できると、クリーニングができていいですね。でも、分解できるコンバーターって、必要ですか? プラチナさん。

 まさか分解できるとは思わなかったから、買い替えちゃったよ。たった500円だけど。



 なんか万年筆って、唐突に分解できる商品があって、ビビります。ペリカンなんて、分解掃除できるということ、買ってから30年たって知りました。

 分解できるって、それはそれで凄いんだけど。


 ちゃんとその辺は、どこかでだれかが説明して欲しい。



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